第241話-モッチと金色の宝物☆2
魔馬車が古の森のそばを少し走ってガタンッと揺れると、窓の外はもうお城近くの街に変わっていました。
「わあ!もうお城が見えるよ、ドンちゃん」
黒ドラちゃんがびっくりして声を上げました。何度乗っても魔馬車の不思議には驚かされます。街の中を馬車で進みながら、黒ドラちゃんたちは物珍しくてキョロキョロとしていました。
「あ、ドンちゃん、見てみて!あそこのお店、すごくキレイな飾りが置いてあるよ!」
黒ドラちゃんが指さす先には、軒先に様々なガラス細工の飾りをぶら下げたお店がありました。青や赤や緑、オレンジ色や紫の透き通ったガラスたちが、光を反射してキラキラと輝き、見る人の心を弾ませます。
「ねえ、ブラン、帰りに少しお店見ても良いかなあ?」
黒ドラちゃんが可愛らしく首をかしげてお願いすると、ブランがにっこり微笑んでうなずいてくれました。
「やったあ!」
「たくさん見たいね、黒ドラちゃん」
「ぶいん♪ぶいん♪」
黒ドラちゃんと一緒に、ドンちゃんもモッチも大喜びです。お菓子のお店やおいしそうな食べ物を売るお店、様々な工芸品を扱うお店、あ、グラシーナさんのいるテルーコさんのお店もあります。
「ねえ、ブラン、会合には誰が集まるの?」
「バルデーシュからは、技術研修にエステンに行った工房の人間たちが集まるって聞いているよ。あと、エステンからアズール王子とドワーフの職人の代表が数名の予定だね」
「じゃあ、グラシーナさんが来るのかな?コポル工房のペペルさんもきっと来るよね?あとは……」
「黒ちゃんたちが見に行った品評会で優秀賞を取ったお店からは、みんな参加者が出ていたと思うよ。その他にも若手の職人が数名選ばれて研修に参加していたから、その人たちも来るだろうね」
「会合で作品も見られるのかな?」
「うん。全部は無理だろうけど、いくつか実際に持ってくるって聞いてる。それから、アズール王子が結婚式のからくりのミニチュアを見せてくれる予定だね」
「本当!?結婚式のからくりが見られるの?」
黒ドラちゃんは嬉しくてドンちゃんと顔を見合わせました。
「うん、ただし、実際のからくりの十分の一の大きさだよ。材料も本物じゃなくて金や宝石の代わりに木材に色を塗ったりガラスが使われているって」
「それでも良いよ、見てみたい!見てみたい!」
「楽しみだね、黒ドラちゃん」
「ぶいんぶいん!」
黒ドラちゃんたちの頭の中は、アズール王子が用意したというからくりのミニチュアのことでいっぱいになりました。こんな風じゃないか?あんな感じじゃないか?と楽しくおしゃべりしていると、やがて魔馬車が止まりました。お城の入り口にあたる大きな門の前に着いたのです。ゲルードが門番にうなずくと、すぐに門は開かれました。黒ドラちゃんたちは、そのままお城に向かって敷地の中を馬車で進んでいきました。
*****
お城の中に入った黒ドラちゃんたちは、まずは『カーラス集まれ大作戦!』の時にデサンさんが描いてくれた絵を見に行きました。絵には、黒い石の銘板に金色の文字で題名が書かれています。難しい字も入っているので、ブランがみんなに読んで聞かせてくれました。
――王の掌で祝福を唱える幻の妖精ダンゴロムシ――
「ねえ、この題名ってどういう意味?」
黒ドラちゃんが首をかしげると、モッチも一緒に「ぶいん?」と聞いています。
「ダンゴローさん、しゅくふくとかしてたっけ?」
「っていうか、そもそもあの時は王様いなかったものね」
黒ドラちゃんもドンちゃんも、やっぱりそこがおかしいなって顔で絵を見上げます。
「いや、えっとね、黒ちゃん、そこは芸術だよ、芸術」
「げいじゅつ?それっていない人が絵に出てきたり、してないこともしてたことになるの?」
「う、うん、まあ、そういうこともあるかもね」
ブランがちょっと苦笑いしながらうなずいています。黒ドラちゃんの頭の上では、ダンゴローさんの背中の輝きに、モッチがうっとりと見とれていました。
「さあ、会合は広間でもうすぐ始まります。皆様どうぞお進みください」
