ニクマーンも大歓迎♪
お城の大広間へと通された黒ドラちゃんたち一行は、豪華に飾り付けられた室内で大歓迎を受けました。
女王様のご挨拶、リュングやラウザー、黒ドラちゃんのご挨拶、そして食いしん坊さん一家の紹介、あ、モッチもちゃんと紹介されましたよ。広間に集まった人々は、みな、肩や頭や腕にお花を飾っていて、それを手に持って振ることでモッチを歓迎してくれました。
一通りのご挨拶の後は、歓談しながらのお食事タイムになりました。双子もいるし、王女や王子、それにニクマーンも連れてきているので、気軽におしゃべりをしながらお食事を楽しめるように、ナゴーンの人たちが準備を進めてくれていたのです。
しずく型のガラスがキラキラと輝くシャンデリアに照らされて、たくさんのテーブルにたくさんの料理と花が飾られています。ナゴーン特有の、色鮮やかで大輪を咲かせる花々を見て、モッチが嬉しそうにすっ飛んでいきました。ここでナゴーンの人たちに配るはちみつ玉作りをするつもりなんでしょう。
マシルはポル王子にニクマーンを抱っこさせてもらっています。自慢のニクマーンを、大好きなノラプチウサギにお披露目することが出来て、ポル王子はとても嬉しそうでした。頬はピンク色に、目もキラキラさせています。
キンギンドンのニクマーントリオも、マシルとすっかり仲良しさんな雰囲気で、タテに重なったり三角ポーズを決めたりと大得意でフォーメーションを披露していました。
メル王女とグートも仲良しさんな雰囲気になっていました。なにしろ、今、グートはメル王女のお膝に乗って、半分目を閉じながらクローバーを食べているところなのです。
かわいいノラウサギが自分のお膝に乗っているということで、メル王女は密かに肩をふるわせながら、一生懸命何でも無いようなふりをしていました。相変わらずがんばる王女様の姿に、黒ドラちゃんたちは双子を連れてきて良かったなぁと微笑ましく見守っていました。
そこへ、ホーク伯爵領の劇場メンバーが到着したとの知らせが入っていました。
王宮の楽団の演奏が止んで、代わりにドンドコと賑やかなお囃子が聞こえてきます。煌びやかな衣装で、優雅な舞を踊りながらアーマルが先頭で入ってくると、続いて笛の音が響いてラマディーが入ってきました。その後ろから大皿を頭に乗せて回す芸人さん、大きな輪っかの中を歩きながら進んでくる芸人さん、いくつもの箱を巧みに空中で回転させる芸人さんなどが次々に入ってきます。
一団は、みんながわあっと歓声を上げるような技をどんどん披露しながら、広間の真ん中まで進んできました。
最後にゴルド座長とホーク伯爵が入場します。皆が拍手で迎えると、ホーク伯爵がアマダ女王の前まで進み出ました。
「よく来てくれました。素晴らしい芸の数々に触れることが出来ることを、みなで楽しみにしていましたよ」
女王の言葉を受けて、ホーク伯爵が深く一礼します。
「今日という喜ばしい日に、我ら一同を呼んでくださったこと、誠に光栄でございます。日々研鑽してまいりました芸人たちの技を披露させていただきますので、どうぞ、お楽しみください」
ホーク伯爵の言葉に、女王がにこやかにうなずくと、さっそく広間の中央に大きく場所が空けられました。
アーマルが優雅に踊り始めます。ちゃんと打ち合わせがしてあったみたいで、王宮の楽団が優雅な曲を演奏してくれていました。2年前の時も可愛くて人気者だったアーマルですが、今は大人の女性の美しさと優雅さを感じさせるステキな踊り手になっていました。
しなやかな体の動かし方、ふわりふわりと舞うような手の動きに、それにつられてひらひらと揺れる衣装、足は隠れて見えていませんが、まるで水中で優雅に泳いでいるようです。
「すごいねぇ、倒れそうで倒れないし、どうやってあの動きをしてるのかな?」
