第249話ーたくさんのありがとう☆-2

「すごいね、黒ドラちゃん、きっと珍しい果物じゃないかな?」

 いつの間にかドンちゃんがそばで一緒に話を聞いています。魔リスさんや魔ねずみさんたちも、まわりに集まってきていました。

「ぶぶいん、ぶいんぶいん!」

 モッチをはじめ、虹色のリボンを付けたままのクマン魔蜂さんたちも集まってきています。なんだか賑やかな感じになってきました。


「飾りの一つは、赤い服を着た人形でして」

「へ~!」

 食べ物の上に人形が置いてあるなんて、なんだか変です。

「それで、大きな角の生えた鹿のような生き物が引いた、茶色い箱に乗っています」

「ぶいん!」

 モッチが閃いた!という風に羽音を立てました。

「ねえ、リュング、モッチがね、それって『からくり』なんじゃないか?って言ってるよ」

「からくり、ですか?」

「ぶいんぶいん!」

 絶対そうだよ!というようにモッチが答えます。

「あのね、アズール王子の作ってくれたからくりにね、小さなお人形が使われていたんだって」

「なるほど。でも、からくりを食べ物の上に乗せるでしょうか?」

「う~ん……」

「ぶぶい~ん……」

 黒ドラちゃんもモッチも考え込んでしまいました。

「ねえ、ひょっとしたらアズール王子の新作じゃない!?」

 ドンちゃんがお耳をピンッとさせて言います。

「ぶぶいん!」

 モッチがそうかも!と答えます。そこから先は、めいめいが色んな意見を言い始めました。「からくりじゃないか?」とか「ナゴーンのもっと南の国から来た果物じゃないか?」とか「ひょっとしたらそういう珍しい生き物かも?」なんてことまでも。わいわいと森のみんなで話していると、聞きなれた声が聞こえてきました。


