第250話ーたくさんのありがとう☆-3
リュングが南の砦に戻ると、ラウザーがすぐに飛んできました。
「あれっ、黒ちゃんは一緒じゃないのか!?ブ、ブランには内緒に出来た?何とか連れて来られなかったのかよ~!?」
しっぽをにぎにぎしながら、矢継ぎ早にリュングに問いかけます。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さいよ、陽竜様」
ぐいぐい迫ってくるラウザーを押しのけて、リュングが小さな馬から降りました。
「お疲れ様、ありがとうな」
待ちきれなくて空中でしっぽをカミカミしながらくるくると回転しまくっているラウザーを後回しにして、馬の鼻面を優しく撫でます。すると、ポンッと音がして馬の姿が消え、薄茶色の子猫が現れました。
実は、リュングの魔力では、まだ馬を一緒に転移させるのは難しかったのです。そこで、砦の他の魔術師が、迷い込んだ子猫を小さな馬に変えてくれました。それに乗って砂漠の門まで走らせ、そこから古の森へと飛んだのです。『可愛らしい馬』なんて言っていたので、ゲルードにはきっと馬の正体はお見通しだったのでしょう。
「ニャ~ン」
リュングの足元に子猫がすりすりと寄ってきます。
「ありがとう、タマ。よくがんばってくれたな」
足元の子猫を抱き上げて、リュングがようやくラウザーに向き直りました。
「陽竜様、魔術師見習いのリュング、ただいま戻りました!」
「やだな~リュングったら、なに真面目な顔しちゃってるのさ。挨拶なんて良いから、黒ちゃんはどうしちゃったんだよ!?」
「本来であればコレド支部長にまずご報告するところですが、陽竜様を待たせるわけにもいきませんね、ご報告します!」
「うんうん、堅苦しいのは良いからさ、ごほーこく、ごほーこくして!」
相変わらずのラウザーの様子に、リュングがふっと力を抜きました。
「もう、陽竜様ったら、せっかく私がキリッとしようと思ってるのに、調子狂っちゃうじゃないですか!大変だったんですからね、輝竜様に内緒で、なんて!」
「うんうん、無理言ってるなあとは思ったんだけどさあ、俺も。で、どうなんだ!?黒ちゃん来てくれるって?」
「はい!古の森の皆さんで来てくださることになりました!」
「やったーーーーーっ!!」
ラウザーは空中でくるくる回りだしました。
「あ、輝竜様も一緒です」
「え」
ラウザーのくるくるが止まりました。空中でしっぽがぶらんと垂れ下がります。
「……ブラン、怒ってた?」
しっぽをにぎにぎしながらラウザーがたずねると、リュングは「えっと、それなりに……」と答えました。
「はあ~……そうだよなあ。ブランは反対するだろうな。あ、マグノラ姉さんは?マグノラ姉さんはなんて?」
「あっ!」
「えっ?!」
「すみません、陽竜様、最初の作戦とは全く違う進み方になりまして。華竜様にはお会いせずに戻ってしまいました」
「そっか、まあ仕方ないよ、ブランは怖いもんな、ははは」
そう明るく言いながらも、ラウザーのしっぽにぎにぎが高速化していきます。
リュングは申し訳ない気持になってきました。無事に役目を果たしたつもりでいましたが、白いお花の森へ行くことがすっかり頭の中から抜けてしまっていたのです。
「あの、今からもう一度、私が華竜様のもとへ行って、あの不思議な食べ物に心当たりがないか、聞いて参りましょうか?」
「う、う~ん。いや、良いよ。ゲルードも来てくれるんだろう?」
「はい。必ず竜の皆様と一緒にお見えになると思います」
「じゃあ、きっと大丈夫だよ。ゲルードならきっとマグノラ姉さんに聞いてから来てくれるよ」
ラウザーがきっぱり言い切るのを聞いて、自分はまだまだ未熟なのだな、とリュングは肩を落としました。腕の中の子猫が前足を伸ばしてリュングの頬をペロンと舐めてきます。リュングはハッとしました。落ち込んでいる場合じゃありません。
