くぐり抜けるってハラハラなんだ!-1
おかげさまで黒ドラちゃん達が『第10回ネット小説大賞』の一次選考を通過する事ができました。
古の森のみんなも大喜びしているというので、様子を見に行ってみると何やら賑やかな声が聞こえてきて……?
記念小話で短めです、どうぞお付き合いください。
*****
古の森は最近とても賑やかです。
「ンママ~、ドラドラ~ッこっちーこっちー!」
「ま、待って!マシル、待ちなさ~い!」
「キャハハハハ~ッ♪」
「マシルちゃん、待って、これじゃあドンちゃんが大変だよー!」
「ぶぶい~~~ん!」
茂みをくぐり、木の根を飛び越えて、森の中を小さな白い体がピョンピョンと移動していきます。ドンちゃんちの双子の片方、ノラプチウサギのマシルでした。その後ろをドンちゃんとモッチ、黒ドラちゃん達が一生懸命に追いかけています。でも、マシルはとてもすばしっこい上に小さいので、すぐに木の陰や草の中に隠れてしまうのです。
「待って、マシルーッ、待ちなさい、ハッハッハァッ……」
もうドンちゃんは息が切れています。毎日のことですが、マシルの動きについて行くのは大変でした。
食いしん坊さんに似て、ノラウサギの気質を多く受け継いだグートは、もう大きさだけならドンちゃんよりも少し大きいくらいになりました。性格は大人しくて、みんなでお出かけするときでもなければ、ほとんど湖のほとりから離れません。たいていは湖の中のハスの花をボーッと眺めていたり、クローバーの上でお昼寝したり、とてものんびり屋さんです。
一方、ノラプチウサギの気質を多く受け継いだマシルの方は、大きさでこそグートには及びませんが、元気の良さでは古の森一番のいたずらっ子に成長していました。毎日のように、ふらっと一匹で色んなところに行ってしまうので、ドンちゃんはいつのまにか追いかけっこすることになってしまうのです。だからといって、マシルを追いかけるためにグートをずっと放っておく訳にもいきません。マシルが飛び出すと、ドンちゃんのお母さんがグートのそばに残り、他のみんなでマシルを追いかけるのが日常になっていました。双子の面倒を見るのは、とても大変なのです。
「ハァッ、ハァッ」
「ンママ~、いっちばーん!」
「つ、つかまえた!」
ようやくドンちゃんがマシルをつかまえた時には、みんなで黒ドラちゃんの棲む洞の前まで戻ってきていました。
「はぁ~!なんだ、マシルったら結局ここに戻ったんだ」
「ぶぶい~ん」
「ふぅ、ぐるっと一周だよね」
黒ドラちゃんとモッチも追いつきました。みんなで息を切らしながら洞の前の切り株のところに座り込みます。
「モッチ、黒ドラちゃん、もいっかい?、もいっかい?」
みんなが追いかけてくれて楽しかったらしく、マシルはご機嫌です。キラキラした目で黒ドラちゃん達のことを見ながら、また走り出そうとしています。
「ハァッ、ハァッ、マシル、あのね、追いかけっこは二日に一回、ってママとお約束したでしょ?」
ドンちゃんがちょっと怖い顔をして、マシルのことをぐっと両前足でつかまえて言い聞かせました。
「……ん、もいっかい、だめ?」
「だめです!」
ドンちゃんがお耳をピンッとさせて言い放つと、マシルは上目づかいで悲しげに黒ドラちゃんとモッチに向かって首をかしげて見せました。ふわふわで小さくて真っ白なマシルが小首をかしげると、おもわず「良いよ!もいっかい!」と言いそうになってしまいます。けれど、そうして付き合った結果、どんなに疲れることになるか、もう黒ドラちゃんもモッチも、この数週間で学んでいました。
「あ、また明日、じゃなかった、あさって、あさってにしよう、マシル」