黒ドラちゃんが不思議そうにつぶやくと、ラウザーが教えてくれました。
「あれってさぁ、衣装で見えなくなってるけど、めちゃくちゃ大変なんだぜ。俺練習しているところ見たことあるけど、体に重りつけて細長い台の上で回転してたよ、アーマル。全身を鍛えてあの動きになるんだって」
「へぇ~!」
黒ドラちゃんが感心しいると、アーマルが踊り終わるようです。速い回転からコマが止まるようなゆっくりとした回転へ、そして止まると同時に広間でわっと拍手と歓声が沸き上がりました。
黒ドラちゃんも夢中になって拍手しました。気付けばモッチがアーマルのすぐそばでうっとりと見とれています。キレイなものは大好きですからね、モッチは。はっと気付いたように一瞬飛び上がってから、手に持っていたはちみつ玉をアーマルにプレゼントしています。アーマルが嬉しそうに受け取っていました。疲れをみじんも感じさせない笑顔で優雅に手を振りながら下がっていきます。
代わりに出てきたのはラマディーでした。劇場で見せてくれたナイフ芸をここでも披露してくれるのかと思いきや、手にしていたのはニクマーンこけしです。ラマディーが登場すると、楽団が賑やかで元気な音楽を奏で始めました。その賑やかな音楽に乗って、ラマディーはニクマーンこけしをお手玉のように回し始めました。初めは二つ、そして三つ、四つ……どんどん数が増えていきます。十数個のニクマーンこけしが、ラマディーの手によって一つの輪のように回されていました。
これには子どもたちが大喜びでした。マシルとポルが音楽に合わせてキャッキャと手を叩いて応援します。メル王女とグートも、いつの間にか一番前まで出てきていました。
ナイフ芸の時のように、ラマディーは時々ニクマーンを落としそうになります。
さも、あせって慌てて見せますが、どうやらこれは『そういう芸』のようでした。でも、子どもたちは大興奮です。「きゃあ!」とか「ニクマーン!あぶない!」とか、一生懸命ラマディーとニクマーンこけしを応援しました。
やがて、ラマディーがくるっと回る度にニクマーンが一つ減り、二つ減り、クルクルと回転する度にニクマーンが減っていきます。
最後にラマディーの手に残ったのは、三つのニクマーンこけしでした。
回す手を止めて、ラマディーがメル王女の前にひざまずきます。
「賢明にして勇敢なるメル王女様、我が主より、このニクマーンこけしをお贈りいたします」
メル王女がビックリしてホーク伯爵を見ると、優しいうなずきが返ってきました。
「そちらは最近になってノーランド、バルデーシュを経て贈られてきたニクマーンこけしです。『ニクマーン愛好家のホーク伯爵から、ぜひふさわしい方の手に渡るように』とのことでした。可愛らしい色と柔らかな手触り。王女様の手慰みとなるでしょう。どうぞ可愛がってやってください」
ホーク伯爵に勧められて、メル王女がラマディーからニクマーンこけしを受け取ります。
「その赤いニクマーンこけしは『サンシャインプリンセス』と銘がつけられていました。そちらの白いのは『スノープリンセス』、淡いピンク色は『ローズプリンセス』だそうです」
ホーク伯爵の説明を聞きながら、メル王女が三つのニクマーンこけしを抱きしめると、その腕の中でニクマーンこけしたちがホワンッと柔らかく輝きました。
「どうやら、ふさわしい持ち主に渡った事で、そのニクマーンこけしたちも喜んでいるようですな」
そのホーク伯爵の言葉が終わるか終わらないうちに、もっと幸せそうなつぶやきが聞こえてきました。
「可愛いなぁ~!」
「めちゃくちゃ好み!」
「運命だと思う!」
見れば、ポル王子とマシルの腕の中から飛び出したニクマーントリオが燦然と輝きを放っています。
「ニクマーンしゅごいっ!」
マシルがお耳をピーンとさせてニクマーントリオの輝きに目を奪われています。
