第204話-フカフカ谷でごあいさつ

「えっと、あの、その……」

 わらわらと集まってきた小さなダンゴロムシたちに囲まれて、黒ドラちゃんとモッチが困っていると、ダンゴローさんが間に入ってくれました。

「ああ、ダメですよ!みんな。その方たちに失礼のないように!」

 ダンゴローさんの声に、黒ドラちゃん達をつんつんとつついていた小さなダンゴロムシたちの手が止まります。

「このお二方は古の森の古竜様とクマン魔蜂のモッチさんですよ」

「え~!古竜様?コレが!?」

「わあ、クマン魔蜂って本当にいるんだ!」

 小さなダンゴロムシたちが黒ポチのお目めをキラキラさせて、今度は黒ドラちゃんとモッチにペタペタと触ってきました。

「ぶ、ぶいん」

 モッチが困っています。黒ドラちゃんも「コレが!?」って言われてちょっとしょげました。


「これこれ、みんな、せっかく来て下さったお客様に失礼だよ?」


 しわがれた声がすると、小さなダンゴロムシたちがサッと手をひっこめました。振り向くと大きなダンゴロムシさんがこちらへ向かってくるところでした。


「ダンザエモン様!」


 ダンゴローさんがあわてて大きなダンゴロムシさんの方へ駈け寄ります。

「ああ、ダンゴローよ、良く帰ってきた。お疲れ様」

 ダンザエモンさんの黒ポチお目めが優しくダンゴローさんを見つめます。

「申し訳ありません、色々とあって遅くなってしまって」

「いやいや、遅くなどは無いさ。お前は良くがんばってくれたよ。こうして無事に古竜様をお連れすることが出来たじゃないか」ダンザエモンさんの言葉に、ダンゴローさんが目をウルッとさせています。ダンザエモンさんが、ゆっくりと黒ドラちゃん達の方へ進んで来ました。

「古竜様、ようこそおいで下さいました。フカフカ谷の長、ダンザエモンでございます」

「あの、古の森の古竜の黒です、こっちはクマン魔蜂のモッチです」

「ぶいん」

「ようこそ、モッチ様」

「あの、ダンザエモンさん、初めまして?お久しぶり?ええと、お元気で何よりです」

 黒ドラちゃんのご挨拶に、ダンザエモンさんが可笑しそうに背中を揺らしました。ダンザエモンさんは前のクロ様と一緒に空を飛んだこともあるダンゴロムシです。妖精の寿命はわかりませんが、かなりな高齢のはずです。本来は真っ黒のはずのその体は、やや濃いめの灰色になっています。さらに、背中の上の方は白っぽく色が抜けていました。


「古竜様のおかげです。フカフカ谷はダンゴロムシにとってとても過ごしやすい場所ですから」


 そう言われて、改めて周りを見回してみると、落ち葉の下からたくさんのダンゴロムシさんが顔をのぞかせていることに気付きました。

「こーんにーちはーっ!おっじゃましまーすっ!」

「ぶっぶい~~~んっ!」

 遠くに居るダンゴロムシさんたちにも聞こえるように、黒ドラちゃんとモッチは大きな声でご挨拶しました。途端に、ダンゴロムシさんたちは、落ち葉の下にゴソゴソと隠れてしまいました。中にはビックリしたのか丸まってしまったダンゴロムシさんもいます。

「あ、あれ?」

 黒ドラちゃんが戸惑っていると、ダンザエモンさんが教えてくれました。

「古竜様、申し訳ありませんなあ。我々ダンゴロムシは元来臆病でして」

 そう言えば、マグノラさんもそんなこと言ってましたっけ。さっきダンゴローさんを見て集まってきたダンゴロムシたちは、みな幼くて好奇心の方が強かったということでしょう。黒ドラちゃんはもう一度ご挨拶することにしました。


「こんにちは、古竜の黒ですぅ」

「ぷぷぃん」


 小声の黒ドラちゃんに合わせて、モッチも小さな羽音でご挨拶しています。隠れていたダンゴロムシさん達が、再び落ち葉の下から顔を覗かせました。ホッと一息ついた黒ドラちゃん達を、ダンザエモンさんがお家まで案内してくれました。



 ダンザエモンさんのお家は大きな落ち葉の下でした。ふかふかした柔らかい土が丸く掘られた穴の中は、ちょっと広めになっています。


「なにもございませんが、どうぞおくつろぎください」


 ダンザエモンさんに勧められて、黒ドラちゃんもモッチも柔らかい土のソファに座ります。見上げれば、赤と黄色の美しい色の天井があります。

「きれいだなあ」

 黒ドラちゃんが感心したようにつぶやくと、ダンザエモンさんが嬉しそうに、そして懐かしそうに言いました。


「クロ様がいらっしゃった時も、そのようにお言葉をいただきました」


 何だか不思議な気持ちです。前のクロ様の時にも、ここに座って紅葉した落ち葉の天井を見上げたのでしょうか。

「ぶぶいん?」

 モッチも一緒に天井を見上げています。


「たいしたものはございませんが、これはフカフカ谷で採れる栗コケのロールケーキです」

「栗コケのロールケーキ?」

「はい、お口に合いますかどうか」

 ダンザエモンさんが、土のテーブルの上に茶色っぽいお菓子を出してきました。葉っぱのお皿に乗せられたそれは、柔らかそうで甘い匂いをさせていました。


「じゃあ、遠慮なく頂きます!」

 黒ドラちゃんはお皿の上のケーキをパクンと一口で食べました。しっとりしていてお口の中には甘い香りが広がります。

「美味しい!」

 黒ドラちゃんはお目めを輝かせてモグモグごっくんとお菓子を飲み込みました。

「栗コケのロールケーキ、すっごくすっごく美味しかった!こんなに美味しいお菓子が作れるなんてすごいね、ダンゴロムシさんて!」

 黒ドラちゃんが褒めると、ダンゴローさんがちょっと違うと言う風に手を振りました。

「それは作っているのではないのです」

「え、作って無いの?どこかで買って来たの?」

 臆病だと言うダンゴロムシさんがお買い物するなんて意外だなあと思いながら黒ドラちゃんがたずねました。

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