ゲルードが声をかけてきました。絵に夢中になっていた黒ドラちゃんの背中を、ブランがポンポンと優しく押してうながします。黒ドラちゃんの頭から、白い布を手にダンゴローさんの描かれた部分に飛び立とうとしていたモッチを、ゲルードがさりげなくキャッチして、自分の胸に止まらせました。そうすると、モッチはブローチに変身した時のことを思い出したのか、大人しく運ばれていきました。
以前、品評会の優秀作品が置かれていた広間に、たくさんの職人さんたちが集まっています。それぞれ、職人の他に工房の代表者も出席するのでけっこう人が多くて、話も弾んでいるようでにぎやかです。そこへ黒ドラちゃんたちが入っていくと、集まった人たちが一斉にざわめきました。ゲルードがまっすぐ進んだ先には、テルーコさんとグラシーナさんがいました。今回の会合で、バルデーシュ側の職人の代表をテルーコさんが務めているのです。テルーコさんのすぐ隣のグラシーナさんは、職人風の服装ながら、ちょっとおしゃれな感じです。深緑色のチュニックに、襟がレースになっている白いブラウス、黒のズボンに仕立てのよさそうな黒い革靴を履いています。胸には丸い金色のバッチが飾られていました。
「グラシーナさん!会えてうれしいよ!」
黒ドラちゃんが言葉通りに嬉しくて弾んでみせると、グラシーナさんがにっこり微笑み返してくれました。
「皆様、お久しぶりです。あ、モッチさんも来てくださってありがとうございます」
グラシーナさんは、なぜかモッチがいるのを見てとてもうれしそうな顔をしました。モッチは、ゲルードの胸から黒ドラちゃんの頭の上に戻っていました。アズール王子ファンクラブ会員No.2なモッチとしては、グラシーナさんの存在にはちょっと複雑な気持ちらしく「ぶいん」とだけ返事をしています。
出席者がそろったところで、会合が始まるようです。バラバラだった人たちが、それぞれ決められた席に座り、会場が静かになりました。スズロ王子とアズール王子のお出ましが告げられ、皆の注目が入り口に集まりました。
初めにスズロ王子が入ってきて、広間に集まった人々に微笑みながら優雅なしぐさで席に着きました。続いて、カモミラ王女が食いしん坊さんに先導されながら入ってきました。長くなってきた髪はゆるくカールして、ドレスには青いノーランドスノーブルーの花のコサージュをつけています。今日は結婚式のからくりについても議題に上るので、会合に参加するのです。
食いしん坊さんは、ちらっとドンちゃんの方を見ました。可愛らしいケープ姿に、ちょっと口元がふにゃりとしましたが、すぐにまじめな顔に戻ってお耳をピンッとさせました。
続いて、アズール王子が数名のドワーフの職人を引き連れて入ってきました。今のアズール王子には、家出してきた時の面影は全くなく、体つきもたくましくなって髭モジャっぷりも上がっています。もう、どこからどう見ても『ドワーフの国の王子様』です。すっかり立派になったアズール王子の姿を見て、モッチが「ぶいん♪」と嬉しそうに羽を鳴らしました。首から下げたアズール王子お手製の会員バッチを、嬉しそうに掲げて見せます。
王子たちが着席すると、ものつくり大臣のおいじさんが司会を始めました。バルデーシュの工房で作られたいくつかの試作品を見た後、今度はエステンのドワーフの鍛冶技術で作られた品々が置かれました。そのがっしりとした武骨な体形と反して、エステンの職人が作る製品は、頑丈なものから繊細な芸術品のようなものまで多岐にわたっていました。
中でも、アズール王子が発案する「からくり」関連の製品は、どれも精度が高く見た目も美しく、参加者から感嘆の声が上がりました。それぞれの作品についての質疑応答などが続き、白熱した議論も交わされましたが、まだお披露目されていない作品はたくさん残っています。ものつくり大臣のおじいさんが声を上げて、一度休憩をはさみましょう、ということになりました。
モッチはさっそくアズール王子のすぐ目の前に陣取りました。
「ぶぶいん!」という羽の音も心なしが嬉しそうです。
黒ドラちゃんとドンちゃんも、久しぶりに会うアズール王子のそばに集まってきました。
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