帰るまでがお祭りです!
たくさんの芸と料理とおしゃべりと、ナゴーンでの歓迎は夜遅くまで続きました。
そして、翌朝――――
「すごく楽しかった!アマダ女王様、ありがとう!」
「楽しかった!」
「ぶぶいん!」
前回の時のように、黒ドラちゃんたちはお城の屋上から飛び立つ準備をしていました。
アマダ女王も、メル王女もポル王子も、立ち会った人々すべてが名残惜しそうに見送ってくれます。 ニクマーンカップルたちも、仲良く並んで見送ってくれるようです。
花籠をつけて、飛び立つ寸前の黒ドラちゃんたちの前に、アマダ女王が進み出てきました。
「陽竜様、古竜様。この度は本当にありがとうございました」
「良いって、良いって、そんな改まんなくてさ!」
ラウザーが照れ隠しのように尻尾をぐるんと振って答えてます。
「そうだよね、すごく楽しかったし、色々と新しいものが見られて嬉しかった!」
黒ドラちゃんもうなずきながら答えました。
アマダ女王はそれに静かにうなずきながら、そっと言葉を続けました。
「こうして、皆様をお招きできること、言葉を交わせる、想いを交わせる喜びを、これからも守ってまいります」
そう言って、深く深く一礼します。その姿を見て、メル王女、ポル王子、居並ぶ貴族の人や護衛の兵士さんたちもみんな同じように深く一礼してきました。
バルデーシュとナゴーン
お互いが平和を選んだからこそ、今日という日が迎えられたのだということを、アマダ女王は竜飛記念日が出来た時から乳母と何度も話しました。
どんなにバルデーシュの陽竜様が気安く接してくれても、それを当たり前と思わぬ事。向けられる好意に感謝すること。そうして、この関係を築けた幸運を守る努力を怠らぬ事。
それが国を治めるものの役目であると。
今日を待たずに、乳母は天寿を全うしましたが、アマダ女王の胸の中には、今でもその言葉が深く刻まれています。
「どうぞ、来年も皆様のことを笑顔で迎えられますように。旅の間、ナゴーンの善き風が吹きますように」
その言葉を受けて、黒ドラちゃんとラウザーは飛び立ちました。
ナゴーンの王都を飛びながら、花びらを撒きます。
「ありがとー!ありがとー!楽しかったよーっ!」
「また来るぜ~!」
「ニクマーン!!」
「ぶぶい~~ん!」
だんだん遠ざかっていくナゴーンのお城の屋上では、メル王女とポル王子がニクマーンたちに囲まれながら一生懸命手を振ってくれています。
ゆっくりと王都の上を回ってから、黒ドラちゃんたちは帰路につきました。
途中、ホーク伯爵の劇場の一座が乗った馬車を追い越しました。
上から花びらをまくと、気づいたラマディーたちが馬車を降りて、手を振ってくれました。
「来年になったら、ラマディーおじいちゃんになってないかな」
黒ドラちゃんが不安そうにつぶやくと、ラウザーが笑いながら答えます。
「大丈夫、大丈夫!……でも、あいつ来年は彼女作ってるかも、だな」
最後の方、ちょっと悔しそうです。
でも、すぐに「俺にだってラキ様がいるしー!」なんて上機嫌で尻尾を振り回しています。
リュングが呆れながら、つぶやきました。
「まあ、陽竜様の手綱をうまく握っていられるのはラキ様くらいでしょうね」
「えー、ラキ様、俺に乗るときに綱なんて握ってないぜ~?」
「そうですねー。はいはい」
リュングの受け流しにラウザーはちょっと不満そうでしたが、すぐに機嫌を直して前を向きます。
来るときとは違って、帰り道では村には寄りません。大きな川の上を飛んで帰ります。
ホーク伯爵領で、劇場に残っていた人たちに挨拶を済ませると、黒ドラちゃんたち一行は初めに到着した港町を目指しました。
前回は、そこでラキ様に真珠のアクセサリーを選びましたが、今回は、アマダ女王からすでにたくさんのお土産を受け取っていました。
その中には、マグノラさんに渡して欲しいと、大粒の真珠も含まれています。もう十分すぎるほど、お土産はありました。
