第202話-ここはどこ?

「あれ?ここって、砂漠?かなあ?」

「ぶいん」

 モッチが後から顔を出します。途端にものすごく嬉しそうに羽音を立てました。

「ぶぶっ、ぶいいい~~~ん!」

「え、フジュの匂いがするって?」

 キョロキョロしてみると、遠くに見覚えのある薄紫の花の咲いたこんもりとした塊が見えます。ここは、南の砦の近く、フジュの木の見える場所に出たようです。


「へ~、フカフカ谷って南の方にあるんだねえ」

 ダンゴローさんの話では、金のスコップで掘り進めば、自然とフカフカ谷へ着けると言うことでした。ということは、フカフカ谷は南の砦のそばなのでしょうか。


「では、また掘り進めましょうか?」

 ダンゴローさんに促されて、黒ドラちゃんとモッチは穴の中に戻ります。モッチはかなりフジュの花に未練がありそうでしたが、早く帰りたくてソワソワしているダンゴローさんの様子を見て、あきらめたようでした。けれど、ちょっとだけ掘り進んだところで、黒ドラちゃんは大変なことを思い出してしまいました。あわてて後ろを振り返って、ダンゴローさんに話しかけます。

「あのさ、ちょっとだけ、ちょっとだけモッチのためにフジュの花に寄って行っても良い?」

「え、あの……」

 今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいのダンゴローさんが口ごもります。

「あのね、あたしったらすっかり忘れちゃってたんだけど、モッチは魔力を切らしちゃうとダメなんだって!」

「ぶぶいん?」

 モッチがえ、そうなの?って聞いてきました。

「うん、前に一緒にノーランドに行ったでしょ?あの時にマグノラさんに言われたのに、すっかり忘れちゃってたの!」

「ぶいん!?」

 モッチ自身は知らなかったようです。ビックリしてぶんぶん羽音を立てています。

「わかりました。それならば、フジュの花?とやらで魔力補給ですね」

 ダンゴローさんがそう言ってくれたので、黒ドラちゃんはまた上に掘り始めました。ほんの少ししか進んでいないので、多分さっきよりも少しだけフジュの花の方へ近づいているはずです。スポッと上の土が無くなり、また明るい空が見えました。

「さあ、モッチ、行って来て良いよ!」

 黒ドラちゃんが声をかけると、モッチが嬉しそうに穴の外へ出て行きます。が、ほんの一瞬後に、すごい勢いでモッチが穴の中に転がり込んで来ました。

「ぶぶぶぶぶぶぶっ!!!」

「えっ!?すごく寒いって?」

 南の砦周辺は、バルデーシュでも暖かい地域です。なんで寒いなんて言っているんだろう?と黒ドラちゃんが穴の外へ顔を出すと、雪山が見えました。


「!?」


 ビックリして辺りをぐるりと見回します。どうやらここはブランの棲む北の山のすぐ近くのようです。


「え、え、どういうこと!?」

 さっき、フジュの木の見える場所で顔を出してから、ほんのちょっとしか掘り進んでいません。なのに、竜が飛んでも丸1日近くかかる距離をいきなり進んでしまった、ってことになります。


「あの、初めにお話しておけば良かったですね」

 ダンゴローさんが申し訳なさそうに話しだしました。

「金のスコップは不思議アイテム、そして、ダンゴロムシの掘る穴自体も不思議スポットなのです」

「不思議スポット!?」

「ぶぶいーん!?」

「はい。地上とつながりながら、けれども全く違った世界。それが私たちが掘り進む地下の世界なのです」

「えっそうなの!?」


 ダンゴローさんたちダンゴロムシは、こう見えても虫じゃなくて妖精です。地下と言っても、妖精さんの住む世界は、地上の感覚とは違うらしいのです。妖精の世界のことは、黒ドラちゃん達はほとんど知りません。優れモノの金のスコップが、どこに出られるかわからない不思議アイテムだとは、思いもしませんでした。


「ぶぶいーん……」

 モッチががっくりと肩を落としています。

「ご、ごめんね、モッチ。どうしよう、どこかにお花が無いかな?」

 せっかく外に出たものの、ブランの棲む北の山周辺はお花があまり見当たりません。黒ドラちゃんが金のスコップを抱えてオロオロとしていると、ダンゴローさんがポンッと肩を叩いてきました。

「大丈夫です!金のスコップは魔法のアイテム、行きたい場所を強く念じてみてください」

「行きたい場所?」

「そうです、そして掘るのです!」

「うん、やってみる!」


 黒ドラちゃんは穴の中に入ると目を閉じました。行きたい場所、行きたい場所……そう、マグノラさんの森みたいに魔力豊富なお花がいっぱい咲いているところ。


「ふんぬっ!」


 黒ドラちゃんが気合を入れると背中の魔石がポワンと輝きます。握った金のスコップも、一緒にキラリと輝きました。

「よし!掘るよー!」

 黒ドラちゃんがザックザクと掘り始めました。土の中をまっすぐに掘ったつもりでしたが、いつの間にか上に進んでいたようです。穴がぽっかりと開いて、明るい空が見えました。


「やった!出たよ!」


 黒ドラちゃんが穴からヒョイッと顔を出すと、ちょうど目の前でマグノラさんが大きなあくびをしているところでした。


「おやおや、黒チビちゃん、ずいぶん小さくなって……珍しい登場の仕方だね?」


 マグノラさんがバクンと口を閉じて眠そうな目で黒ドラちゃんを見つめます。

「マグノラさん!?ここってマグノラさんの森なの?」

 黒ドラちゃんはキョロキョロと辺りを見回します。


 穴の外には見慣れたお花畑が広がっていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る