「黒ちゃーん」

 ブランです!黒ドラちゃんの呼び出しに、まさしく飛んできてくれました。ゲルードよりも先にブランが来てしまったことで、リュングの中の希望がぺしゃりと音を立てました。


「黒ちゃん、何があったんだい!?」

 ブランが息を切らせてたずねてきます。古の森のみんなが集まっていることで、何か大きな事件でも起きたのかと心配したようです。

「あのね、ラウザーから『力を貸してほしい』って。リュングが知らせに来てくれたんだよ」

「ラウザーが?何かあったのか?」

 ブランの心配そうな目が、今度はリュングに向けられます。

「いえ、陽竜様が危機とかそういうことではないのです」

 リュングが慌てて答えると、ブランがホッと息を吐きだしました。

「ってことは、また何かろくでもないことに黒ちゃんを巻き込もうとしているとか?」

 ブランの鋭い視線がリュングに突き刺さります。さすが、友竜だけあって、いきなりの登場で限りなく正解に近づいています。

「いえ、そのろくでもないことではないと思うのですが……」

 すみません、やはり輝竜様に内緒で古竜様を南の砦に連れて行くなんて無理でした――そうリュングが心の中でラウザーに報告した時です。


「リュング、ここにいたか!」

 馬に乗ったゲルードが、魔石の埋められた辺りに現れました。

「ゲルード様!」

 リュングがすがりつくようにゲルードのもとに走り寄ります。

「な、なんだ?どうしたのだ?そんなに必死になるような出来事なのか?派手な菓子のようなものが陽竜様のもとに現れたという話では?」

「そうなのですが、古竜様に一緒に来ていただきたくて」

「古竜様に?なぜだ」

 何だかブランよりもっと鋭い目つきでゲルードが見てきます。

「あ、あの……」

 もう、リュングには、一人と一匹から叱られて、背中を丸めて帰る自分の姿が見えるようでした。


「あのね、ラウザーのところに、すごくキラキラしていて綺麗で、それで甘い匂いのする食べ物っぽいモノが現れたんだって!」

 うつむいてしまったリュングの代わりに、黒ドラちゃんが元気よく説明します。

「それと黒ちゃんとどういう関係があるんだい?」

 ブランが不審そうにたずねます。もう、いかにも『黒ちゃんを巻き込ませないぞ!』という雰囲気で、ブランの周りにはダイヤモンドダストがきらめき始めています。

「ラウザーたちがコレドさんに相談したら、見たこともないものだからよく調べましょうってことになったんだって!」

「うん。当然だね」

 ブランが答えると、ゲルードも同じようにうなずいています。

「それで、もし食べ物だったら、美味しいままで取っておいて、良く調べたいでしょ?」

「まあ、それはそうだろうね」

 ブランが渋々という感じでうなずきます。

「だから、あたしが見に行って、そのままの姿でいることを思い描けば良いんじゃないか?ってことになって」

「ったく、あいつめ!」

 ブランがいまいましそうにつぶやきます。

「ブラン、怒ってる?」

「いや、別に黒ちゃんに怒ってるわけじゃないよ、ラウザーの思い付きがちょっとね……」

「ダメなの?」

 黒ドラちゃんのしっぽがしょんぼりとうなだれます。ブランに反対されたら『見たこともないほどきれいで甘くて美味しそうな何か』を見に行く計画は、実行できそうにありません。


「う~ん」

 ブランが考え込みました。南の砦に行くには、魔馬車を使えばほとんど時間はかかりません。でも、食べ物なのか何なのかわからないような変なモノのそばに、黒ドラちゃんを近づけたくはなかったのです。

 黙り込んでしまった二匹と一人を眺めて、ゲルードが話し出しました。

「得体のしれないモノとは言え、コレド支部長からの知らせには『危険なモノではなさそうだ』とありました」

「え、コレド支部長が!?」

 ゲルードの言葉に、リュングが目を丸くしました。

「お前からの魔伝の他に、砦の魔術師を通してコレド支部長からの報告も入っている」

 ゲルードは、リュングにそう言うと、今度はブランに向かって話し出しました。

「ご心配でしたら、古竜様に付き添っていかれてはいかがでしょうか」

「まあ、そうだな……今回も一緒に行った方が良いだろうな」

 ブランもうなずきました。


「古竜様、南の砦まででしたら、前回のように魔馬車をお出しすることが出来ます」

「う、うん!」

 黒ドラちゃんのしっぽがちょっと持ち上がりました。

「前回は砦の見学が出来なかったことですし、再度の砦見学を兼ねて、皆様で訪問することにされてはいかがでしょう?」

「うん!うん!」

 黒ドラちゃんのしっぽは、すっかり元気になってぶんぶんと振り回されていました。

「確かに前回はケロールのことで、黒ちゃんたちは砦の見学どころじゃなくなっちゃったしね」

 ブランも、ミラジさんの黒竜騒ぎの時のことを思い出したようです。

「うんうん!見学どころじゃなくなっちゃった、なくなっちゃった!」

「ぶいんぶいん、ぶぶいん!」

 ドンちゃんもモッチも嬉しそうにうなずいています。

「じゃあ、リュングと一緒にみんなで南の砦に見学しに行って、ついでに『見たこともないほどきれいで甘くて美味しそうな何か』も見てみようよ!」

 黒ドラちゃんが目をキラキラさせながら声を上げると、周りのみんなもうなずいてくれました。さっきまでしょんぼりしていたリュングが、嬉しそうにゲルードとブランの顔を交互に見つめてきます。


「いや、リュングは皆とは別だ。自らの魔術にて、その可愛らしい馬で帰るのだぞ」

 厳しい表情でゲルードが言い聞かせます。魔術師見習いから抜け出しつつあるリュングのことは、甘やかさない方針のようです。


「ねえ、ラウザーやラキ様へのお土産に、甘い木の実を集めよう!」

 黒ドラちゃんが元気よく言うと、ドンちゃんが「うん、いっぱい集めよう!」とぴょんぴょんしながら答えてくれました。

「ぶいんぶぶいん!」

 モッチも、はちみつ玉を用意するようです。


 リュングは、ゲルードからの伝言を預かると、一足早く小さな馬で帰ることになりました。無事に役目を果たせたことが嬉しくて馬の背中で弾んでいます。その姿が、魔石の埋められた辺りでふっと消えました。どうやら帰りの魔術もきちんと使えたようですね。

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