第188話-みんなを集めよう!

 マグノラさんの棲む白いお花の森は、いつものように黒ドラちゃんたちを迎え入れてくれました。


「なんとも良い香りですね」


 モッチに抱えられたダンゴローさんがうっとりとしています。

「土の中では花は咲きませんから、こんな風に花の香りに満ちた中を進めるなんて、とても幸せです」


 そう言われてみると、確かにその通りです。初めてこの森を訪れた時は、黒ドラちゃんもドンちゃんも、今のダンゴローさんのようにうっとりドキドキしながら森の道を進みました。

「そうだね……幸せだね」

 ドンちゃんがダンゴローさんの言葉にうなずいて答えました。モッチはドンちゃんの頭から降りて、ダンゴローさんを抱えたまま、右に左に花の香りを楽しむように飛んでいきます。森の中を、香りに案内されるように進んでいくと、お花畑が現れました。


 マグノラさんはいつものように真ん中で丸くなってお昼寝しています。


「マグノラさん!」


 黒ドラちゃんの上からドンちゃんがマグノラさんに飛び移ります。マグノラさんがゆっくりと目を開けました。背中に乗っかったドンちゃんを頭の上に乗せ換えると、大きく伸びをします。

「おやおや、みんなでお揃いかい?……これはまた珍しいお客様を連れてきてくれたね」

 ダンゴローさんを抱えて飛んでいたモッチが、マグノラさんの手の平にとまりました。

「あの、初めまして。フカフカ谷のダンゴローと申します」

 ダンゴローさんが丁寧に名乗ってお辞儀をします。マグノラさんは手のひらのダンゴローさんをしげしげと見つめてから、そおっとお花の上に降ろしました。


「いや、本当に珍しいお客様だね。滅多に土の中からは出てこないからね、ダンゴロムシは」

「マグノラさん、ダンゴロムシのこと知ってるの!?」

「ああ、土の中を掘り進む妖精だね」

 ドンちゃんと黒ドラちゃんは、やっぱりここに来て正解だったとうなずき合いました。


「だけど、わたしも実際に見たのはダンゴローで二度目だね」

 それを聞いてダンゴローさんが身を乗り出しました。

「ひょ、ひょっとして一度目はダンザエモンでは?」

「ああ、そういえばそんな名前だったような気がするね。たしか、古の森に行く途中でここに寄ったんだよ」

 そう言いながら、マグノラさんは一瞬だけ寂しそうな眼をしました。

「古の森に?え、じゃあ、ダンザエモンさんは前の私に会ったのかな?」

 黒ドラちゃんがたずねると、マグノラさんが気まずそうに言いました。

「あまり前の生の話はしない方が良いんだけど。まあそういうことさ」

「そーだったんだあ」


 黒ドラちゃんは、何だか変な気持ちになりました。だって、前の黒ドラちゃんのことは何も知らないんです。自分のことなのに、ね。


「あのね、ダンゴローさんは、金のスコップっていう魔法のアイテムを持ってたの」

 ドンちゃんがマグノラさんに説明します。

「金のスコップかい。そう言えばダンザエモンも何か持っていたような気もするねえ?」

 マグノラさんが思い出そうとしてくれています。


「それでね、ダンゴローさんの金のスコップ、盗られちゃったんだって!」

 ドンちゃんがマグノラさんの頭の上からお花の上に飛びおりました。


「盗んだのはカーラスみたいなの」

「カーラスかい……」

 マグノラさんがふむふむと考え込んでいます。


「それでね、どうにかしてカーラスから金のスコップを取り戻せないかな?って」

 ドンちゃんの言葉に、黒ドラちゃんもうなずきました。

「金のスコップはね、すごく不思議な魔法のアイテムで、それがあればどんなに遠くまで掘り進んでも、必ずフカフカ谷に帰れるんだって!」

 それを聞いて、マグノラさんは大きくうなずくと、黒ドラちゃんたちにたずねました。


「つまり、金のスコップがないとフカフカ谷に帰るのはむずかしいってことだね?」


 みんなは思わずダンゴローさんを見つめます。


「そ、そういうことみたい。だから、だから絶対に金のスコップを探さなきゃいけないの!」

 ドンちゃんがマグノラさんを見上げながら前足を組んで訴えます。お花の上でダンゴローさんも真剣にマグノラさんの言葉を待っています。モッチはダンゴローさんの横に立って、励ますように丸い背中をポンポンしています。

 マグノラさんはダンゴローさんのことをじっと見つめました。それからふうっと息を吐き出して、黒ドラちゃんにこう言いました。

「あたしもフカフカ谷とやらは行ったことがないし、見たこともないんだよ」

「う、うん」

「ダンゴロムシっていうのはとても臆病な妖精でね、滅多に地上には現れないんだ」

「う、うん……」

「だから、フカフカ谷への帰り道はあたしにもわからない」

「ぶぶ……」

 見ると、モッチの横でダンゴローさんがしょんぼりと背中を丸めていました。


「だけど、カーラスを探す方ならば、多少は役に立てるかもしれないよ」

「本当!?」

「ああ。黒チビちゃん、何しろこの国ならばお前さんのお友達がいるじゃないか、北にも南にも」

「うん!」

「まずはブランを呼んでごらん。それからラウザーを呼んでもらおうか。そうそう、ラキ様もね」

「ラキ様も?」

 ドンちゃんが不思議そうに聞き返しました。

「ああ。多分ラキ様に色々とお願いすることになるだろうね」

「そうなの?」

「さあさ、まずは北の山の坊やを呼んでごらん、すぐに飛んでくるだろうからね」

「うん!」


 黒ドラちゃんは背中の魔石に力を込めてブランが来てくれるように願いました。


「ふんぬ~~~~!」

 背中の魔石のうろこがほわ~んと光ります。


「来てくれるかな?」

「ぶぶいん?」


 みんなでそわそわしながら待っていると、まもなくブランが黒ドラちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。


 マグノラさんの言った通り、すごい速さで飛んできてくれたようです。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る