第20話 紅茶の準備

(あのあと、どうなったんだっけな)

 私はジャネットとの記憶を思い出そうとするが、あまりよく思い出せない。あの時に飲んだ紅茶の香りと味はこんなにも記憶に残っているのに。


コンッ、コンッ


「おーい、ジャネット。いるか?俺だ、ハンスだ」

 そう言って、ハンスはもう一度同じようにドアを叩く。


「・・・はぁ~い」

 ドアの遠くの方から懐かしいジャネットの声が聞こえた。

 声のトーンが前よりも大人っぽくなったと私は思った。


「お待たせ、ハンス」

 ゆっくりと開いたドアからジャネットが顔を出してきた。

 前と変わらず誰でも受け入れるような優しい笑顔で私は安心した。


「あらっ、珍しいお客様じゃない」

 ジャネットはハンスの隣にいた私に気付く。

「どうも、お久しぶりね、ジャネット。元気にしてた?私はちなみにそんなに元気じゃないけど気にしないでね」

 元気かどうか聞いた途中で、自分が元気にしているかどうか聞かれるのが、嫌になったので、前もって自分から言ってしまった。

「あらっ、私は元気だけど・・・」

 変な言い方にさすがのジャネットも反応に困っている。

(どうしようか・・・)


「そうなんだ、俺もこいつも元気がないから、ジャネットのお茶でも飲めば、元気になると思って来たんだ。だから、お茶を一杯くれよ」

 そんな私たちに気を使ったのか、無神経に言ったのかわからないが、ハンスが丁度いいところで発言してくれた。

「あら、そうなの二人とも。無理は・・・駄目よ?」

 ハンスの顔を見るジャネット。

 ハンスはへへっと愛想笑いをする。


「ミロ・・・あなたは・・・うん、そうね。二人ともお茶を飲んでいきなさい」

「やりぃ~」

「あなたからは銀貨2枚貰おうかしら?」

「げっ、マジか」

 そう言って、ハンスはジャネットの家へ入っていく。

「あなたも、どうぞ。ミロ」

 ドアを抑えているジャネットに会釈をしながら部屋に入っていく。


「わぁ・・・」

 部屋に入ると観葉植物たちがお出迎えをしてくれた。

 季節は秋だと言うのに元気に花を咲かせている。

「これって、全部食えるのか?」

「ちょっと、ハンスっ」

 私はハンスのことを注意する。


「いいのよ、ミロ。試しに食べて見なさいよ、ハンス」

「おう、じゃあ・・・モグモグモグモグっ」

 ハンスは近くにあった花つぼみを食べる。

「んー、まっ。悪くはねぇが・・・って感じか」

「あら残念。その隣の花は猛毒だったのに・・・」

 ジャネットが呟く。


「えっ!」

 ハンスが青ざめた顔になる。

「ふふっ、冗談よ。私がそんなことするわけないじゃない」

「そっそうだよな・・・」

「だって、あなたが倒れたら、よだれとか垂らして床を汚しそうだもの」

「おい、床の心配かよ」

「ちなみにそっちに植えてある方の花には毒があって、痙攣だったり、嘔吐、発熱、意識不明、顔が腫れるとか・・・死んじゃうのもあるから気を付けなさいね」


「ひぇ・・・っ」

 ハンスが苦笑いする。

「じゃあ、お茶の準備をするから。2人とも

こっちへ来て2人とも座って待ってて」

 そう言ってニコッとしたジャネットの顔は優しさに妖艶さを兼ね備えていた。

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