短編小説

早波遼太

第1話 短編小説

 短編小説。それは短い小説のことだ。


 誰しも短編小説を書いてみたいと思う。しかし、誰もが書けるわけではない。簡単に言うと、文字なら書けるが、話題がないのだ。話題があれば書ける。

 では、話題とはなんだろう。話題とはつまり、時間の経過のことだろう。例えばここにAという物がある。ある時間が過ぎる。その時にまたAを見る。この結果が話題だ。そうすると、次の考えに突き当たる。つまり、話題にも面白さがなければならない。Aがあって、ちょっと時間が過ぎた時にAを見ても何も変わっていなければ、特に面白くないだろう。

 そんな事を考えながら、私はいつのまにか眠りについていた……。


 ふと目覚めると、私は白い部屋にいた。白い服を着て、椅子に座っている。隣にも、同じような姿の男が座っていた。というより、教室みたいな部屋に、白い服を着た人たちが、まるで教室にいるように規則正しく座っていたのだ。

「ここは何処でしょうか?」

 私は、隣の男に聞いてみた。

「どうやら、ここは辞書の中らしいです」

「辞書の中?ですか」

「そうです、辞書の中です」

 男は自分の服の胸ポケットあたりを指した。そこには小さく、”ふくしゅう”と書いてあるのが見える。

「ほら、これが、自分の担当している単語ですよ。あなたにもあるでしょう」

 私が自分の服を見ると、なるほど、”ふくしゅう”と書いてある。

「ホントだ。ふくしゅう、か。あなたと同じですね」

 男は笑った。

「いや、同じですけど、あなたは楽ですよ。何しろ、あなたの”ふくしゅう”は、予習、復習の”復習”、ですからね」

「じゃあ、あなたの方は??」

「わたしの”ふくしゅう”は、敵討ちとかの”復讐”ですよ。いやぁ、毎日大変です」

 男はため息をついた。

 などと、私が隣の男と話していると、急にその男の身体が、だんだんと透けてきた。

「じゃあ、また行ってきます」

「行くって?」

 そう声を掛けた時には、もう隣の男の姿はなかった。


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短編小説 早波遼太 @ryogizmo71

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