そこへゴルド座長の大きな声が響きました。
「さてさて、皆様、次なる芸はこちらの大皿を使ってご覧に入れます!」
ニクマーンに集中していた人々の視線が、再び広間の中央へ戻りました。
そこでは新たな芸人さんが大皿を使って芸を披露し始めていました。
みんながニクマーンに夢中になってしまい、どうなることかと不安になっていたものの、人々に拍手を持って迎え入れられて、芸人さんも嬉しそうです。黒ドラちゃんたちも、すぐに新しい芸に夢中になりました。
その中で、密かにホッと息を吐く、ひとりと一匹。
「いあや、まさかこんなことになるなんて。焦りましたよ、だから別の機会の方が良いって言ったのに、陽竜様ったら」
「だってさ、せっかく竜飛記念日だし、お祭りだし、ラマディーならきっとうまく回せるだろうし、良いかな?ってさ」
「そりゃあ、うまく回せてしたけど。あやうく他の芸人さんの晴れ舞台を奪うところだったじゃないですか」
「う、うん、そうだな」
「まあ、ニクマーンたちがめちゃくちゃ喜んでくれたから、良しとしますが……」
「だろっ!?だろっ!?」
「陽竜様、調子に乗らないでくださいね。間に入っていただいたホーク伯爵にも後でお詫びをしておかないと」
「う、うん」
ラウザーはついつい尻尾をカミカミしそうになりました。リュングがハシッと手を押さえて尻尾を口元から遠ざけます。
実は、あのニクマーンこけしは、バルデーシュのニクマーン信者のひとり、カモミラ王太子妃から食いしん坊さんが預かってきたものでした。
本当は、別の機会にホーク伯爵を通してメル王女に「非公式に」渡してもらうつもりだったのですが、ラウザーが「お祭りなんだし、賑やかに行こうぜっ!」と仕切って今回のお披露目となったのです。
確かに盛り上がりましたが、リュングやラウザーの想像した以上にニクマーントリオが浮かれてしまい、まさかのピカーッ!状態になってしまったのです。
「カモミラ様には、なんて報告しようかな……」
リュングが眉を下げてつぶやくと、後ろからツンツンと袖を引く者がいます。
くるっと振り向くと、そこには頬を紅潮させたメル王女が立っていました。
「あ、王女様!すみません、今の話……?」
「ありがとう!あの子たちを贈ってくださったカモミラ様にも、どうぞお礼をお伝えください」
王女が指し示す方向を見ると、『あの子たち』と言われたニクマーンこけしがキンギンドンのニクマーントリオと楽しそうにポムポムと跳ねて遊んでいます。
時々淡く光ったりして、かなり盛り上がっているみたいです。
「あ、いえ、王女に喜んでいただけて光栄です。きっとカモミラ様もお喜びと思います」
ナゴーンの健気な王女の話は、バルデーシュのニクマーン信者の胸を打ちました。
だから、今回の竜飛記念日の話を聞く前から、ノーランド出身のカモミラ王太子妃は、メル王女に可愛らしいニクマーンこけしをあげたいなあと考えていたのです。ただ、国交が復活したばかりの国同士で、いきなりニクマーンこけしを贈ると言う話はなかなか出来ませんでした。
そうしているうちに、今回の竜飛記念日がやってきた、というわけです。
「大切にします。きっと大切にします」
ぐっと言葉に力を込めて伝えるメル王女の瞳は、いつかのように澄んでいました。けれど、そこには哀しみはなくて、喜びと強い意志が宿っています。
「はい。カモミラ様に、メル王女のお言葉をしっかりお伝えします」
リュングもしっかりとうなずきました。
前の時のように、力不足の魔術師見習いを演じる必要は、もうありません。
メル王女の想いをしっかりと受け止めて、国へ戻ったらしっかりと伝えよう、そう決心しながら、ラウザーのカミカミもしっかりと押さえておきました。
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