港町に寄ると、町の人たちが再び黒ドラちゃんたちを歓迎してくれました。ラウザーがまたまたおじいちゃんに抱きつきます。そして、またまたマクロの目玉をごちそうになりました。
でっかい目玉の乗ったお皿を前に、マシルとグートがギュッと丸まっています。お口をキュッと閉じて、食べないつもりのようです。
でも、黒ドラちゃんはラウザーと一緒になって、マクロの目玉をペロッと食べちゃいました。頭の部分も柔らかく煮られていて、とても美味しく出来上がっています。
「ぶぶ?」
モッチが遠巻きに目玉の周りを飛んでいます。マシルやグートと同じく、はちみつ玉を作れない魚の目玉を、モッチはお気に召さないようです。
結局、マシルとグートの分の目玉はラウザーとリュングで食べてしまいました。
「お子ちゃまにはもったいないからな-」
なんて言ってましたが、せっかくおじいちゃんが出してくれた料理を残すなんて、ラウザーには出来なかったようです。
おじいちゃんや港町の人たちが見送ってくれる中、黒ドラちゃんたちを乗せて「優美なる古竜号」が出発しました。
見送ってくれている人たちに大きく手や尻尾を振ります。
やがて、ナゴーンの港も見えなくなりました。
ザザ~ンという波の音に、吹き抜けていく潮風。夕暮れが迫る中、穏やかな波が黒ドラちゃんたちの乗る船を揺らします。
黒ドラちゃんは、ふと、お土産を渡してくれた時のアマダ女王の言葉を思い出しました。
「白い花の森の華竜様にお渡しください。これはいつかのお礼です、と。あなたの祝福のおかげで、幸せな人生を送っている者からです……と」
アマダ女王の渡してくれた大きな真珠は、柔らかく輝いて、美しい淡いピンク色をしていました。
なんか、どこかで同じような色の真珠を見たことがあったような気がします。
けれど、モッチが顔の前に飛んできて、ナゴーンのお花で作ったはちみつ玉を次々に見せてくれているうちに、真珠のことは忘れてしまいました。
「こんな風に、バルデーシュとナゴーンを行き来出来る日が来るとは……」
船首近くで風に耳を揺らしながら食いしん坊さんがつぶやきます。
グートがお父さんのことを静かに見上げました。
「かつて、お父さんが生まれるずっと前にね、ノラウサギはとても数が少なくなったことがあったんだ。人間同士の争いのために。こんな風に、国同士を平和に行き来できる事を知ったら、あの頃消えたノラウサギたちは……もし、知ることが出来たなら……」
最後は潮風の中で消えるようなつぶやきでしたが、グートは最後まで静かに聞いていました。
食いしん坊さんの肩にそっと優しく前足が置かれます。食いしん坊さんが振り向くと、眠ってしまったマシルを抱っこして、ドンちゃん立っていました。そのままそっと食いしん坊さんに寄り添います。
「アマダ女王の言葉、信じましょう。そして、私たちも忘れないようにしましょう。これまでのことも、今日のことも」
寄り添う一家を後ろから眺めながら、黒ドラちゃんはいつかのアマダ女王の言葉を思い出していました。
『手元にある宝をおろそかにしていたのは、私も同じ』
今回もらったたくさんのお土産。それはもちろんお宝です。
でも、本当に大切なものって、もっと他にあるのかも。ひょっとしたら、気づかないうちに手に入れたものの中に、本当の宝物はあるのかも。
かつては行き来が出来なかった、バルデーシュとナゴーン。
ラウザーがこっそり助けたおじいちゃんや漁師さんたち。
黒ドラちゃんたちを歓迎して、打ちあげられたたくさんの花火。
カモミラ王太子妃が、願いとともにメル王女に贈ったニクマーンこけし。
そういう事が、当たり前のように行える日々こそが――――
海の中で魔石が光りました。
黒ドラちゃんたちの乗る船が、バルデーシュに着いたのです。
たくさんの『宝物』が待つ場所に。
「ただいま~!」
黒ドラちゃんは大きく声を上げると、元気に羽ばたいて船を降りました。
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