第190話-黄金色のフカフカ谷

「も、申し訳ございませんでした!!」


 花の上から転がり落ちたダンゴローさんは、モッチに助けられて、再び花びらの上に乗っていました。黒ドラちゃんに向かい、背中を丸くしてお詫びしています。

「良いよ、良いよ。仕方ないよ、あたしの方こそ何も覚えてなくてごめんね」

 黒ドラちゃんは、まだ古竜のクロ様と呼ばれていた頃に、ダンゴロムシのダンザエモンさんと会ったらしいのです。けれど、前の竜生のことは忘れてしまうのが竜です。だから、ダンゴロムシのこともフカフカ谷のことも、何も覚えていませんでした。


「仕方ないよ、黒ちゃん。それが竜だもの」

「そうだよ、黒ドラちゃん。それにしても、ものすごい偶然だよね?モッチに拾われるなんて」

 ドンちゃんが感心して言いました。

「ぶぶいん!ぶいん!」

 モッチが得意そうに羽を鳴らしました。嬉しそうにダンゴローさんの背中を撫でています。

「ぶぶ?ぶいい~~ん!」

 ね?このツヤが何だか特別な気がしたんだよね~!と言って、どこからか出してきた白い布でダンゴローさんの背中をキュッキュと磨きだしました。


「確かに、今になって思えばモッチさんに拾っていただいたのは本当に幸運でした」

 背中をキュッキュと磨かれながら、ダンゴローさんがつぶやきました。

「ああ、そうだね。これも幸せな偶然だ」

 マグノラさんの言葉を聞いて、ドンちゃんがにっこりと微笑みます。


 そう、ダンゴローさんは全くわかっていなかったのです。自分が古の森のクマン魔蜂さんに拾われたことも、古の森に連れて行かれ、古竜の黒ドラちゃんとお話したことも。地上のことには疎い――マグノラさんの言ったとおりでした。


「本当に、我ながらうっかりにもほどがあります……本当に本当に」

 そう言いながらダンゴローさんが再びお詫びしながら丸まり始めました。

「ぶぶいん!ぶん!」

 モッチがもう良いよ!って背中をバンバンしてから、再びキュッキュと磨く作業に戻ります。そばで話を聞いていたブランがダンゴローさんの前にしゃがみこみました。

「それよりも、なんで黒ちゃんをフカフカ谷へ連れて行く必要があるんだい?」

 真剣な目をしてダンゴローさんにたずねます。黒ドラちゃんのことになると、ブランはとっても心配性で慎重派なんです。

 ダンゴローさんは、そうだった!とばかりに顔を上げると、黒いポチっとしたお目めに力を込めました。

「黄金色のフカフカ谷が、黄金色で無くなっているのです!」

「フカフカ谷が?急に変ってしまったってことかい?」

「いいえ。フカフカ谷は長い時間をかけて少しずつ少しずつ変わってきました」

「それじゃあ、なんでいきなり黒ちゃんを迎えに来たんだい?」

「はい。ダンザエモンの話では、伝説の古竜のクロ様とお約束した、と」

「あたしと?!」

 黒ドラちゃんが目をパチクリさせました。

「はい、いえ、あの、クロ様と……ですが」

 ダンゴローさんが不安そうに答えました。

「クロ様がフカフカ谷を黄金色に変えてくれた時に、約束してくださったそうです」

「あたしが!?あたしがフカフカ谷を黄金色にしたの!?」

 黒ドラちゃんは驚きました。周りで聞いていたみんなもビックリしています。マグノラさんだけは、何も言わずに静かに聞いていました。

「あの、ダンザエモンは、かつて古竜のクロ様と知り合い、背中に乗せていただいたこともある、と言う話でした」

「うんうん」

「それで、ダンザエモンは仲良くなったクロ様を、フカフカ谷にご招待したそうです」

「へ~!」

「その時に、フカフカ谷のみんなの歓迎に喜んだクロ様が、豊富な魔力を使ってフカフカ谷を黄金色に変えてくださったそうです」

「すごいね!」

 まあ、自分のことだけど、覚えてないから感心しちゃうのも仕方ありません。黒ドラちゃんは夢中でダンゴローさんのお話を聞いていました。

「それで、クロ様がフカフカ谷を去る時に約束して下さったそうです『もし、この先フカフカ谷の黄金の落ち葉がすべて無くなった時には、また自分のところへ来れば良い、そうしたら、ふたたびフカフカ谷を訪れて、谷を黄金色に変えてあげようね』と」

「へ~!!」

 そんな約束していたなんて、と黒ドラちゃんは不思議な気持ちで聞いていました。

「だけどさ、フカフカ谷が黄金色じゃなくなっても、景色がちょっと地味になるだけだよね?別に困ることはないだろう?」

 おっと、心配性で慎重派なブランは、やはり黙って聞いていることは出来なかったようです。すると、ダンゴローさんが黒ポチお目めにいっそう力を込めて答えました。


「いえ、それが、おおいに困るのです!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る