祝☆FA第四弾記念小話『デサンのひとりごとー2』
モッチとダンゴローさんの絵を描いて、国一番の画家となったデサンさん
何やら、彼の耳に信じられない噂が入り……
おじさま宮廷画家の思いがけない1日のお話。
本編とは雰囲気が変わりますが、お楽しみいただければ幸いです
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「なんですと、モッチ殿とダンゴロムシ妖精の絵が巷で売られている!?」
その報せを聞いた時、私は自分の耳を疑った。
バルデーシュの宮廷画家として、そして妖精たちに愛される国一番の画家として、あの二匹の絵を描けるのは自分しかいないという自負があった。
何しろ、モッチ殿はともかくとして、ダンゴロムシ妖精は幻ともいわれる存在。
その姿を見たものは、バルデーシュの中でもごくわずか、画家では自分だけだろうと思っていたからだ。
だというのに、巷で売られているその絵は大人気なのだという。
しかも、絵を見たモッチ殿も古竜様も良く出来ているととてもお気に入りなのだとか。
「うそだ、そんなはずはない。……そうか!誰かが私の絵を真似たのだな」
けれど、私のつぶやきはすぐに否定されてしまった。
「いや~、違うと思うぜ、あの絵はこのお城に飾られてる絵とは全然違うもんなぁ。あれってアラクネさんのお話を聞いて描いたんじゃないかってさ」
のんきそうに答えてきたのは、普段は南の砦に棲む陽竜様だ。
今日は華竜様の棲む森へ遊びに来たついでに、付き添いの魔術師見習いに頼まれ、城へ顔を出したという。
少し前に北の塔がやけに騒がしかったので、何か魔術師の集まりでもあったのかもしれない。
が、今はともかく、その「絵」について聞かなければ。
「デサンの絵はすごいよ。 綺麗だし華やかだし、こう、なんていうか、王様もすごく立派に描けてるしさあ」
でもさ、と陽竜様の言葉は続く。
「今、売れてる絵はさ、何ていうか、全然違うんだよ」
「そ、それはそうでしょう!モッチ殿とダンゴロムシ妖精の姿を見た画家は、私一人しか」
「あ、違う違う。 なんか違うっていうのは、間違いがあるとかじゃなくて、雰囲気が、さ」
「雰囲気……?」
「うん、何ていうかぁ~、ほわほわっていうか~ふわんふわんていうか~」
「ほわほわの……ふわんふわんですか?」
「うん!そんな感じでさ、あ、悪い、リュングが戻って来た。じゃあ、俺行くね~」
そう言って、陽竜様はしっぽを振り振り行ってしまわれた。
人間の姿になっても尻尾だけは出てきてしまうとか、うかつな方だ。
そうだ、竜とはいえ、陽竜様はうかつな方。
だから絵についても聞いたことをそのまま鵜呑みにしてはいけないのではないか?
やはり、その絵は自分の目で確かめねばなるまい。
ちょうど今日と明日は休みをいただいている。
城から離れて小旅行にでも行こうかと考えていたが、予定を変更して城下街に出るとしよう。
陽竜様の話では、絵を売っているのは東から来た旅人だとか。
なぜ、遠くはなれた東の国で、モッチ殿とダンゴロムシ妖精の絵が描ける者がいるのだ?
アラクネ何某がどうとか言っていたが、やはりおかしいではないか。
すべてはその絵を見てからだ。
私がはっきりさせてやる!
いつの間にか、悪党どもを懲らしめる正義の味方のような気持ちになりつつ、私は街へと出て行った。
*****
街で絵を売っているという旅人を探し始めたものの、はたと思い当たった。
この王都の賑わいの中で、そんなに簡単に件の旅人たちが見つけられるだろうか?
ついつい頭に血が上ってうっかりしていたが、陽竜様に旅人の特徴でも聞いておけば良かった。
これだけの人出では、そう簡単に見つけられないだろう。
そう、例えばあそこの角付き兜を被っているような悪目立ちする特徴でもなければ、見つけることは……
おや、あの者が手にしているのは巻かれた絵ではないか?
