同級の魔女 ジャネット
第19話 過去の道、今の道
進むべき道は決まった。
しかし、夏と共に同志は去り、また一人になった。
季節の変わり目と言うこともあるかもしれないが、色々なことがありすぎて、心が病みそうだ。イライラしたり、ソワソワしたりする。そんな私の唯一の楽しみは、寝ることだ。
———なぜなら
『エヴァレット』
彼はいつものように私に微笑みかけてくれる。
『マリオンヌちゃんのできることを増えたんだ、今度は・・・マッサージできるようになったの。凄くない?私の反応を見て、力の加減ができるのよ?』
だから、声を聞かせて———
私はエヴァレットに抱きつく。
『ねぇ、私からじゃなくて・・・あなたから声を掛けてよ、話をしてよ。そして・・・抱きしめてよぉっ」
私は目が冷たくなるのを感じて、ゆっくりと目を開ける。
切なくて、悲しい・・・そして嬉しい夢。
私はもう、夢の中ですらエヴァレットに素直に甘えられなくなってしまった。
「なぁ・・・俺、もう見てられないよ・・・」
ハンスは私の顔を見て、悲しい顔をする。
「お気遣いありがとう。ハンス。でも、前よりもつらくないの」
「それって・・・もう、心が麻痺してるんじゃないか」
「心は満たされているわ。たまに会いに来てくれるの」
「誰が?」
「エヴァレットよ」
「な・・・っ!!」
ハンスは青ざめた顔をする。
「どこにいるんだ、エヴァレットは・・・」
ハンスは目を合わさずに質問してくる。
「夢の中よ」
「夢・・・?はんっ」
ハンスは鼻で笑う。
「夢を見るのは将来だけにしておけよ」
つーっと頬を涙が伝わるのがわかった。
「・・・すまない。ミロ。俺もお前も少し疲れているみたいだな・・・」
ハンスは自分の頭を掻いて、気まずい顔をする。
「おっ、そうだっ」
ハンスは妙案が思いついた顔をして、ぽんっと手を打つ。
「彼女に会いに行こうぜ、ミロ」
「・・・彼女?」
「あぁ、同級生だったジャネットに。心が疲れたときはあいつの入れたティーを貰えば元気になるぜ」
「ジャネット・・・」
私は複雑な顔をしたに違いない。
茶色の三つ編みお下げを揺らしながら、いつも本を持って歩いていた少女。丸い眼鏡の奥には優しい瞳でわがままで、友達が少ない私にも分け隔てなく優しくしてくれた少女。
「いいの?」
「えぇ、もちろんですとも。一人で飲むよりも二人で飲む方が楽しいもの」
学生時代に中庭で紅茶を飲みながら、読書を楽しんでいたジャネットの近くを私が通りがかるとお茶に誘われた。
「あちっ」
私は淹れたての紅茶を飲もうとするが熱くて飲めない。
「ふふっ」
ジャネットは優しく笑う。私は、息をふーっ、ふーっと吹きかけて、紅茶を冷ます。私は今度はゆっくりと紅茶を飲む。
「んっ・・・おいしいっ」
口に広がる酸味。飲んだ紅茶の花の香りが鼻を抜ける。
「飲んだわね?」
「えっ・・・」
優しいジャネットの声が意地悪な声に変わる。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「・・・えぇ」
私は怯えていたが顔に出さないようにして、お茶を飲もうとする。
「あちっ」
少しは冷めたとはいえ、まだ暑い紅茶が口内を暴れる。
「ふふっ。やっぱりミロさんはかわいいわね」
また、優しい口調に戻ったジャネットを見て、私もその誘い笑いに乗って、不器用に笑う。
「ねぇ・・・?ミロさん。あなたは魔法を信じる?」
私はあの時、ジャネットの瞳の奥が見えなかったのが、今でも覚えている。
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