8章*大好きなのって隠してるんだ!?の巻
第131話-不思議な笛の音
古の森の湖のほとりで、黒ドラちゃんが水の中を楽しそうに泳ぐお魚さんたちを見ていました。湖はエメラルド色に輝き、いつものように良いお天気です。新婚のドン、毎日お城へ出かける食いしん坊さんを見送ってから、黒ドラちゃんのところへ来てくれるようになりました。今日も、もうすぐここへ来てくれるでしょう。
フンフン♪とご機嫌で湖をのぞき込んでいると、どこからか笛の音が聞こえてきました。それはとても楽しげで、聞いていると思わず踊りだしたくなるよう。黒ドラちゃんは、気になってキョロキョロとあたりを見回しました。
すると、森の中から若草色のエプロン姿のドンちゃんが、ぴょんと飛び出してきました。キョロキョロしながら黒ドラちゃんに聞いてきます。
「黒ドラちゃん、この音色って誰が出してるんだろうね?」
どうやら笛の音に惹かれて、急いで出てきたようです。
「ねえ、誰が吹いているか探しに行ってみようか?」
「うん!」
さっそくいつものようにドンちゃんを背中に乗せると、黒ドラちゃんは笛の音色の出所を探し始めました。
「誰が吹いているのかなあ?」
森には笛を吹くような動物さんはいなかったはずです。
ぐるぐると探しているうちに、どうやら笛の音は森の南側から聞こえてきているようだとわかりました。黒ドラちゃんは笛の音のする方へどんどん近付いていきました。やがて、森の南の端っこで、フリフリした服を着て笛を吹いている、金色の長い髪をした可愛らしい女の子を見つけました。目をつぶって一生懸命笛を吹いているので、黒ドラちゃんが飛んできたことに気づいていません。
ドスンッと黒ドラちゃんがすぐそばに降りると、びっくりしてその場に尻もちをつきました。
「あ、ごめんね、ビックリさせちゃった?ねえ、あなたはだあれ?どうしてここで笛を吹いているの?」
黒ドラちゃんが顔を近づけてたずねると、女の子は震える声で答えてくれました。
「わ、わたしは吟遊詩人のラマディ……アともうします」
「ぎんゆーしじん?」
黒ドラちゃんはそれってどこかで聞いたなあ、と思いました。
「い、古の森の古竜様のお噂をノーランドで聞きまして、ぜひ一度この目で拝見したく、はるばる旅してまいりました」
「ああ、そうだ!ノーランドでモーデさんが言ってたっけ。吟遊詩人って色々な物語を聞かせてくれる人でしょ?」
「はい、はい、その通りでございます!」
「お話をしに来てくれたの?」
「えっ、その……はい、そうでございます」
「じゃあさ、森の広場に来てよ。みんなを集めるから、そこでお話してくれる?」
「森の中に入れていただけるのですか?!」
「うん。来てくれる?」
「はい!もちろんです!」
黒ドラちゃんはラマディアに「背中に乗りなよ!」と言いましたが、空を飛ぶのは怖いから、と断られてしまいました。ラマディアは、いそいそと足元の荷物を担ぐと黒ドラちゃんが飛んでいるのを追いかけて森を進んできます。キョロキョロしながらも、黒ドラちゃんを見失わないように一生懸命です。黒ドラちゃんは、森の上を飛びながら「みんな~、お話してくれるぎんゆーしじんの女の子が来たよ~!」と森のみんなに声をかけます。穴の中から、木々の間から、たくさんの森の仲間が顔を出して、黒ドラちゃんの呼びかけを聞いていました。
やがて、森の中心の湖のそばまでやってきました。黒ドラちゃんが、ドスンッと降り立つと、後からラマディアが小走りでやってきました。可愛らしい華奢な姿に見合わず、けっこう体力がありそうです。
「ねえ、きっともうすぐみんながここに集まってくるからさあ、そうしたらお話始めてくれる?」
黒ドラちゃんはラマディアの前にドデンと座りました。期待で瞳がキラキラしています。ラマディアはニッコリ微笑んで「はい、古竜様!」と可愛らしく答えました。森の中から、可愛い系のみんながすぐに集まってきました。
魔ねずみさんや魔リスちゃんは、黒ドラちゃんの身体のあちこちに登っています。ドンちゃんは黒ドラちゃんの隣、頭の上にはモッチもいます。
「いいよ~!お話お願いしまーす!」
黒ドラちゃんが声をかけると、ラマディアはコホンと咳払いしてから語り始めました。
