第230話-ぶぶぶぶぶぶふぃーっ!
翌朝、黒ドラちゃんはモッチのぶんぶん攻撃で起こされました。
「うう~ん、モッチ、どうしたの?ずいぶん早いね?」
あくび混じりに答える黒ドラちゃんに、モッチが体当たりしてきます。
「ちょ、ちょっとモッチ、どうしたの?何か怒ってる?」
「ぶいん!ぶいん!ぶぶい~~~ん!」
モッチがぐるぐると回って何かをひどいひどいと繰り返し訴えています。黒ドラちゃんがモッチについて行ってみると、昨日の大池に辿り着きました。
「なあに?池になにかあるの?」
黒ドラちゃんは池の様子を見てみましたが、昨日と何も変わりません。
「別に何も変じゃないよね?」
黒ドラちゃんが首をひねっていると、後からリュングや食いしん坊さんたちもやってきました。
「黒ドラちゃん、どうしたの?」
ドンちゃんがたずねてきます。
「あのね、何だか朝からモッチが騒いでるんだ、ひどい!って」
「何がひどいの?」
ドンちゃんがモッチにたずねると、モッチが「ぶぶい~~~~ん!!」と一際羽音を大きくして、池の上を飛び回りました。
「池に何かあるの?」
ドンちゃんがのぞき込みますが、別に変わった様子はありません。そう言えば、この大池のどこかに本当の王子様たちの残した卵たちがいるはずでした。
「モッチ、卵に関係あるの?」
黒ドラちゃんがたずねると、モッチが「ああ、もう!」みたいな感じで「ぶぶいん!」と羽音を立てて、蓮の花のつぼみに止まりました。そのままじーっとしています。
「モッチ?なにしてるの?」
黒ドラちゃんが聞いても答えが返ってきません。そのままじっとつぼみにつかまっています。
「ぶぶぶぶぶぶぶ」
いえ、よく見るとただつかまっているだけじゃありません。つぼみを開こうと全力で花びらに掴みかかっているみたいです。
「ふぶぶぶぶぶぶぶふぃーっ」
あ、とうとう手が滑ってクルクルしながら大池の向こうへ吹っ飛んで行きました。
「……ぶ、ぶいん」
すっかりうなだれて戻ってきました。
「モッチ……」
「ぶ」
「そう言えば、ここのお花、昨日からつぼみだったよね?なんでひとつも咲いていないの?」
黒ドラちゃんもようやくおかしいなって気づきました。
昨日、いまにも咲きそうだったつぼみは、今朝もそのままです。
「そう言えばミラジさんが言ってませんでしたか?虹も蓮の花もケロールの歌声も“無いこと”にされているって」
リュングの言葉に、黒ドラちゃんも思いだしました。そうです、そんなことを言っていました。
「じゃあ、じゃあここのお花はずーっとこのままなの?ずーっと咲かないの?」
池を見渡せばたくさんのつぼみが風に揺られています。お花だって咲く日を楽しみに待っているはず。でも、ルカ王の呪いがある限り、ここでは時が止まってるようです。
「ぶい~ん」
モッチが黄色いはちみつ玉を取り出しました。フラック王国に来たら、妖精さんにあげようと思っていたのに喜ばれず、新しくはちみつ玉を作って見せようにも花が開きません。
「ぶふぃん」
がっくりと肩を落とします。
「モッチ、元気出して。きっと呪いが解ければここだって変わるよ」
黒ドラちゃんがモッチを慰めます。
すると、後ろから明るい声が響きました。
「皆様、おはようございます!こんなに早くから私の呪いを解くために集まってくださったのですか?」
ルカ王子がにっこりと微笑みながら現れました。昨日と同じ、フリルの付いた上品そうな上着です。池のほとりのテーブルにつくと、ゆったりと足を組みました。昨日と全く同じ景色を、もう何日も何十日も、いえ、何年も繰り返しているはずです。なのに何の不思議にも思わない――
ここがルカ王の『呪い』の中だってことを、改めて黒ドラちゃんは実感しました。言葉を無くした黒ドラちゃんの隣で、食いしん坊さんが明るく朝のご挨拶をしました。
「お早うございます、ルカ王子。今朝も爽やかな朝ですな」
「ああ。本当に。これで私の呪いさえ解ければ、本当にすがすがしい気分になれるんだけどね」
すぐそばにはミラジさんがいます。切なそうな瞳でルカ王を見つめていますが、ルカ王子(・・)は全く無頓着でした。
ふと、食いしん坊さんが足元に目をやります。しゃがみこむとプチンと草を一本摘み取りました。
「どうかしましたか?」
ルカ王子が食いしん坊さんにたずねました。
「いや、クローバーがあったものですから、つい」
そう言ってドンちゃんに渡します。ドンちゃんは嬉しそうに受け取ると、モグモグと美味しそうに食べました。
「ああ、クローバー……そう言えば、ノラクローバー、でしたか?あなた方ノラウサギが大切にすると言う」
「はい。今は本当に少なくなってしまいました。あの戦争で、我々を狩る為に利用されて、ノラクローバーも至る所でむしられましたから」
「そうでしたね。あなたの叔母さまもノラクローバーのせいで?」
ルカ王はなぜか食いしん坊さんに次々と話を振りました。食いしん坊さんにとっては辛い昔話なのに大丈夫なのかな?と黒ドラちゃんは心配になりました。
でも、お話は続いています。
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