シャルロットは今日もファイアボールを撃つ
黒幸
どうもファイアボールしか撃てない魔女です
「はぁ……」
これで何度目だろう。
『
そう言われて、今回のパーティーからも解雇されてしまった。
そう、わたしは
ちなみに私のステータスはこんな感じ。
名前:シャルロット・グラース
種族:ハーフエルフ
年齢:26歳
クラス:魔法使い
レベル:3
スキル:
ステータス:
攻撃 33
回避 1
防御 1
器用 1
敏捷 1
体力 1
魔力 30
見事なまでに特化しているなぁ。
そりゃ、そうだよね、攻撃しか伸ばしてないんだから。
攻撃こそ、最大の防御! 殺られる前に殺れ!
家訓がそんなのだからね、うちは!
あー、それでこのステータスっていうのは自分のは見られるんだけど、他人のはユニークスキル持ちじゃないと見られないの。
つまり、自己申告なんだよね、冒険者の実力って。
だからって、冒険者ギルドにはステータスを判断する水晶玉があるから、ギルドを欺こうなんて考えちゃいけないよ?
正直者が損をするって言うけど、冒険者の場合は正直じゃないと早死にするかもね。
ソロで活動するなら、それでいいかもしれない。
罪を贖うのは己の命だからね。
でも、仲間がいたら、他人を巻き込んでもっと罪が重くなるよね。
で、わたしの場合、正直に申告して、その通りなのでリストラの日々なのだ。
🔥 🔥 🔥
辺境の寒村で生まれ育ったわたし。
シャルことシャルロットは生まれつき魔力が高く、村の期待を一身に背負う存在だったんだよ、今はアレだけどね。
おらが村の神童って、やつだったのよ。
それで特待生として魔法学校に入学しちゃったから、大変。
これでも努力したのよ?
それこそ、血の滲むような努力をした。
お貴族様ばっかりいる中で平民は珍しいんだよね。
結果出さないと針のムシロって、本当にあったんだっていうくらいに視線が突き刺さるんだから。
それで学科では常にトップクラスを維持してました。
そう学科ではね! 座学だけ首席だったのよ。
だが、どこかで間違っちゃったのかなぁ。
運命の女神さまに嫌われちゃったのかもしれない。
一流の教育を受けられたのに覚えたスキルが
だから、卒業して、冒険者になったんだ。
実技で魔法が一つしか唱えられないアレな存在だけど学科での優秀な成績と努力を評価して、教師として、採用したいと申し出てくれたんだけどね。
断ったのよ。
それには理由があってね……。
子供の頃、故郷の村が魔物の群れに襲撃されたのよ。
その時、救ってくれたのが他ならない冒険者だったんだ。
今、冒険者をやっているわたしには身に染みてよく分かることだけど、彼らが正義の為とか、そんな生易しいもので動いているんじゃないんだよね。
あの時は子供だったんだ、わたしも。
純粋に憧れた、わたしもあんなかっこいい冒険者になるってね。
あっ、ちょっと嘘だった。
冒険者になるのに憧れたんじゃなくって……魔物に殺されそうになったわたしを助けてくれた銀髪の冒険者さんにもう一度会いたいって、思ったからなんだよね。
あれがわたしの初恋だったんだ。
そっから、恋の一つもしてないんだけどさ。
あーあ、それでも最初の頃はまだ、よかったのになぁ。
だけど、パーティーに入るがすぐに首になるの繰り返しで完全ボッチになるのにそんなに時間はかからなかったんだよね。
そりゃ、そうだよね。
『灰かぶりの魔女』だとか、『黒焦げの魔女』だとか。
物騒な二つ名がついてる魔法使いを誰が仲間に入れるだろうか?
わたしだって、絶対に入れないと思うわ。
もう潮時なのかもしれないなぁ。
故郷ではもう家庭に入っているどころか、子供が数人いてもおかしくない年齢なんだよね。
もう故郷に帰って、実家の薬屋さん手伝いでいいんじゃない?
