11章☆虹のしずくに歌うんだ!の巻
第215話-オアシスへ行こう!
虹と潤いの国、フラック王国には大小さまざまな池があります。大きなハスの葉が浮かぶ池のほとりで、ルカ王子は椅子に腰かけ優雅にお茶を楽しんでいました。
黒目がちな艶やかな瞳、カップを持つほっそりとした指。その若くしなやかな体は、フリルの付いた上品そうな上着で包まれています。ゆったりと組まれた足も含めて、全身から『これぞ王子様!』と言わんばかりの優美さが醸し出されていました。
王子はゆっくりとカップをテーブルに置くと「ほうっ」と物憂げにため息をつきました。黒目がちな瞳が伏せられて、空に浮かぶ小さな雲がテーブルの上に影を落としながらゆっくりと流れていきました。
********
まだ朝も早く、小鳥さんの歌声がようやく聞こえ始めてきた頃のことです。古の森の湖のそばの大きな木の洞の中で、黒ドラちゃんは丸くなっていました。まだ半分夢の中のようなホワホワ~ンとした時間を楽しんでいると、洞の外から元気な声がかけられました。
「黒ドラちゃん!おはようっ!」
パチッと目を覚まして洞の入り口を見ると、可愛らしい小さなシルエットが立っています。
「ドンちゃん、おはよう、早いねぇ」
黒ドラちゃんがあくび混じりに答えると、ノラプチウサギのドンちゃんがピョンピョンと洞の中に入ってきました。
「黒ドラちゃん、朝早くからごめんね」
「ううん。大丈夫だよ、それより何かあったの?」
いつもドンちゃんと遊ぶのはもう少しお日様が高くなってからです。こんなに朝早く起こしに来たってことは、きっと何か急ぎの用事があるんでしょう。
「あのね、食いしん坊さんが一緒に南の砦にお出かけしないか?って」
「南の砦に?でも、勝手にお出かけして大丈夫かな?ブランに聞かないと……」
「大丈夫だよ、カモミラ王女がスズロ王子と南の砦に視察に行くんだって。だからゲルードもブランも一緒なんだよ」
「そうなの!?じゃあ、きっとあたしも行っても大丈夫だよね?」
「うん!」
ドンちゃんが嬉しそうに若草色のエプロンをふりふりしながらうなずきます。
「食いしん坊さんにね、前にロータのことで南の砦に行った話をしたの。そうしたら『せっかく南の砦に行ったのに、オアシスを見ることもしていないなんて残念だね』って言ってくれて」
「うんうん!」
「ちょうどカモミラ王女に付き添って南の砦に視察に出かける機会があるから、一緒に行こうって!」
「うんうん!行く行く!」
黒ドラちゃんは、すっかり目が覚めました。
南の砦には、ドンちゃんと一緒に二回行ったことがあります。一度目は、ラウザーのゆらぎに巻き込まれて迷い込んだ、コーコーセーのロータを帰すために。二度目は、ナゴーンからやってきたラマディーのお姉さんの無実を晴らすために、南の砦を経由して海を渡りました。どちらの時にもほとんど南の砦をゆっくり見ることもなく、オアシスについてはラウザーからお話を聞いただけです。
「それで、いつ行くの?今日これから?」
黒ドラちゃんがワクワクしてたずねると、ドンちゃんがエプロンから手を放して答えました。
「ううん、出かけるのは明後日だって」
「そっかあ」
黒ドラちゃんは、ちょっとがっかりしました。気分はすっかり綺麗なオアシスに向かっていたからです。
「それまでに、ラキ様やラウザーへのお土産にする木の実を探しておこうよ!」
ドンちゃんに言われて、黒ドラちゃんも目をキランッとさせました。
「そうだね!お土産必要だよね。よ~し、甘々の実、見つけるぞー!」
黒ドラちゃんが力強く宣言すると、足元でドンちゃんも「おおーーーっ!」と答えました。
さあ、さっそく森の中で木の実探しです。黒ドラちゃんはドンちゃんを背中に乗せると、甘い木の実が多く生っている木がある場所へと張り切って飛んでいきました。森の中で、二匹はたくさんの木の実を集めて、南の砦へのお出かけに備えました。
砦に出かける日の朝がやってきました。
黒ドラちゃんはドンちゃんから貰ったポシェットに、甘々の実をいっぱい詰め込んでいました。手には古の森で咲いているお花で作った花束を持っています。そこへクローバーのペンダントをしたドンちゃんがやってきました。食いしん坊さんは、カモミラ王女に付き添うために、一足早くお城へと出かけて行ったそうです。ドンちゃんを背中に乗せて、黒ドラちゃんは森の入り口に飛んでいきました。待ち合わせ場所は、いつもゲルードが魔馬車を用意してくれる森の外れでした。
黒ドラちゃん達が着いた時、ちょうど魔馬車が三台、森の直ぐ近くに現れました。ワクワクしながら待っていると、ゆっくりと進んできて黒ドラちゃん達の前で止まります。扉が開くと、まずゲルードが降りてきました。
「ゲルード、おはよう!」
黒ドラちゃんが元気よくご挨拶すると、ゲルードはキラッとした微笑みを返してきましたが、そのまま馬車から離れようとしません。あれれ?と黒ドラちゃんが不思議に思って見つめていると、馬車からスズロ王子が降りてきました。二台目の馬車からはカモミラ王女とドーテさんが、三台目の馬車からはブランと食いしん坊さんも降りてきました。
「黒ドラちゃん、久しぶりだね」
スズロ王子がキラキラしい笑顔でご挨拶してくれます。後ろで待機しているブランの方から、ちょっと粉雪が舞い始めましたが黒ドラちゃんは気づいていません。王子の隣でカモミラ王女もホワンとした笑顔を向けてくれていましたが、ふと何かを探すようにキョロキョロし始めました。
「今日はモッチはいないのね?」
カモミラ王女にたずねられて、黒ドラちゃんが答えようとした時です。
「ぶっぶい~~~んっ!!」
黒ドラちゃんの持つ花束から、クマン魔蜂のモッチが元気よく飛び出してきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます