第187話-金のスコップと空の悪魔
「あの日、いつものように掘り進んでいたのですが、ふと、ちょっとだけ空の青さが懐かしくなりまして……」
ダンゴローさんは、その日も一生懸命に土の中を進んでいました。日陰大好きなダンゴロムシさんたちですが、決して太陽を嫌いだというわけではありません。むしろ、ほんの僅かしか見ることが出来ないからこそ、日の光や空の青さを美しいと感じるのです。
久しぶりに、ちょっとだけ空を見て見ようか。そんな気持ちで土の中から顔を出したとたん、何か大きな影が上を横切りました。危ない!!そう感じて土の中に戻ろうとしましたが、鋭いくちばしが襲ってきて、思わず金のスコップを盾代わりにしてしまったそうです。
それは、本当にあっという間でした。金のスコップごと咥えられ、空高く持ち上げられました。思わず恐怖で体を丸めた時、金のスコップから手を離してしまったのです。ダンゴローさんは高い空の上から草の上に落ちました。硬く丸まった体は、殻に覆われているので無傷でした。
けれど、大切な魔法のアイテムを失ってしまったのです。
「それって、きっと鳥でしょ?どんな鳥だったか覚えてる?」
ドンちゃんがたずねます。
「それはそれはおそろしく大きく凶暴で真っ黒な姿はまさしく“空の悪魔”でした!」
ダンゴローさんが身を震わせながら説明します。
黒ドラちゃんとドンちゃんは顔を見合わせました。
「それって、ひょっとして、カーラスじゃない?」
「カーラス!?やはり有名な魔物なのですね!?」
勢い良く聞き返すダンゴローさんに、黒ドラちゃんもドンちゃんも何とも答えられなくなってしまいました。
「それほど有名ならば、すぐに居場所がわかるでしょうか?」
「う~ん」
「カーラスかあ……」
「あ、いえ、ご安心ください。あのような凶暴な魔物と皆様を関わらせるつもりなどございません!」
「いや、えっと、その」
「場所さえわかれば、どれほど時間がかかろうと、わたし自身でたどりつき、金のスコップを取り戻す所存!!」
ダンゴローさんが黒ポチのお目めをキッとさせて宣言しています。
黒ドラちゃんたちは困ってしまいました。カーラスは有名な魔物ではなく、ごくごくありふれた普通の鳥です。バルデーシュの北の端から南の端まで、いや、バルデーシュ以外でもそれこそどこにでもいます。ありふれているからこそ、金のスコップを持ち去った一羽を探すのは大変なことでしょう。
「あのね、ダンゴローさん、カーラスってね、魔物じゃないんだよ」
「なんですと!?あれほどの凶暴な生きものが魔物ではないと!?」
「うん。あのね、どこにでもいるありふれた鳥なんだ」
「……ありふれた、鳥?普通の鳥ですか?」
「うん」
「限られた地域にのみ存在するとか……」
「ううん。どこにでもいるんだ。山にも森にも街中にもいたと思うよ」
黒ドラちゃんの言葉に、ダンゴローさんの目が下がったように見えました。モッチが元気出しなよ、みたいに丸い背中をポンポンしています。
「それでは、わたしの金のスコップを持ち去った一羽を探し出すのは……至難の業ですね」
ダンゴローさんが、絞り出すようにつぶやきました。
「ぶぶん!」
モッチが立ち上がりました。
「ぶぶいん!ぶいん!」
「そうだよ!諦めるのは早いよ!」
「うん、そうだよね!みんなで探せばきっと見つけられるよ!」
黒ドラちゃんもドンちゃんも立ち上がりました。
「いや、しかし皆様を巻き込むことは……」
「ぶぶん!ぶん!」
巻き込んだのはこっち!とモッチが言っています。
「少なくともバルデーシュに棲むカーラスだよ、きっと。カーラスには縄張りがあるはずだもん」
「そうだ!さすがドンちゃん、冴えてる!!」
黒ドラちゃんがドンちゃんを抱き上げて頭の上に乗せました。その上にモッチが乗ります。モッチはダンゴローさんを抱えています。
「まずはマグノラさんのところへ行こう!」
黒ドラちゃんが元気よく声をあげました。
「そうそう!マグノラさんならきっと何か道を見つけてくれるよ!」
ドンちゃんが続けます。
「道、ですか?」
「ぶぶいん!」
「道……見つかるでしょうか?」
不安そうにつぶやくダンゴローさんを乗せて、黒ドラちゃんは白いお花の森へ向けて、元気よく飛び立ちました。
白いお花の森へ向かう途中で、ドンちゃんの頭の上のモッチが「ぶいん、ぶいん!」と羽音を立てました。
「このへん?ここいらへんでダンゴローさんを拾ったの?」
「ぶいん!」
「そうですか、このへんだったのですね。わたしにはわからないのです」
「え、そうなの?」
「はい。金のスコップを奪われてから、土の中を進めなくなってしまったので、昼間は出来るだけ草の陰でじっとして、夜だけ進んでいたものですから」
「そうだったんだ」
「じゃあ、カーラスに襲われたのはここらへんじゃなかったのかな?」
「すみません、すごく離れた場所ではないと思うのですが、すぐ近くなのかと問われると、それも自信がなく……」
「良いよ良いよ!バルデーシュの中でなら、北はブランがいるし南はラウザーがいる。あたしも協力するし、必ず見つかるよ!」
黒ドラちゃんが力強く言うと、ダンゴローさんが「ブラン?ラウザー?」と不思議そうにつぶやいています。
「あのね、ブランて言うのは北の山に棲む輝竜なんだよ。ラウザーは南の砂漠に棲んでる陽気な竜なの。みんな黒ドラちゃんのお友達だから、きっと助けてくれるよ!」
ドンちゃんが教えてあげると、ダンゴローさんがびっくりして叫びました。
「竜!?竜とおっしゃいましたか!?」
「う、うん」
「竜とお友達とは!黒ドラ様はすごい方なのですね!!」
「いや、そんなあ。だってあたしも竜だし、別に他の竜とお友達でも、そんなに驚くようなことじゃないと、」
「なんですと!!黒ドラ様は竜なのですか!!」
ダンゴローさんの叫び声に黒ドラちゃんたちは呆気に取られました。
「えっと、竜以外の何だと思ってたの?」
「大きな、とてつもなく大きな丸っこい鳥だとばかり」
「……」
魔物だと思われなかっただけ良いや、と黒ドラちゃんがため息をついた時、白いお花の森へ着きました。
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