ママもその方が喜ぶかもしれないなぁ……そう思っていた時だったのよ。
彼女が鈴のなるような涼やかな声を掛けてきたのは。
「あ、あ……あのぉわたしたちとパ、パーティーを組んでくれませんか?」
「えっ、わたし? 本当にわたし? 黒焦げの魔女だよ?」
いけない、最近、解雇癖がついちゃったせいか、疑り深くなってきちゃったんだよね。
左右を見渡しても誰もいないから、恐らくわたしのことで間違いないかな。
声を掛けてきたのは小柄な少女。
わたしも相当、小柄な方なんだけど、この子はもっと小さい。
小動物のようなくりくりとした鳶色の瞳に栗色のショートカットの可愛らしい子。
彼女の後ろには仲間と思われる少年が立っていた。
こちらは対照的に背が高くて、体格もがっちりとしているね。
少女の頭一つどころか二つくらい大きいから、相当の長身だ。
体格からして、少女が後衛で少年が前衛かなぁ。
「え、えっとそうです」
「私の二つ名は知ってるよね? それでもいいのかな? 灰かぶりだよ? 黒焦げだよ?」
「は、はい、わ、わ、わたしたちもその……」
「うーん、まぁ……座って話しましょうか。まずは落ち着いて話さないとね」
わたしのいたテーブルに二人とも座ってもらった。
少女の方はフラヴィア・サトゥルノと名乗った。
「そ、そのわたし、戦士なんです。でも、回避しか能が無くて……それでスキルも挑発しかなくって。お前みたいな戦士いらないって、首になったんです」
えぇ? あなた、その体格で前衛? しかも戦士だったんだね。
意外過ぎて吃驚しちゃった。
まっ、
え? ましじゃないのかなぁ、回避しか出来ないのって、そんなに駄目なことなのかなぁ。
少年はジークムント・アルトナーと名乗った。
フラヴィアの幼馴染で神官らしい。
あっ、その体格で後衛どころか、ヒーラーさんだったの!?
こっちも意外過ぎて
「僕は神官なんですが……その痛いの嫌じゃないですか。それで防御をメインにしちゃいまして。あ、だからといって、ヒールが下手な訳じゃないんですけどね。『お前のようなヒーラーがおるか』とフラウともども首ですよ」
へぇ、なるほど、二人とも訳アリなんだね。
二人は負けることはないが勝つこともないペアだよね。
敵を倒す手立てがないんじゃ、お手上げじゃない。
パーティーを組んでも『回避だけの戦士とか、草生える』『防御に振るヒーラーとかないわー』『ぷっ、
というか、自分で考えてて、悲しくなってくるわぁ。
何、これ……極振り友の会なの?
んー、ちょっと待って。
いや、もしかしたら、これはもしかしてありなのかもしれない?
「いいわ、やりましょう」
「ほ、本当ですか? やったぁーっ」
「それじゃ、これからパーティー組んで頑張ろうっていうのによそよそしいのはなしでしょ? わたしのことはシャルでいいわ。えっと……フラウちゃんにジークくんでいいのかな?」
「「はい、シャル先生」」
もう故郷帰ろうと思ってたんだし、これが最後のチャンスってことでやってみよう。
こうして、私たちはパーティーを組むことになったのよ。
あー、わたし引率の先生じゃないですけどぉ!
🔥 🔥 🔥
今、わたしたちがいるのは初級パーティーが挑むような低級のダンジョン。
『ゴブゴブビギナーズダンジョン』という名前から、お判りいただけるだろうか。
お察しください…わたしたちは変な極振りをしてしまった迷える子羊なんですっ!
こほん……それで駆け出しの冒険者といえばゴブリンという公式があるらしくって、ゴブリンonlyダンジョン、それが『ゴブゴブビギナーズダンジョン』。
階層は五階層構成で一階と二階の低層には前衛系のゴブリンしか存在しない。
三階と四階の中層から、ゴブリンメイジのような魔法を使うタイプが出現してくる。
気を付けるとしたら、この辺りからということになるかなぁ。
五階にボスがいるので倒せばクリアとなり、ボスドロップの宝箱を開けられるんだけどそこまで行けるのかな、わたしたち。
わたしは魔法学校を卒業してから、八年も冒険者をやっているのに三階より先に行ったことが無いんだよね。
八年やっていて、レベルが三なんだから、つまり、そういうことだって。
察してくださいっ!
フラウちゃんとジークくんもレベルが一なんだから、無理は禁物だよね。
命あっての物種だからさ。
急造パーティーの訳アリ三人組がいきなり、難しいダンジョン行くよりもまずはゴブでどうにかなるかでしょう?
「フラウ、ゴブリンの前で挑発だ」
「よーし、じゃあ、いっくぞー」
ジークくんは攻撃のタイミングなどを指示する司令塔をやってもらう。
わたしとフラウちゃんはジークくんの指示で動く、これが鉄則。
各々が勝手に判断して動かないようにすれば、うまくいくんじゃないのかな。
そういう作戦っていうか。
という訳でフラウちゃんが全速力で駆け出して行って、ゴブリン五匹の前で挑発を発動する。
「おぉー、当たらなければどうってことはないっ!」
すごいね、さすが回避のみに伸ばした戦士さまだ!