思わず明日と言ってしまって、ドンちゃんから目で『あさってよ、黒ドラちゃん!』と訂正されて、あわてて黒ドラちゃんが言い直すと、モッチも羽音で賛成してくれました。
「ぶぶいん。ぶいん、ぶぶい~ん?」
「あ、そうか、ハスの花の種のことがあったんだっけ!」
「ぶいん!、ぶぶいん」
「そっか、ドンちゃんに聞いてみよう」
「なあに?黒ドラちゃん」
ようやく息が落ち着いてきたドンちゃんがたずねると、黒ドラちゃんは湖の方を指さしました。
「あのね、モッチがもらったハスの花の種が取れたでしょ?」
「うん」
「それを南の砦のラキ様の住んでるオアシスにわけてあげようかな?って話してたんだ」
「わぁ!素敵だね、きっとラキ様も喜ぶよ」
ドンちゃんが笑顔でうなずくと、黒ドラちゃんがすかさずつけくわえます。
「それでね、種を分けるついでに、南の砦に遊びに行こうかな?って……マシルを……連れて」
黒ドラちゃんはモッチと顔を見合わせながら、ドンちゃんの様子をうかがいました。
マシルは小さいし、すばしっこいし、おでかけするのがすごく大変だって、いつもドンちゃんは言っていました。だから、お母さんであるドンちゃんがダメって言ったら、ダメだろうな、って思ったんです。
「う~ん……」
ドンちゃんが考え込んでいます。
「ダメかなぁ?」
「ぶぶいん?」
すると、そこへドンちゃんのお母さんの声がしました。
「黒ドラちゃんたちにマシルを連れて行ってもらいなさいよ。ドンちゃん」
ドンちゃんが驚いて顔を上げると、グートを連れてお母さんがすぐそばに来ていました。
「でも、でもマシルはまだまだ小さいし!」
「マシルはノラプチウサギよ、グートみたいには大きくならないわ」
「そうだけど……」
「このところ毎日森で追いかけっこでしょ?」
「う、うん」
「そろそろマシルにも新しくて広い世界を見せてあげる時期なんじゃないかしら」
「え」
「たまには、ちょっとだけ離れてみてご覧なさい」
「離れる?」
「近づきすぎると、見えなくなっちゃうこともあるのよ、ドンちゃん」
「……」
ドンちゃんはマシルのことを見つめました。このところ毎日のようにマシルに振り回されて、怒ってしまうことが増えました。グートのそばにいてあげる時間もずいぶん減っていた気がします。
「……でも、黒ドラちゃんたちが大変なんじゃ」
ドンちゃんが遠慮がちに言うと、モッチがぶいんぶいん羽音を鳴らしました。
「そうだよ、大丈夫だよ、ドンちゃん!あたしとモッチなら飛んで追いかけられるし、いざとなったらマシルを抱っこして飛んじゃうもん。きっとすぐにお利口さんになると思う」
「黒ドラちゃん、バサバサー?」
マシルが目を輝かせて黒ドラちゃんを見上げています。追いかけっこでらちがあかず、初めてマシルをつかまえて飛んだ時、マシルは泣くどころか大喜びでした。それからは、黒ドラちゃんは『ご褒美』以外ではマシルを連れて飛ばないようにしていたのです。
「そうか、それじゃあ、お願いしちゃおうかな」
「うん!」
「ぶん!」
ドンちゃんのお母さんが、ドンちゃんの事を優しく抱き寄せました。
「たまにはゆっくりしましょう。グートの花冠つくりもずいぶん上手になったのよ」
お母さんがそう言うと、後ろからグートがぴょこんと現れました。頭に可愛らしいクローバーの花冠を乗せています。
「本当だ、可愛い」
ドンちゃんに褒められて、グートは嬉しそうにお耳を揺らしました。
マシルもグートもドンちゃんもみんな嬉しそうです。
黒ドラちゃんは、南の砦へのお出かけがとても楽しみになってきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます