第151話-それ、にくまーんでしょっ?
お城の中では黒ドラちゃんたちを歓迎する宴が準備されていました。美味しそうな料理に美しい音楽が鳴り響いています。黒ドラちゃんたちは「わあ~!」っと歓声をあげました。
ご馳走になってすっかり満足そうな黒ドラちゃんたちの様子を見て、女王がさりげなくたずねてきました。
「ところで、陽竜様と古竜様は、どのような理由でわざわざナゴーンまでお越しになったのでしょう?」
周りの貴族達も談笑しているふりをしながら目いっぱい聞き耳を立てています。
「あのね~、ラマデ
「あのぉ、陽竜様達はナゴーンで有名なホーク伯爵のニクマーン像が見たいと、急にわがままをおっしゃられて……」
黒ドラちゃんの言葉をさえぎって、リュングが答えます。
「ニクマーン像?金・銀・銅のあれでしょうか?」
「ええ、そうなんですぅ。古竜様は先日ノーランドへお出かけされたばかりで、彼の国でリッチマンと三匹のニクマーンのお話を耳にされたそうで」
「ああ、私も知っております。ノーランドの有名な昔話ですね?」
「はい。そ~したら、陽竜様がニクマーン像ならナゴーンにあるとおっしゃられて……」
「まあ、そうでしたの!それでですか」
周りの貴族たちの間で舌打ちが聞こえてきました。
「?」
何の音だろう?と黒ドラちゃんがキョロキョロしました。
「あら、誰か魚の骨でも歯にはさまったのかしら?失礼をいたしました」
音のした方を目で制しながら、女王がわざとらしく微笑みました。
「でも、ニクマーン像は消えちゃったんですって」
黒ドラちゃんが残念そうに言います。
「盗まれたのかも知れないし、わからないってホーク伯爵は言ってたの」
「まあ。それは……せっかくご訪問頂いたのに、残念ですね」
「そうなの。だから人がいっぱいいる王都に来れば、知っている人もいるかもしれないと思って」
「それで王都を急しゅ、じゃなくて急ぎご訪問されたのですか?」
「うん。あのね、あたしニクマーン像に会わせるために、ニクマーンこけし持ってきてるの」
「ニクマーンこけし?」
女王が不思議そうに聞き返してきました。ナゴーンでは馴染みのない物なのでしょう。
「うん!ノーランドではみんな持ってるおもちゃみたいなんだけど、預かってきたんだ」
そう言いながら、黒ドラちゃんは、ドンちゃんに造ってもらったポシェットから、4つのニクマーンこけしを取り出します。
「まあ、これは何ともいえず可愛らしいですね」
女王は本心からの言葉でニクマーンこけしを褒めました。素朴な木の肌触り、丸っこくて思わず撫でたくなります。
すると、突然幼い子どもの声が響きました。
「にくまーんだ!それ、にくまーんでしょっ?ね?」
声の主はポル王子でした。今夜は奥に居るようにと命じられていたのですが、竜の姿をどうしても見てみたくて、部屋を抜け出していたのです。ポル王子のそばにはメル王女もいました。やはり王女も一目バルデーシュの竜を見てみたかったのです。
「まあ!王子も王女も、お客様の前ですよ!」
女王はあわてました。今夜は王女も王子も、安全のために宴の間から一番遠い部屋へ、わざわざ移しておいたはずでした。
「二人とも、侍女はどうしたの!?奥のお部屋にいなさいと言ったでしょう!?」
女王の剣幕にポル王子が涙ぐみます。
「りゅうにあいたかったの……火、ふくかな?って」
「吹きませんよっ!吹いてたまるもんですかっ!」
女王は思わず怒鳴ってから、しまった!というように口元を押さえました。
「いえ、そのようなことお耳に入れるなんて、陽竜様や古竜様に失礼ですわね?」
作り笑いをしながらも、二人の侍女を探して、せわしなくあちこち視線を動かしていました。
侍女はすぐに見つかりました。真っ青な顔をして女王の前にひざまずきます。
「お前達、すぐに二人を奥の部屋へ。いい?今夜はもう一歩も部屋から出してはなりませんよ!」
笑顔のまま、小声できつく言い含めます。
ポル王子はまだ名残り惜しそうにニクマーンこけしを見ていましたが、侍女に抱きあげられるとあきらめたようでした。
「しょーがないねー、メルおねえちゃま、おへやのにくまーんぞうであそぼー?」
その言葉を聞いて、黒ドラちゃんが思わず聞き返します。
「ニクマーン像?」
「うん!ぼく、ピカピカのにくまーんぞうもってるの!」
王子が嬉しそうに答えます。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「……えっ?」
女王、黒ドラちゃん、ラウザー、リュング、ドンちゃんと食いしん坊さん、そして最後は、ちょうど遅れて到着したホーク伯爵。
「ピカピカのニクマーン像って、金のニクマーン像?銀のニクマーン像?それとも銅のニクマーン像?」
黒ドラちゃんがたずねると、ポル王子は竜の女の子とお話しできたことが嬉しくて大きな声で答えました。
「ぜんぶだよ!」
「ぼくのにくまーんは、きんと、ぎんと、どうなの!みんなとってもなかよしなんだよ!」
ぼくのおへやにいるんだよ、という王子の声は、女王の悲鳴のような声でかき消されました。
「何を言っているの!?金・銀・銅のニクマーン像を、お前が持っているはずないでしょう!?」
「でも、ほんとにいるもん……」
ポル王子が再び涙ぐみました。
「だいたい、この間のホーク伯爵のパーティーの時、あなたはお留守番だったでしょう?ニクマーン像は見たこともないでしょう?」
気を取り直して少し優しい感じになりながら、ポル王子に話しかけた女王は、そこでハッとしました。
女王の視線の先には、真っ青になって震えるメル王女の姿がありました。
「……違う……わよね?」
女王が信じられないというように、メル王女を見つめました。メル王女は目に涙をいっぱいためて、女王のことを見つめました。
「ご、ごめんなさい……お母様」
メル王女の目から、大きな涙の粒が、こぼれ落ちました。
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