五匹のゴブリンに囲まれて、彼らが繰り出してくれる棍棒を器用にすいすいと避けている。
「シャル先生、今です」
きたわね、わたしの出番。
「いっけぇ、
集まった敵に目がけて、わたしは
魔法も器用に避けるフラウちゃんと違って、ゴブリンどもは見事に黒焦げの炭になりましたとさ。
これが攻撃極振り魔法使いの火力ですからねっ!
これが黒焦げの魔女の実力よっ!
おっーほっほっほっ……ゲホゲホ。
「おぉ~、レベルアップしましたよぉ、先生。レベルって上るんだねっ」
「本当だ。レベルが上がっているぞー」
フラウちゃんとジークくんが喜んでいる。
うんうん、そうだね。冒険者冥利に尽きるよね。
さて、二人ともレベルアップしたところでステータスを教えてもらった。
名前:フラヴィア・サトゥルノ
種族:人間
年齢:16歳
クラス:戦士
レベル:2
スキル:挑発・極
ステータス:
攻撃 1
回避 32
防御 1
器用 1
敏捷 18
体力 1
魔力 1
名前:ジークムント・アルトナー
種族:人間
年齢:18歳
クラス:神官
レベル:2
スキル:回復
ステータス:
攻撃 1
回避 1
防御 32
器用 1
敏捷 1
体力 1
魔力 23
素質で高い能力以外は軒並み低くて、フラウちゃんは回避にジークくんは防御と潔い極振りだね。
また、振ったみたいだしっ!
仲間がいてこそ、仲間だからこそ、活かせる極振り。
逆に言うと仲間がいないと現時点で出来ることが少ないのは事実だよね。
そのせいでこれまでは三人とも冒険者としては不完全燃焼というレベルではなかったんだ。
でも、今は違う。
信頼関係は出来ていないかもしれないけど、少なくともわたしたちには共通した目標ってのがあるからね。
「よーし、この調子でどんどん狩ってこー!」
「「おー」」
そこからは自分たちでも信じられないようなスピードでゴブリンを狩っていき、あっという間に一階と二階を踏破してしまったのだ。
それだけだったら、単に運が良かっただけと思われるかもしれない。三階、四階に到達し、魔法を操る上位ゴブリンが相手になっても狩る速度は衰えなかったのだ。
もう、これはわたしたちの実力だと思って、間違いないだろう。
「こ、こ、これはもしかして、た、た、宝箱じゃないですかぁ!」
フラウちゃんはどうも興奮すると慌てだす癖があるようだね。
初対面の時もそうだったけど、彼女の個性なんだろう。
慣れてきたし、彼女の見た目の小動物ぽさもあって、すごくかわいい。
「いやぁ、わたしも初めて見たわ」
うん、八年間やってきて初めて見た。
よく考えなくてもやばいね。
本当にわたし、冒険者やっていたのか、怪しくなってくるレベルだよ。
「開けてみましょう、罠の類はなさそうですし」
ジークくんのこの冷静さである。
年齢の割に落ち着いているし、彼が戦闘時のリーダーという作戦は正解だったと思うよ。
皮鎧とはいえ、回避に定評あるフラウちゃんが箱を開けるのが最適かな?
もし針系の罠があっても避けちゃいそうだもんね。
「おぉ、お金と……えっと、これはなんでしょう?」
箱に入っていたのは銀貨が二枚とこれは……魔法のスクロール!
何ともラッキーなんじゃないかな?
ダンジョン産の魔法のスクロールは滅多に市場に出ない代物だ。
それだけ、レアなのもあるし、自分達で使うことが多いからね。
「これは魔法のスクロールよ。これで魔法を覚えることが出来るんだけど、問題は何の魔法かな」
「魔法かぁ、わたしには関係ないですねぇ」
なぜ、落ち込むのフラウちゃん。
いや、戦士が魔法使えたら、魔法戦士じゃない?
それ、上位クラスだからねっ。
落ち込まなくてもあなたは十分すぎるほど、有能なんだから!
もっと自信を持っていいんだよ。
「僕か、シャル先生が覚えられますね。何の魔法か、楽しみだ」
えっと、これは……
物理・魔法の攻撃を一回限りだけど文字通り
欠点としては詠唱者本人にしか、効果がないってことかな。
「
「え? シャル先生じゃないんですか?」
よく分かっていないだろうフラウちゃんと違って、ジークくんはわたしが覚えないことに疑問を感じるらしい。
ふふふ、それは理由があるのだよ。
伊達に魔法学校の座学首席ではないのだっ!
