第193話-カーラスとカラス

 湖のそばでは、朝早くからのお茶会が始まりました。


「ラキ様、これね、食いしん坊さんのおばあ様がドンちゃんに送ってきてくれたの」

 黒ドラちゃんがちょっぴりかしこまってラキ様にお茶を勧めています。

「ぶぶいん!」

 モッチが、これ見て見て!と自分そっくりのカップのマークの横に並んで見せます。

「ふむ。なかなかに良く出来ておるな」

 ラキ様はじっくりと眺めた後で、満足そうにお茶を味わいました。お膝の上にはドンちゃんを抱っこしています。ドンちゃんのポシェットは、ラキ様からもらったカミナリ玉でパンパンに膨れています。ラウザーは湖を覗きこんでお魚さんの泳ぎを面白そうに眺めていました。リュングはラウザーの横で「陽竜様、潜っちゃダメですよ」なんて念を押しています。みんな楽しく過ごしていました。


 忘れられた一匹を除いて……


 モッチの後ろで、ダンゴローさんはオドオドと様子をうかがっていました。自分のために集まってもらったはずなのですが、誰もフカフカ谷の話はおろかダンゴローさんの紹介もしてくれません。本当に大丈夫なのか?と不安になった頃、ブランがゲルードを連れて現れました。


「あ、ブラン!ゲルード!来てくれてありがとう!」

 黒ドラちゃんがうれしそうにブランとゲルードを迎え、さっそくお茶を勧めます。するとゲルードが黒ドラちゃんの前に出て、サッと片膝をつきました。

「古竜様、本日は大切な御用がおありとのこと、このゲルードでお役に立つことがあれば、何なりとお申し付けください」

 一瞬キョトンとしてから、黒ドラちゃんはハッとしました。

「あ、そうだった!ダンゴローさんのことで来てもらったんだ!」

 テーブルの上を見ると、得意そうにポーズをとるモッチの後ろで、ダンゴローさんがすっかり丸くなっています。

「モ、モッチ、ダンゴローさんのこと忘れてる、忘れてる!」

 黒ドラちゃんがあわててモッチの後ろを指差すと、モッチもハッとしたみたいです。

「ぶいん!!!」

 ごめんね、ごめんね、みたいな感じでしきりにダンゴローさんをコロコロと揺さぶっています。


 しばらく待つと、ゆっくりとダンゴローさんが伸びてくれました。

「あの、わたしのことでお忙しい皆さまのお時間を頂戴して……申し訳ございません」

「忙しくない!全然忙しくないよ!!」

「ぶぶいんぶぶいん!」

 黒ドラちゃんとモッチが必死になってダンゴローさんを励まします。

「あー、そういえばさ、黒ちゃんの頼みってなんなんだ?」

 ラウザーが不思議そうにたずねると、リュングが「今更感があふれていますね」とつぶやきました。あわてて黒ドラちゃんが説明しようとすると、ブランに止められました。

「僕から説明するよ。昨日、あのあとマグノラからも、もう一度説明してもらったからさ」

「本当!?ありがとう、ブラン!」

 黒ドラちゃんがホッとするのと一緒に、ゲルードとリュングもなぜかホッと息をもらしてます。

「では、輝竜殿からささっと説明していただきましょう!」

 ゲルードがちゃっかり場を仕切っています。ブランは一瞬だけゲルードに不満そうな目を向けましたが、黒ドラちゃんが目をキラキラさせながら待っているのに気付くと、ちょっと頬を染めてから、話しだしました。





「――というわけで、金のスコップを盗ったカーラスを、バルデーシュ中のカーラスの中から探しださなければいけないんだ」

「カーラスですか……」

 リュングが下を向いて考え込んでいます。

「カーラスですか」

 ゲルードは上を向いて考え込んでいます。

「カーラスかあ?」

 ラウザーが考えてる……ふりをしながら尻尾をにぎにぎしています。


「カーラスとは、どのような鳥なのじゃ?」

 ラキ様が聞いてきました。

「あのね、カーラスって黒くて割と大きめで、けっこうよく見かける鳥だよ」

 黒ドラちゃんの説明に、ドンちゃんも付け足します。

「キラキラしたものとかが大好きなんだって、お母さんと食いしん坊さんが言ってた」

「ふむ。カラスか?」

「カーラスだよ」

「む。おそらく我の知るカラスと同じような鳥じゃろ。カーッと鳴くのではないか?」

「そう!その通り!」

 黒ドラちゃんが嬉しそうに答えました。


 ラキ様のいた世界では、カーラスと良く似たカラスと言う鳥が居たそうです。

「カーラスがカラスと同じような鳥なのであれば、その金のスコップは巣の中に持ち帰っておるだろうな」

「巣に持ち帰ってどうするの?」

「巣の中に飾るのじゃ」

「えー、飾るの?鳥が?」

「鳥と侮るでない。おそらくカーラスは美しいもの光るものが大好きなのじゃ。なかなかに良い趣味をしておろう」

「巣にあるのか」

 ブランが考え込んでいます。

「バルデーシュ中のカーラスの巣って、いくつくらいありますかねー?」

 リュングがげんなりしながらつぶやきました。

「ただの金のスコップであれば、私の魔術で見つけだすことも出来るかもしれませんが、古竜様の魔法で作られたアイテムとなると、人間ごときが見つけられるとは思えません」

 ゲルードが残念そうにブランに話します。


「どうやって、探そう……何か良い方法は無いかな」

 ブランがみんなを見回します。

 何も思いつかなくて、黒ドラちゃんは申し訳ない気持ちでダンゴローさんを見つめました。



「ふむ、光りものが好きなのであれば、出来ぬ事では無いな」

 考え込んでいたラキ様がつぶやきました。

「ラキ様、何か良い方法思いついた?」

 黒ドラちゃんが勢い込んで聞き返すと、ラキ様は一度ふむ、とうなずいてから「カミナリ玉じゃ」と答えました。


「カミナリ玉!?」


 みんなの驚いた声が重なって、びっくりしたお魚がピョンと跳ね、湖面に大きな波紋が広がりました。

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