第21話 魔女

 液体が注がれる音は落ち着くのはなぜだろうか。


「はい、どうぞ」

「ありがとう・・・」

 湯気が立つ紅茶を見つめて、2人の紅茶にも注がれるのを待つ。紅茶を入れる姿も様になって美しいジャネット。

 私は3人みんなの紅茶が注がれたのを確認して、カップを持ち、香りを愉しむ。

 甘酸っぱい香り。

 

 私はゆっくりと口にカップを持っていく。

「はぁ・・・」

 暖かい。


 私は目を閉じ、味と香りに集中させる。

 ———あぁ、喉から徐々に胸の方まで暖かくなり、満たされた気持ちになる。

 私の心が黒い氷に覆われていたとすれば、それを溶かしていくようなと安らぎ。

 少し肌寒くなってた秋に紅茶はとてもおいしいと思った。


「おっ、うまいな。これ。でも、菓子はないのか、菓子」

 ハンスはウキウキしながら、辺りを見渡す。

「・・・やっぱり、あなたは疲れていないでしょ、ハンス」

「いや、疲れてるぜ?右手がたまに震えるんだぜ・・・。」

 左手で右手を抑える、ハンス。

「ふ~ん・・・ちょっと見せて」

 

 ジャネットはハンスの右の手のひらを両手で触診していく。それが終わると、今度は手首の内側を親指でぐっと押す。そして、何かを探すように押す場所を変えていく。

「おうっと」

 ジャネットが肘と手首の真ん中よりやや、手首寄りの場所を押すと、ハンスの手がゆっくりと指が曲がっていく。


「ふ~ん・・・そうっ」

 ジャネットは立ち上がり、引き出しから小物入れを取り出す。

 蓋を開けて、薬指にでその中のどろっとした液体を掬うって、先ほど反応があった場所に塗り込んでいく。

「冷っ」

 ハンスはぶるっと背中を震わせる。


「あなたには冷、ミロには温」

 パチンッ


「お・・・っ」

 ハンスは手のひらを閉じたり、開いたり自分の右手を確かめる。

「冷たくなくなったら、なんか・・・拳が少し軽くなった気がする」

 私は紅茶を飲みながら、ハンスの様子を見る。

(へぇ・・・)

 嬉しそうなハンスの顔から、今度はジャネットを見ると気づいた彼女と目が合う。


「おいしいかしら、ミロ」

「うん・・・」

「気持ちは少しは晴れたかな?」

「そうね」

「それは良かった」

 にこりと笑うジャネット。


 彼女は私の方に来て、耳元で囁く。

「でも、私が癒せたのは体の疲れ。あなたの心の奥の闇は・・・全然癒えていないようね」

「え・・・っ?」

 私も吐息ぐらいの声で驚いてしまう。

「今度は、一人で来ないかしら」

 ハンスは自分の右手に興奮していて私達には気づいていない。

「あなたにだけなら・・・面白いものを見せてあげるわ」

 ジャネットはウインクをしながら、また妖艶な笑顔を私だけに見せてきた。

 私は彼女の見通す力と、その妖艶さをこう表現すべきだと思った。


 ———魔女と。

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