第201話‐出発するよ!
『ダンゴロムシさんの金のスコップは、一度に一匹、それも持ってる間しか小さくなれない』
そう、ブランが来る前に、ドンちゃんと黒ドラちゃんで何度も試してみたのです。でも、金のスコップが一度に小さく出来るのは1匹だけ。黒ドラちゃんとドンちゃんが一緒に握った時はどちらも少しだけしか小さくなれませんでした。
「それにしても、カーラスが咥えていた時や、ラキ様が受け取った時にどうして小さくなる魔法が効かなかったのかなあ?」
ドンちゃんが不思議そうに、コテンと首をかしげています。黒ドラちゃんにもわかりません。物識りのブランにも、それはわからないようでした。
ダンゴローさんがちょっと考え込んでから答えました。
「理由はわかりませんが、金のスコップはダンゴロムシたちのためにクロ様が下さった魔法のアイテムです」
「うんうん」
「きっと、わたしたちの元にある時にしか、不思議な力は発揮されないのかもしれません」
ダンゴローさんの手の中で、金のスコップがキラリッと光ります。
黒ドラちゃんはあらためてブランに言いました。
「……だから、あたしと、ダンゴローさんとモッチで、一緒に行くことにしたんだ」
「そうなのか……」
ブランががっくりと肩を落としています。はあっ、とため息をついた後で、キリッと表情を切り替えました。
「仕方ない。それならそれで、僕の出来ることをするだけさ」
ブランが黒ドラちゃんの前に手をさし出しました。
「?」
黒ドラちゃんが首をかしげていると、ブランが手を開いて見せます。そこには、美しく輝く黄色い魔石が乗っていました。
「きれいだね!これは何の魔石なの?」
「それは昼間の光を閉じ込めてあるんだ。光の魔石だよ」
「光の魔石!?」
すごいすごい!と黒ドラちゃんが魔石をつまんで光にかざします。魔石はまるで光を集めるかのように、燦々と輝きました。
「これは、こうして首飾りに出来るんだ」
ブランが鎖のついたネックレスを取り出して、光の魔石をカチッとはめました。黒ドラちゃんの首にかけてくれます。
「こうしておけば、土の中にもぐっても明るく照らしてくれる」
「わあ~!ブラン、ありがとう!」
これで本当に準備万端です。いつでもフカフカ谷へ出発できます。
さあ、これからもぐるぞ!というところで、ダンゴローさんがくるりと振り向いてドンちゃんとブランにお辞儀をしました。
「輝竜様、ドンちゃん、本当にお世話になりました」
背中を丸めて深々とお辞儀をします。
「あの、それから、南の砦にいらっしゃる陽竜様のお知り合いのラキ様、雷の女神様には本当に助けられました」
「そうだね、そう言えば今回はラキ様が大活躍だったね!」
黒ドラちゃんもドンちゃんもうんうんうなずきました。
「ぜひ、ラキ様にダンゴロムシのダンゴローがとてもとても感謝していた、とお伝えください!」
「ダンゴローさんからのお礼は、僕からラウザーやラキ様によく伝えておくよ」
ブランがしっかり約束してくれます。その言葉を聞いて、ダンゴローさんはホッと安心すると、今度は黒ポチお目めをキリッとさせて切り株の根元の柔らかそうな土を見つめました。
「では、黒ドラちゃん、ここから掘り始めましょう!」
「はい!」
元気良く返事をすると、黒ドラちゃんはダンゴローさんから受け取った金のスコップを握りしめました。黒ドラちゃんの体が金色に光って、ヒュルルルル~~~ンと縮まります。そのまま勢い良く金のスコップで地面をザクッと掘りました。地面には黒ドラちゃんたちがすっぽりと入れそうな穴が開きました。続けて掘り進みます。
「黒ちゃん、気をつけてね!何かあったらすぐに僕を呼ぶんだよ!?」
ブランの心配そうな声が後ろから聞こえます。
「モッチ、黒ドラちゃん、待ってるからね!絶対に絶対に無事で戻ってきてね!」
ドンちゃんの声も少し遠くなりながら聞こえてきています。
「ぶぶい~~ん!」
モッチの羽音が、すぐ後ろから聞こえてきました。ダンゴローさんはモッチの後ろから進んできているようです。
「黒ドラちゃん、大丈夫ですよ、このままフカフカ谷へ進みましょう!」
ダンゴローさんの声に従うように、金のスコップはどんどん地面を掘り進んでいきます。黒ドラちゃんの首に下がった光の魔石のネックレスが、前を明るく照らします。まるで最初から決まっていたかのように土は簡単に掘れ、どんどん、どんどん進みます。
「わ~、ダンゴローさん、金のスコップってすごいね!」
「はいっ、魔法のアイテムですから!」
後ろの方からダンゴローさんの嬉しそうな声が聞こえます。
でも、ふと黒ドラちゃんは不安になってきました。
「あたし、適当に掘ってるだけだけど、これでフカフカ谷へ着くのかなあ?」
「ぶぶん、ぶいい~~ん」
「ええ、モッチさんの言う通り!金のスコップで掘り進めば、必ずやフカフカ谷へたどり着けます!」
「そっか、そうだよね、魔法のアイテムだもんね!」
黒ドラちゃんは再び金のスコップで土を掘り始めました。しばらく掘り進むと、なんだか土がサラサラしてきました。
「あれ、なんだか土の感じが変わったよ?」
「ぶぶいん?」
「たまにそういうこともあります」
ダンゴローさんは気にしないようです。でも、はじめて地中にもぐった黒ドラちゃんは、またまた不安になってきました。
「あのさ、ダンゴローさん、ちょっとだけ地上に出て見ない?」
「え、地上に、ですか?」
「うん。今、バルデーシュのどの辺を進んでいるのか知りたいなあって」
「そうですか。まあ、確かに黒ドラちゃんとモッチは初めのトンネル掘りですから、ちょっと不安になりますよね」
「ぶいん」
モッチも、ちょっとねって言っています。
「では、黒ドラちゃん、上に向かって掘ってみてください」
「う、うん、上だね?」
黒ドラちゃんは、なんとなくこっちが上かな~と思う方へ掘り進んでいきました。少し掘ったところで、スコップがすぽっと空を切りました。あれっと思った時には、黒ドラちゃんは青空の下、砂に囲まれた場所に空いた穴から顔を出していました。
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