くぐり抜けるってハラハラなんだ!-3

 黒ドラちゃん達を乗せた魔馬車は順調に砂漠を走っています。まもなく、南の砦が見えてきました。


 さっきからキョロキョロと外を眺めていたマシルは、初めて見る砦の様子に大興奮です。

「みてみてー!黒ドラちゃん、モッチ、あれ、みてー!」

「うんうん、南の砦が見えてきたね。もうすぐ着くからね、」

 腕の中で大暴れしているマシルを一生懸命なだめながら、黒ドラちゃんがうなずきます。


 どうやら砦の前に師団長さんやラウザーたちが出迎えてくれているようでした。


 魔馬車が止まると、リュングが列から前に出てきて外から扉を開けてくれます。


「古竜様、いらっ、わぶっ!?」

 扉を開けた途端に、マシルが黒ドラちゃんの腕から飛び出してリュングの顔に飛びつきました。


「あ、マシル、ダメだよ!きちんと南の砦のみんなにご挨拶するってドンちゃんと約束したでしょ!?」

 あわてて黒ドラちゃんリュングの顔からマシルを引き剥がします。

「おはよーござーますっ!」

 黒ドラちゃんに抱きかかえられて両足をプランとさせながら、マシルが元気よくご挨拶しました。


「よっ、おはよう、マシルよく来たな!元気が一番だよ!」

 リュングの後ろから、全然気にしていない風でラウザーが姿を現しました。


 体当たりしても体に上っても頭の上でジャンプしても笑って許してくれるラウザーのことが、マシルは大好きです。


「ラーザー、だっこ!だっこ!」

「はははっ、抱っこな、うんうん」

 ラウザーはすぐにマシルを抱き上げて頭の上にのせました。


「古竜様、みなさま、南の砦にようこそ。今日はラキ様に素敵な贈り物をお持ち頂いたとか?」

 マシルがラウザーの頭の上でジャンプに夢中になっている間に、南の砦のコレドさんが黒ドラちゃん達に挨拶をしてくれました。


「そうなの、モッチがケロールの国から分けてもらったハスの花の種が採れたんだよ」

「ぶいん!ぶぶぶいん!」

「ね、オアシスにもハスが咲いたらきれいだろうなってモッチと話してて」


「なるほど、たいへんありがたいお話しです。きっとラキ様もお喜びになられるでしょう」

 コレドさんがオアシスの方へ黒ドラちゃんを案内してくれようと歩き始めます。すると、ラウザーの頭の上ではねていたマシルが「ピカピカッ!」と言って降りてきました。どうやら、ドンちゃんに言われたことを思い出したようです。さっきまでのはしゃぎぶりが嘘のように、胸を張ってお耳をピンとさせて黒ドラちゃん達の前を歩いています。


「マシル、ドンちゃんとのお約束覚えてたんだね、偉い偉い」

「ぶぶいん♪」

 黒ドラちゃんとモッチが感心しながら歩いていると、澄んだ水の香りがして砦のオアシスが見えてきました。


 すると、まっすぐに歩いていたはずのマシルが、突然進路を変えてオアシスのそばの木に登り始めました。

「マシル!?」

 驚いた黒ドラちゃんが木の上を見ると、子猫のタマが毛を逆立ててマシルから後ずさっています。

「ドラドラ~?」

「ニャーン!」

「マシル、その子は猫だよ、竜じゃ無いよ!降りてきて!」

 黒ドラちゃんが手を伸ばしてマシルを捕まえようとしましたが、タマの動きに合わせてあちこちの枝に飛び移るので捕まえられません。


「ニャ、ニャーン!」

 とうとうタマが木から飛び降りました。

「にゃんにゃん!」

 マシルも後を追います。タマはリュングの足下に逃げようとしましたが、マシルが追いかけてくるのですぐにコレドさんの足下へ移動しました。そこにもマシルが追いかけてくると、二匹はオアシスの周りをぐるぐると回り始めました。