「それでは、古の森の古竜様、皆々様にお聞かせするは、この大陸に古くから伝わる、冒険と友情の物がた」
「あのね、ノーランドで流行ってるって聞いたんだけど、あたし、カモミラ王女の恋物語っていうの、聞きたい!!」
黒ドラちゃんがラマディアの語りを遮ってそう言うと、ドンちゃんを始め周りのみんなもウンウンとうなずいています。
「ええと、カモミラ王女の恋物語……でございますか?」
「うん!すごい人気なんでしょ!?」
「ええと、そうでございますねえ、……そちらのお話も良いのですが、今日は皆様にとびきり面白いお話をご用意しておりまして」
「そうなの?」
「はい。カモミラ様のお話は、またぜひ今度の機会にさせていただいて、今日はリッチマンと三匹のニクマーンのお話をさせていただこうかと」
「あっ!あたしそれ知ってる!聖J・リッチマンと金・銀・銅のニクマーンでしょ!?」
黒ドラちゃんが目をキラキラさせながらラマディアに聞くと、なぜかホッとしたようにラマディアが「ええ、とても面白いお話ですよね」と答えてくれました。
「あのね、モッチとノーランドに行った時に、ドーテさんの双子の妹のモーデさんていう人に会ってね、それで絵本を読んでもらったの!」
黒ドラちゃんがみんなに話すと、ラマディアがうなずいて続けます。
「そうですね、ノーランドではとても有名な童話らしいですね」
そう答えると、ラマディアはまわりのみんなをぐるっと見回しました。
「それでは、今日はそのお話をさせていただくということでよろしいでしょうか?」
黒ドラちゃんが元気よくコクコクとうなずくと、みんなも一緒にうなずきました。ラマディアはその様子を確かめると、先ほどの続きをゆっくりと語り始めました。
「昔々のことでございます。ノーランドにはニクマーンという、お饅頭のような形をした、柔くて弱い魔獣がたくさん棲んでおりました――」
みんなは一言も聞き漏らすまいと耳を澄ませて聞いています。ラマディアは時に悲しげに、時に楽しげに、歌うように語り、身振り手振りを交えリッチマンとニクマーンのお話を聞かせてくれました。
「……そうして、今でもこの大陸の東のどこかには、金・銀・銅のニクマーンが、リッチマンの亡骸を守って暮らしている、と言い伝えられているのです」
ラマディアが最後まで語りゆっくりとお辞儀をすると、みんなは「ほ~っ」と息を吐き出しました。黒ドラちゃんがパチパチと拍手をすると、みんなも尻尾をパタパタと鳴らしたりして、拍手の代わりにラマディアに贈ります。
「あたし、いつか東の方へニクマーンの楽園を探しに行きたいなあ」
黒ドラちゃんがつぶやくと、ドンちゃんも「あたしも!あたしも!」とぴょんぴょんしながら声を上げます。モッチも「ぶいん!ぶいん!」とドンちゃんの頭の上で飛び回っています。みんな、ニクマーンの楽園を思い描いて、冒険の旅を夢見ているようです。
すると、それを見ていたラマディアが、みんなに聞こえるように、ちょっと大きめにつぶやきました。
「そうですねえ……金と銀と銅のニクマーン像でしたら、お目にかけることが出来るかもしれないのですが……」
「えっ!なにそれ!?金と銀と銅のニクマーン像なんて、どこにあるの!?」
すぐに黒ドラちゃんが聞き返してきました。ドンちゃんも、モッチも可愛い系のみんなも身を乗り出しています。
「バルデーシュの南にナゴーンという国があるのはご存知ですか?」
「ナゴーン?名前だけなら……。海の向こうでしょ?」
「ええ。その国のある貴族が金と銀と銅のニクマーン像を持っていて、お客様として迎えた方には必ず見せてくれるのだとか」
「それ、本当!?見てみたいなあ」
黒ドラちゃんは金と銀と銅のニクマーン像を想像してみました。
キラキラと華やかに光る金のニクマーン、上品な輝きの銀のニクマーン、そして優しい輝きの銅のニクマーン。三体のニクマーン像が、黒ドラちゃんの前に並んでいます。黒ドラちゃんがニクマーン像を思わず両手で包もうと――
「では、一緒に見に行きましょうか?」
ラマディアの声で、頭の中のニクマーン像たちはかき消されました。
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