第195話-カミナリ玉と雨の恵み
カーラスを集める方法は見つかりました。
でも、バルデーシュ中に雷が鳴り響くとなると、さすがに色々と問題が出てきます。
まずは人々が怯えることのないよう、下準備が必要です。それについては、ゲルードが王様に頼んでくれました。スズロ王子の件やカモミラ王女の件があってから、王様たちはいっそう黒ドラちゃんに好意的になっていました。なので、協力してくれるというお返事をすぐにもらえたのです。
さらに、ゲルードから黄金色のフカフカ谷のダンゴロムシたちの話を聞いて、王様は『カーラス集まれ大作戦!』にすっかり乗り気になりました。ダンゴロムシ妖精については、代々の王様が管理している古文書の中にもわずかな記載しかありません。その存在を実感することなく人生を終えた王様の方が多いくらいなのです。
――ダンゴロムシは滅多なことでは人前に出ることが無い存在。しかし、彼らがいることで土は豊かになり緑が茂り、土地が、人が、国が栄える。どこにあるかはわからぬが、土のあるところならばどことでもつながっている不思議な場所。それがダンゴロムシたちの楽園、フカフカ谷――
まさか自分の代で、そのダンゴロムシのために一肌脱ぐことになろうとは!王様は子どものようにキラキラした目で次々に命令を飛ばしました。まずは、国中に雷が鳴り響くことをごまかすために「雷の女神に王の願いが聞き届けられた」とふれ回らせました。「これからも雨の恵みがこの国の人々を潤すように」という王の願い。それが聞き届けられたと聞いて、人々は喜びました。
“雷、つまり女神の声が響き渡る日があったら、感謝をささげるように”
いまや人々は雷が鳴り響く日を心待ちにしています。雷の音は、人々を恐れさせる存在から、歓迎される存在へと変わりました。
さあ、これでラキ様が国中に雷を鳴らしまくっても大丈夫。
カーラス集まれ大作戦、開始です!
古の森に、再びみんなで集まりました。ラキ様も今日は特別な気分らしく、金糸の派手な刺繍が施された凄く豪華なキモノを着ています。女神様感がだいぶ盛られている気がします。みんながラキ様に注目しました。ラキ様が大きく息を吸い込んで、片手をあげました。手の先にピカピカと稲光が見えます。それを見ていたドンちゃんが、ふと自分の持つカミナリ玉に目をやりました。
「でも……もし、もしカーラス以外がカミナリ玉を拾っちゃったらどうなるの?」
その瞬間、ラキ様がパッと目を見開き、手を降ろしました。
「ふむ。どうするかえ?」
あらららら全然考えていなかったようです。
「もし人間が拾っちゃったら、カーラスと一緒に人間もここに集まってきちゃうのかな?」
ドンちゃんが不安そうに言いました。
「え、じゃあ、人間は拾わないでくださーい!ってお願いしておく?」
黒ドラちゃんが答えました。
「いやいや、そんなこと言ったら逆に大騒ぎになるんじゃありませんか?」
そう言いながらリュングも考え込んでいます。
「なんとかしてカーラスだけを集めなければなりませんな」
ゲルードも首をひねりました。
「そんじゃ、カーラスだけにしか見えないようにしちゃうとか?」
ラウザーが尻尾をニギニギしながら言いました。
「無茶言うなよ、そんなこと出来ないだろ?」
ブランが冷静につっこみます。
「なるほど、それじゃ」
ラキ様がラウザーの方を見ながら言いました。
「えっ!カーラスだけにしか見えないように出来んの!?」
ラウザーがビックリして尻尾を握りしめたまま聞き返しました。
「いや、見えなくすることは無理じゃな」
ラキ様があっさり答えます。
「あ、無理なんだ」
ラウザーの尻尾がダランとします。
「じゃが、人の目に見える物を変えることは出来る」
「えっ!?」
「雨の恵みを喜ぶ者には、雨粒と見えるようにしよう」
「そんなことが出来るの!?」
「うむ。相手の“見たい”という気持ちが物の姿を変え易くするのじゃ」
「なるほど……」
ゲルードやブランが感心しています。
「やっぱラキ様ってすごい!!」
黒ドラちゃんもドンちゃんもキラキラした目でラキ様を見つめます。ラキ様の白い頬が前の時のように薄らと赤く染まりました。
「か、可愛い……!」
ラウザーが尻尾をカミカミしながらぐにゃぐにゃしています。
今度こそ、本当にラキ様が雷を呼び寄せ始めました。高く上げた片手には、稲光が集まりまばゆく光りはじめています。初めのうちは見つめていられましたが、今や眩しくて見ていることも出来ません。目を覆う黒ドラちゃんの頭の上で、ダンゴローさんとモッチも眩しさに体を丸めていました。
「ぶぶぶいん!?」
「あ、はい、わたしは大丈夫です、このように丸まってしまえばたいていのことからは身を守れますから」
みんなが耐えられなくなりそうな眩しさの中、ラキ様が上げていた手を勢いよく降ろしました。
――カッ!!!
その瞬間、空は真っ白く光り、聞いたこともないような激しい雷鳴と、沢山の粒が降り注ぐ音が国中に響き渡りました。
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