「この魔法をジークくんが覚えると回避盾のフラウちゃんに加えて、防御盾として、敵を殲滅出来るのだよ」
正直、ダンジョンでも通常フロアの敵相手には必要のない戦術だと思う。
火力過多、いわゆるオーバーキルになってしまうし、何より魔力の消費量が多いから、ボス相手にしか意味がないとは思うんだよね。
「分かりました。それでは僕が覚えますね」
よーし、これでボス戦前にいい仕上げかもね。ではボス戦直前、ステータスを確認してみようか。
名前:シャルロット・グラース
種族:ハーフエルフ
年齢:26歳
クラス:魔法使い
レベル:5
スキル:
ステータス:
攻撃 35
回避 1
防御 1
器用 1
敏捷 1
体力 1
魔力 30
名前:フラヴィア・サトゥルノ
種族:人間
年齢:16歳
クラス:戦士
レベル:4
スキル:挑発・極
ステータス:
攻撃 1
回避 34
防御 1
器用 1
敏捷 18
体力 1
魔力 1
名前:ジークムント・アルトナー
種族:人間
年齢:18歳
クラス:神官
レベル:4
スキル:回復、
ステータス:
攻撃 1
回避 1
防御 34
器用 1
敏捷 1
体力 1
魔力 23
こんな感じかな。ボスはレベルが五相当らしいから、レベルも丁度、いいかもしれない。
「それじゃ、二人とも……覚悟は出来たね?」
「「はい、先生!」」
だから、先生じゃないって、突っ込むのも面倒になってきたのでもう先生でいいからっ!
さぁ、気合を入れて、行きましょうか!
五階はボスが存在するフロアなので階段を下りたら、すぐに扉があって、そこがいわゆるボス部屋というやつなんだよね……知らんけどっ!
何しろ、八年もやっててここまで来たの初めてなんだから、人から聞いた話でしか知らないんだもん。
「あぁ!? 先生、ドアが消えちゃいましたよぉ」
フラウちゃんが怯えてて、すごくかわいい。
じゃなくて、ボスの部屋はそういう仕様なんだよね。
ボスを倒すまで出れません、っていう命をかけた戦いなんだよ。
「あいつを倒すまでわたしたちは帰れないってことよ」
「あれは……なんです?」
通常のゴブリンの大きさを一としたら、ゆうに三倍はありそうな屈強な体格。
そこはかとなく威風堂々とした雰囲気を漂わせてるし、何より着ている鎧や兜がわたしたちよりも高級品だ、あれ。
両手に片刃の曲剣を持って、こちらへの殺意を隠そうともしない……あれがゴブリン・ロードに違いない!
知らんけどっ!
だって、初めて見たんだし!
「それじゃ、打合せ通りにレディゴー!」
フラウちゃんはゴブリン・ロードの目の前に駆け出していき、『わ、わたしが相手です』と挑発してる間にジークくんとわたしも所定の位置へとダッシュする。
「シネ!」
あー、さすがにロードともなると標準語喋れるんだぁとか、感心している場合じゃない。
「当たってませんよぉ、どうしたんです?」
フラウちゃん、それ挑発じゃなくて、
と、ともかく、フラウちゃんが引き付けている間に無事、ジークくんがロードの近くまで移動出来た。
「今だ!
ジークくんが
通常の
「
ありったけの魔力を注ぎ込んで唱えた
「アタルカ、バカメ!」
ゴブリン・ロードが
わたしの渾身の
だけど、残念だったね。
罠にかかったのさ!
ロードの背後に回り込んでいたジークくんの
その瞬間、凄まじい爆発が発生し、ロードに襲い掛かった。
「バ、バカナーーー! コノワシガァァ、アチィィィ」
いやー、今宵のゴブリン・ロードはよく燃えるね。
断末魔の叫びとともにロードは丸焦げになって、絶命した。
「やったー、わたしたち、やったんですね」
フラウちゃんが人目もはばからず、ボロボロと泣き出すから、わたしまで泣きそうになる。
この年で彼女のような泣き方したら、引かれるので踏み止まったけどね。
ゴブリン・ロードの死体が光の粒子になって、消え去ると宝箱……いわゆるボスドロップが出現した。
🔥 🔥 🔥
長かった。
諦めて、田舎に帰らなくてよかった。まだ冒険者を続けてもいいのかな?
わたしの夢…憧れていた勇者のようにかっこよく村を救ったりは出来ないだろう。
でも……
もうちょっとだけ、夢を見ててもいいのかもしれない。
だから、わたし……シャルロットは今日も
シャルロットは今日もファイアボールを撃つ 黒幸 @noirneige
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