第150話-ナゴーンは大歓迎?
黒ドラちゃんたちが屋上へ近づくと、人々がさっと大きく場所を開けてくれました。
「どっこいしょ!」
黒ドラちゃんとラウザーが降り立つと、わぁ~っと人々が歓迎して集まって……来ませんね?
あれ?っと黒ドラちゃんが首をかしげていると、人垣が割れて赤の衣装を身にまとった、美しい女の人が微笑みながら前に出てきました。
「アマダ女王様?」
黒ドラちゃんがたずねると、女の人は一瞬驚いてビクッとしましたが、すぐに笑顔で答えてくれました。
「これは光栄でございます、貴方様は古竜様でしょうか?」
「うん!あたし、古の森の古竜の黒です!」
黒ドラちゃんの元気なお返事に、女王様はまた一瞬ビクッとしましたが、すぐに笑顔になりました。
「はるばるナゴーンへお越しくださいまして、ありがとうございます」
女王が胸に腕を当ててお辞儀をすると、顔を上げる間もなく横からラウザーが声をかけました。
「俺、陽竜のラウザー!よろしくよろしく~!」
いつも通りの陽気な声に、また女王は驚いて一瞬よろめきましたが、足を踏ん張って耐えました。
「陽竜様、お噂はかねがねお伺いしております。我が国の漁師がお世話になったことも少なくないとか?」
「うんうん、少なくない、少なくないよ~!でも、俺ナゴーンの漁師と仲良しだからさ、困ってれば助けるのは当たり前さ!」
ラウザーの返事に女王様は再び驚きましたが、今度は先ほどよりも自然な笑顔で「ありがとうございます」とお礼を言いました。
黒ドラちゃんが首から籠を降ろすと、中からドンちゃんと食いしん坊さんが顔を出しました。
「まあ、可愛らしい!」
女王が思わずといった感じで声に出してから、ハッと口元を押さえました。
「失礼いたしました。そちらは?」
「初めてお目にかかります。わたくしはノーランド魔ウサギのグィン・シーヴォ三世。そして妻のドンです」
妻の、って言うところで、食いしん坊さんは愛情たっぷりにドンちゃんを見つめました。仲良さそうな二匹の姿に、女王が眩しそうに目を細めます。
「ようこそ。ホーク伯爵の劇場で素晴らしいダンスを披露してくださったというのは、ご夫妻でしょうか?」
「恥ずかしながら。もうお耳に入っておりましたか」
そう言いながら食いしん坊さんはまんざらでもない様子です。ノラウサギダンスはノラウサギの誇りです。素晴らしいダンスって言われて、悪い気はしません。
女王が食いしん坊さん達とお話している間に、ラウザーの背中からリュングが降りてきました。ついさっきまで元気だったのに、なんだかフラフラしています。
女王がすぐに気付きました。
「あの、陽竜様、その方は――」
「あ、あのぉ、私は陽竜様のお付きのリュングと申しますぅ。魔術師の見習いですぅ……」
いつもの元気なリュングとは別人のようです。
「あ、あのぉ陽竜様ぁ、突然こんな風にナゴーンの王宮へ押し掛けるなんてダメですよぉ」
ラウザーに弱々しく訴えます。けれどラウザーは尻尾でペシンッとリュングを叩くと女王に向き直りました。
「これは俺のお目付け役なんだけど、まだ見習いだし魔力は弱いし気も弱いしで、全然役に立たないんですよねー」
棒読みのセリフですが、女王は気付いていないようです。ラウザーは、ここぞとばかりに尻尾でぺシペシとリュングを叩いています。どうやら、困ったちゃん竜とそれに振り回されてる見習い魔術師の図、を忠実に演じているようです。
それを見ていて黒ドラちゃんも困ったちゃん竜になることにしました。
「女王様、あたしお腹空いちゃった!」
「は、はいぃぃっ!?」
女王が驚いてのけぞっています。そんなに驚くことかな?と思いながら、なおも黒ドラちゃんは言いました。
「あたし、果物を甘く煮たやつ食べたいなあ?」
女王があからさまにホッとした様子を見せました。
「あ、果物ですか。ええ、料理ならご用意させていただいております。皆さま、ぜひ城の中へお入りください」
女王が目配せすると、兵士さんたちが黒ドラちゃんとラウザーを囲むようにして歩きだしました。
「ちょ、ちょっと待って!」
黒ドラちゃんが慌てて止めます。
「ふんぬっ!」
掛け声とともに黒ドラちゃんが黒髪の美少女に変身しました。ラウザーも人間の姿に変わります。
「お城の中に入るなら、この方が良いでしょ?」
黒ドラちゃんに可愛らしくたずねられて、あっけにとられていた女王がハッと我に返りました。
「ええ、ええ!もちろん!もちろんです」
先ほどまでとは打って変わって、周りを取り囲む兵士さん達もウキウキした感じで歩き出しました。黒ドラちゃんたちの後ろから、リュングがわざとらしくよろよろと付いて行きます。
こうして、困ったちゃん竜とその一行は、非公式にナゴーンのお城へと入り込むことになったのです。
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