「ちょ、そこの、兜の君!」
角付き兜が振り返った。
かなり大柄だ。
気安く呼び止めてしまったが大丈夫だろうか、暴れ者だったりしたら……
「俺のことか?」
「そ、そうだ、君だ。絵を、絵を持っていなかったか?」
「これか?」
思ったよりも若い声で答える角付き兜の青年(?)が絵を差し出そうとしたところで、傍らにいたイケメンっぽい青年に止められた。
「お待ちを」
整った目鼻立ち、鋭い眼光、只者じゃない感があふれている。
しかも顔半分がすっぽりと布で隠されている怪しさだ。
これはやはり声をかけるべきでは無かったか。
「絵をお求めでしょうか?」
丁寧な言葉使いの中にも、隠し切れない鋭さがある。
私はちょっとひるみそうになったが、ここはバルデーシュの街中だ。
少し離れたところには街を見回る騎士も見える。
「クマン魔蜂のモッチ殿とダンゴロムシ妖精の絵を売っているというのは君たちか?」
「ええ、そうだと言ったら?」
ぐっ。
ますます鋭さを帯びる視線に背中を冷や汗が流れた。
「その絵を1枚買いたい。おいくらかな」
私が絵を買うために声をかけたことを知って、イケメンの目が少し和らいだ。
「これは運が良い!サイハーン画伯手書きの10枚の中の最後(・・)の1枚を手に入れるとは!」
イケメンの目がきらりと光る。
そうか、最後の1枚か、良かった。
が、なぜか相手はそのまま動かない。
「?……おいくらだろうか?」
見れば絵はそれほど大きいものではない。
旅で持ち運べるくらいだから当然かもしれないが、ハンカチ程度のサイズだ。
それに街中で売られるような流行画は、そんなに高価なものはないはずだ。
「では、じゅうまんゴー「あ、また1枚売れたんですね!?良かったぁ。これでまた5000ゴールド入るから、助かりますよね~!」
イケメンが何か言いかけていたが、横から小柄な少女が現れて金額を教えてくれた。
私が5000ゴールド払うと、なぜかイケメンが舌打ちしながら受け取る。
少女がイケメンに小突かれていたが、もう私の気持ちは絵に移っていた。
一瞬、その場ですぐに見てみようかと思ったが、たとえどんな絵であろうと、必ずしっかりと向き合うというのが私の信条だ。
この絵は城に戻ってからゆっくりと見ることにしよう。
*****
絵を持ち帰り、城にある自分のアトリエで一人心を落ち着ける。
絵をゆっくりと広げて見る。
それを目にした時の気持ちを、なんと表現すればいいか、私にはわからなかった。
だが、一つだけわかったことがある。
絵には、私が描けなかったモッチ殿とダンゴロムシ妖精が描かれていた。
技巧だけなら、私の絵は数段優れていると自信を持って言える。
けれど、絵というものはそれだけではないのだ。
『何』を描くか、どう表現するか。
私の描いた二匹は、その様子、背中の光、羽の色、すべて忠実に再現していると思う。
けれど、それはあくまで王の偉業(・・)のアクセントだ。
そこに、二匹の間に通じる『気持ち』は描けていたのか。
もう一度、サイハーンという画家が描いたという絵を見てみる。
『ほわほわっていうか、ふわんふわんていうか』
輝竜様の言葉がよみがえる。
あれは、絵のことを言っていたのではないのだ。
絵を見て、己の心が感じた想いを表していたのだ。
優しくダンゴロムシ妖精を抱きかかえるモッチ殿、恐縮しながらも安心して運ばれるダンゴロムシ妖精。
傍らに描かれた金のスコップの輝きは、二匹が繰り広げた冒険の煌めきのよう。
私はじっと絵を見つめた。
気付けば涙が流れていた。
人の絵を見て涙を流すなんて、いつ以来だろうか。
外はすっかり暗くなり、明かりを入れていない部屋も同じく暗くなっていた。
けれど、私が見つめる先で、サイハーン画伯の絵は柔らかく輝いていた。
城中から集まった、たくさんの妖精たちに囲まれて。
ふっと、耳元でモッチ殿の羽音が聞こえたような気がした。
それは決して愚かな絵描きをあざ笑うようなものではなく、へし折られた鼻っ柱を、涙で濡れた頬を、優しく癒すような響きがあった。
この絵はこのアトリエに飾っておこう
絵の世界は広いのだということを
ほわほわとか
ふわんふわんとかいう優しい気持ちを
いつまでも
忘れずにいられるように――
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※サイハーン画伯作のFAは2021年7月15日の活動報告に載せてあります。
今回のFA小話には、サイハーン画伯(彩葉様)の作品の登場人物にゲスト出演してもらっちゃっています。
時間と心に余裕のある方は、本家のお話(古森の近況ノートにリンクを貼っておきます)を読んでから、この小話をもう一度読んでいただくと、一粒で二度おいしいかもですw
小話までお付き合いいただき、ありがとうございました☆
黒ドラちゃんの新しいお話を
再び皆様にお届けできる日が来ることを
私自身も楽しみにしております
では(*´▽`*)ノ
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