「そうだ、お前に何か食べさせてあげなきゃね。陽竜様、私はこれにて。コレド支部長にもご報告しなければなりませんので」
「うん。ありがと、ありがとー!助かったよ、リュングとタマちゃん♪」
ラウザーがしっぽを振り振りお礼を言うと、まるで返事をするようにリュングの腕の中で、子猫のタマが「ニャ~ン」と鳴きました。
**********
一方その頃、黒ドラちゃんたちは白いお花の森と向かっていました。
ラウザーの予想通り、ゲルードはもちろんのこと、ブランも今回のことをマグノラさんに相談してから行こう!と言ったのです。
白いお花の森をずんずんと進んでいく黒ドラちゃんは、腕の中にはドンちゃんを、頭に上にはモッチを乗せる、いつものスタイルです。
やがて、森の奥のまあるいお花畑にたどり着つきました。その真ん中で、マグノラさんはいつものようにふかふかの枕を抱き込むように丸くなってお昼寝をしています。
「マグノラさん!」
黒ドラちゃんの腕の中からドンちゃんが飛び出していくと、マグノラさんがうっすらと目を開けました。そのまま大きくあくびをします。初めて会った時は、あの大きなお口が怖かったんだっけと、ドンちゃんはちょっと懐かしく思い出しました。
「よいしょと。おやおやみんなでお揃いじゃないか、何か楽しいことでもあったかい?」
マグノラさんが大きく伸びをするその背中を、ドンちゃんがどんどん登っていきます。ようやく肩にたどり着くと、ドンちゃんは「あのね、リュングが古の森に来たんだよ」と言いました。
「ふむ、リュングっていうと、ラウザーのお目付け役の魔術師見習いの坊やかい?」
「そうなの、あのね、リュングはラウザーに頼まれて一人で南の砦から来たんだよ!」
黒ドラちゃんも、負けじとお話します。
「ぶいんぶいん!ぶぶいん!」
モッチも羽音で説明してくれました。
「ふんふん、食べ物っぽい綺麗な何か、かい……」
マグノラさんは、ふんふんとうなずいた後、ブランに向き直って聞いてきました。
「それはどんな形をしていたか聞いたかい?」
「いえ、わたしは……」
ブランが答えられないでいると、横から黒ドラちゃんが答えます。
「あのね、金色のベルや赤いリボンがついているんだって!それと、赤いお洋服のお人形!」
「ふ~ん、赤い洋服のお人形ね……サンクローとは言っていなかったかい?」
「サンクロー?聞いてないなあ……」
マグノラさんの口から聞いたことのないお名前が出てきて、黒ドラちゃんは首をかしげました。
「リュングはお名前のことは何も言って無かったよね?」
ドンちゃんも一緒に答えてくれます。
「そういえば、クリームが甘くて美味しかったって言ってた!」
黒ドラちゃんが思い出したことを口にすると、ゲルードとブランからため息が聞こえてきました。
「ったく、得体のしれないモノだと言っているのに、食べたのか。あいつは」
「陽竜様ですからね、そのくらいは予想するべきでした」
「えっと、ラウザーだけじゃなくて、リュングも舐めたけど大丈夫だったって!」
ラウザーをかばって黒ドラちゃんがあわてて付け足しましたが、それを聞いたブランとゲルードは、さらに深いため息をつきました。
マグノラさんはふむふむと黒ドラちゃんの話を聞いていましたが、ふと何かを思い出したようにつぶやきました。
「ああ、その食べ物はひょっとすると、かつて聖J・リッチマンが広めたサンクローの乗ったクスマーケーキって奴かも知れないね」
「クスマーケーキ!?」
マグノラさんの言葉に、みんなが驚いて声を上げました。
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