第191話-ダンゴロムシの宝物

 ダンゴローさんが、また転がりそうなほどのけぞってブランを見つめています。

「ど、どう困るんだい?」

 ブランがちょっとたじろぎながら聞き返しました。

「フカフカ谷の金の落ち葉は、わたしたちダンゴロムシにとって無くてはならないモノとなっているのです!」

「なくてはならない?……」

 ブランが言葉を途切れさせて考えています。


 ダンゴローさんが一生懸命話し始めました。


「かつて、クロ様はフカフカ谷を訪れ、谷を黄金色の落ち葉でいっぱいにして下さいました」

「う、うん」

 黒ドラちゃんがうなずきます。

「私たちも初めは、ただ単に谷がキラキラしく華やかになっただけだと思っておりました」

「違ったの?」

「はい。わたしたちは敷き詰められた金の落ち葉を美味しくいただきました」

「あ、食べるんだ?」

「はい。落ち葉はダンゴロムシの大好物です!」

「そ、そうなの」

「ですから、初めのうちは、てっきりクロ様が黄金色の美味しい落ち葉をプレゼントしてくださっただけなのだ、と思い込んでおりました」

「じゃあ、落ち葉が美味しいってだけじゃなかったの?」

 ドンちゃんがダンゴローさんの乗っかった花の前に座って問いかけます。

「そうなのです、本当の贈り物は落ち葉を食べ終えた後に現れました」

「本当の贈り物?」

「はい。落ち葉の柔らかい部分をほとんど食べ終えて、真ん中の太い筋だけ残った時、それがまばゆく輝き出したのです」

「落ち葉のすじが!?」

「ええ。輝きが治まった時、そこにはキラキラと輝く1本のスコップが!!」

「そうか!それが金のスコップだね!?」

「ええ。しかもだんだんとわかってきたのですが、1匹のダンゴロムシが手に出来るのは1本のスコップのみ」

「ほーっ」

「ですから、私たちは生まれるとすぐに金の落ち葉を一枚食べます」

「ふんふん」

「そして、自分だけの、一生に1本だけの金のスコップを手に入れるのです」

「へぇー!」


 まわりで聞いていたみんなにも、フカフカ谷が黄金色であることの大切さが、ようやくわかってきました。


「じゃあ、フカフカ谷が黄金色じゃなくなってきたって言うのは……」

「最後の一枚だった黄金の落ち葉も、この間生まれたダンゴロムシが食べました」

「そうだったんだあ」

「それでっそれで、これから先にも生まれてくるだろうダンゴロムシのための黄金の落ち葉を用意してあげたいのです!」

 ダンゴローさんの必死の訴えに、黒ドラちゃんが大きくうなずきました。

「そうだよね、これから生まれてくるたくさんのダンゴロムシさんだって、金のスコップは必要だよね?」

「はい!!」

 ダンゴローさんの黒ポチお目めが嬉しそうに輝きました。


「黒ちゃん……」

 ブランが何か言いたそうに黒ドラちゃんを見つめています。

「だ、だってあたしが行かなきゃダンゴロムシさんたち、金のスコップを手に入れられなくなっちゃうんだよ!?」

「そうなんだろうけど……地下の世界だよ?」

 そうつぶやいて、はあ~っっとダイヤモンドダストを吐き出しました。止めてもダメなんだろうな、と顔に書いてあります。


「でも、フカフカ谷に行くには、ダンゴローさんの金のスコップが必要なんだよね?」

 ドンちゃんがダンゴローさんにたずねると、ダンゴローさんの背中が丸まりました。

「そ、そうでした、そうでしたね。まだまだ帰れないんでした」

「大丈夫!大丈夫!だからブランに来てもらったんだもん!」

 黒ドラちゃんが元気良く答えました。

 ブランが再びはあ~~~っっとダイヤモンドダスト混じりのため息を吐き出します。

「協力するしかないか」

 そうしてマグノラさんに目をやりました。

「行かせるしか無いんですよね?」

「ああ、そうだね」

 マグノラさんもうなずきます。


 そうと決まれば、とブランは黒ドラちゃん達に向き直ります。

「まずは金のスコップを咥えて行ったというカーラスを見つけなきゃいけないね?」

「うん!」

「おそらくこの国の中のカーラスだろうから、ゲルードにも協力してもらおう」

「うん!やっぱりブランに来てもらって良かった!」

 黒ドラちゃんはブランに抱きつくと、嬉しくて尻尾を大車輪のように振り回しました。

「全く困ったもんだよ、伝説の古竜様は」

 そう言いながら、ブランはすっごく嬉しそうです。


「そうだ、ラウザーとラキ様も呼ばなきゃなんだ!」

 黒ドラちゃんはマグノラさんに言われたことを思い出すと、パッとブランから離れました。

「ラウザー達か、そうだね、アイツに南の方をあたってもらおう」

「うん、あとね、ラキ様にいっぱい助けてもらうんだって!」

 ドンちゃんが黒ドラちゃんの足元でピョンピョンしながら言いました。

「まあ、ラウザーを呼べば当然ラキ様もついてくるだろうな」

 そういうと、ブランはふっと小さな雪の塊を吐き出しました。

「ラウザーを呼んできてくれ」

 ブランがつぶやくと、雪の塊はスーッと消えて行きました。

「あれ?消えちゃったよ?」

 不思議そうにつぶやく黒ドラちゃんにブランが答えます。

「大丈夫。目には見えなくなってもちゃんとラウザーを呼んでくれるよ」

「すごいね!ゲルードの魔法の鳥さんよりすごい!!」

「このくらい、たいしたことじゃないよ」

 そう言いながら、ブランはまたまたすっごく嬉しそうです。


 ゲルードもラウザーも、来てくれるのは明日になるだろうからとブランに言われて、黒ドラちゃん達は古の森へ戻ることにしました。なぜかモッチに抱えられたダンゴローさんが丸くなってしまっています。

「どうしちゃったの?もう、別に怖くないでしょ?」

 飛びながら不思議に思ってたずねると、ダンゴローさんが丸まったまま答えてくれました。


「あの、伝説の古竜様の古の森へ行くのかと思うと、緊張してしまって……」


 黒ドラちゃんたちは、キョトンとしたあと大きな笑い声をあげました。その声に、丸まっていたダンゴローさんも顔をのぞかせます。そうして、みんなで笑いながら古の森へ帰っていきました。

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