「ニャー!」

「にゃんにゃーん!」


「待って、ダメだよマシル、今日はお利口さんにお出かけするんでしょ!?約束したでしょ!?」

 黒ドラちゃんは必死に追いかけますが、小さい二匹はクルクルと早くてなかなか捕まえることが出来ません。

 そうこうするうちに、タマが黒ドラちゃんの足下に逃げ込んできました。そのまま追いかけてきたマシルと、二匹で黒ドラちゃんの足の周りをぐるぐると凄い勢いで回っています。黒ドラちゃんは二匹を止めようにも止められなくて、ぐるぐると眺めているうちに目が回ってきてしまいました。

「ま、待って、止まって、マシル、止まっ」

 そこまで言ったところで、黒ドラちゃんはふらふらとオアシスから離れると、そばにあった砂の門のようなものの内側へ二匹に足をとられる形で倒れこんでしまいました。


「黒ちゃん!」

「古竜様!」

「ぶいん!」


 周りで見ていたみんなが驚いて声をあげます。


 黒ドラちゃんとタマ、マシルの姿は、そのまま砂の門の向こう側へ吸い込まれるように消えていきました。










 黒ドラちゃんは、甘い香りの中で目を覚ましました。

「あれ、あたしどうしたんだっけ?」

 辺りは柔らかなピンク色に染まっています。よく見れば、そこは一面の花畑でした。

 その中で、黒ドラちゃんは竜の姿でマグノラさんみたいに丸くなって眠ってしまっていたみたいです。


「ふわわわわ~っ。ここどこだろう?あたし何してたんだっけ?」


 大きく伸びをしてみましたが、すっきりしません。何だか頭がぼんやりしています。甘い匂いに包まれて、色んなことがぼやけていくようでした。

 と、近くのお花たちがカサカサと揺れたと思ったら、何かが勢いよく飛び出してきました。


「はむはむウェ~イっ!」


「わわわっ、何?はむ?え?な、な、なに!?」

 黒ドラちゃんはビックリして二、三歩後ずさりました。


「はむはむウェイっ!でございますよ、古竜様!」

「はむはむうぇ?」

「は~い、はむはむウェ~イ♪、偉大なるニャー・コ・ジャーラ師の僕である、わたくし『ハムチャ』でございま~すっ!」


 飛び出してきたのはピンク色の可愛らしいネズミさんでした。見た目はほんわか可愛らしいのですが、押しが強そうで黒ドラちゃんにぐいぐい迫ってきます。


「あ、あの、ハムチャさん、ここはどこですか?あたし、どうしてここにいるんだろう?」

 まだぼんやりしながら黒ドラちゃんがたずねると、ハムチャさんは待ってましたとばかりに語り出しました。

「はいはいはいっ、古竜様におかれましてはご不安でいらっしゃいますね?わかります!わかりますよ!でも、ご安心を。このハムチャが古竜様をしっかりサポート!何の心配も無くニャー・コ・ジャーラ師様の元へとお連れいたしますから!はむはむウェ~イ!」


 お花畑の中で、楽しそうにクルクルと動き回りながら、歌うように説明してくれます。でも、ニャー・コ・ジャーラ師さまなんて、黒ドラちゃんは知りません。知らない人について行っちゃいけないって、誰かが誰かに言っていたような……


「あの、ニャー・コ・ジャーラ師さまって?」


 黒ドラちゃんがおずおずと聞き返すと、ハムチャさんは驚いたように目を見開きました。そして、おひげをピンとさせると、呆れたように首を振ります。


「なんと、なんと、古竜様はあの偉大なる大魔術師『ニャー・コ・ジャーラ師』をご存じないと!?」

「う、うん」

「それはなんとも悲しい限り!このハムチャがそんなもの識らずな古竜様のために、ご説明差し上げます!」

「あ、ありがとう?」

「いえいえ、今世の古竜様はまだ幼くていらっしゃいますから、偉大なる師のことを知らないのも無理はありません、大丈夫、大丈夫、このハムチャにかかれば、もの識らずな古竜様もニャー・コ・ジャーラ師様の偉大さをつぶさに実感できるはず!」

「は、……はい」

 何だか、親切な感じだけど馬鹿にされているような気もしながら、黒ドラちゃんはハムチャさんのお話しをきくことになりました。








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