第149話-竜がやってきた!

 黒ドラちゃん達がナゴーンの王都の上に着いた時、すでにすっかり日は沈み辺りは暗くなっていました。けれど、ナゴーンの王都は明るく活気があります。たくさんのお店があり、夜なのに人も多く見られました。


「ねえ、ラウザー、ナゴーンってすごいね!ノーランドの雪景色もステキだったけど、ナゴーンはもっとずっと元気な感じ」

「ナゴーンはノーランドと違って、わりと一年中暖かいからなあ。夜になっても外に出ている人間が多いんだよ」


 そう言われてみれば、子ども連れの母親同士が集まってにぎやかな集団を作っています。恋人同士が寄り添って、広場の噴水の淵に座って灯りに照らされて語り合っているのも見えました。若い男の人達が可愛らしい女の子達に話しかけて、何やら楽しそうに盛り上がっています。何だか見ているだけで楽しくなってきました。


 さて、どこに降りようかと黒ドラちゃんが辺りを見回した時、突然、ヒュルルルル~ッ!!聞きなれない音が響きました。同時に王宮の上にまっすぐ細い光が伸びていきます。次の瞬間、ドーン!と言う大きな音と同時に王宮の上で大きな光が広がりました。黒ドラちゃんはビックリして「ぎゃーーーーっ!」と言いながらその場でグルグル回ってしまいました。激しい動きに籠の中でドンちゃんも悲鳴を上げています。すぐに食いしん坊さんが何か魔力を使ったようで、黒ドラちゃんの体が優しく止められてグルグルが落ち着きました。


「い、今のなに!?ラウザー、リュング、大丈夫?」

 黒ドラちゃんがキョロキョロと辺りを見回すと、ラウザーはすぐ後ろで嬉しそうに夜空を見ています。

「大丈夫だったの?」

 黒ドラちゃんがラウザーにたずねると、ラウザーの背中からリュングが叫びました。

「古竜様、あれは花火ですよ!」

「はなび?」

「はい。バルデーシュにもありますよ。お祭りの夜などに、打ち上げるのです」

「そうなんだ、あたしびっくりしちゃった」

「ナゴーンでは普通の日にも打ち上げるんですね。良いなあ、きれいですよね」


 そう言われて見ると、さっきはビックリしちゃったけど、夜空に光の花が広がるなんてロマンチックです。ラウザーはお祭り竜と呼ばれているだけあって、花火は見慣れていたようでした。黒ドラちゃんと違ってビックリもしていません。


「でもさ、ナゴーンでも普通の日に花火が上がるなんて珍しいと思うぜ」

「そうなのですか?」

 リュングがラウザーにたずねます。

「だって、港町でもお祭りの時だけだって言ってたぜ。前に呼ばれて来たことがあるからさ、俺」

 そうラウザーが答えた時、再びヒュルルルッル~という音がしました。すぐに、ドーーーーンッ!と大きな音とともに、先ほどと同じように王宮の真上で大きな光の花が開きます。


「わあ!」

「きれい!」


 今度は黒ドラちゃんもドンちゃんも落ち着いて見ることが出来ました。そして、花火で照らされた王宮の屋上に、たくさんの人が集まっているのが見えました。さっきまで街を見るのに夢中だったので気付きませんでしたが、屋上にはたくさんのかがり火が焚かれています。集まっている人たちがこちらに手を振るのも見えました。いつかのノーランドの王宮のようです。


「ひょっとして、今の花火ってあたしたちのために打ち上げてくれたのかな?」

 黒ドラちゃんがつぶやくと、籠の中から食いしん坊さんが話しかけてきました。

「困ったちゃんの竜達は、花火にひかれて王宮にフラフラと立ち寄ってしまう、っていう感じでどうですかな?」

 リュングがラウザーと顔を見合わせました。

「よし!行きましょう!」

 リュングの声にみんなで「おー!」と答えます。黒ドラちゃんとラウザーはまっすぐに王宮へと飛んで行きました。

 三度目に打ち上げられた花火によって、夜空を飛ぶ二匹の竜の姿が王宮からも、広場の人々からもはっきりと見えました。見慣れぬ大きな影に人々が悲鳴をあげました。けれど黒ドラちゃんは、ノーランドの時のように、みんなが歓迎してくれていると思い込んでいます。楽しみに待ってくれている(はずの)王宮の人たちに向かって「おーい!」と大きな声で呼びかけました。

 王宮の屋上が騒がしくなりました。人々が走り回っているのが見えます。真ん中らへんに、真赤な衣装を纏った女の人が見えました。あれが女王様かな?と、黒ドラちゃんはまっさきにご挨拶しなきゃと思いました。

「おーい!おーい!遊びに来たよ~!女王さま~、こんばんは~!」

 黒ドラちゃんたちは上機嫌で王宮へと飛びました。



 ――――――――――



 赤の衣装を身に纏ったアマダ女王は、主だった貴族を集めて屋上へと上がりました。すでに王都は夜を迎えていますが、広場の上には黒い影が二つ羽ばたいて留まっています。まだ広場にいる人々は、自分たちの上を竜二匹が飛んでいるとは気付いていません。

 いつも通りの平和な風景の中にいると思っています。


「花火を」

 女王の声に、仕掛けの職人が花火の点火を準備し始めました。女王は、竜の意識を王宮に向けさせるつもりでした。広場へ竜が突然降りたって、人々が恐怖で混乱することが無いようにと考えたのです。

 一発目の花火を打ち上げると、小さい方の竜が慌てたようでした。竜を驚かすつもりではなかった女王はあせりましたが、すぐに竜の動きは収まりました。

 二発目の花火が上がった時、二匹の竜がこちらに気付いたのがわかりました。大きな方の竜が獲物を見付けた猟犬のように、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振り回しています。小さな方の竜が何か叫びました。

 三発目で広場の人々が竜に気付いたようでした。屋上では、兵士達が竜の気を引くために必死で手を振り回しています。二匹の竜は、すごいスピードで飛んできます。


 アマダ女王は後悔し始めていました。


 やはり白の衣装を選ぶべきだったか、と。

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