第55話ー最高級はちみつ玉

 ゲルードにはお礼を言ってお別れしました。別れ際に「あの、ラウザーのことあんまり怒らないでね」と黒ドラちゃんが言うと、ゲルードから「王は聡明なお方。王のご判断をお待ちください」とだけ言われました。



 黒ドラちゃんはドンちゃんとクマン魔蜂さんを連れて森の中に入っていきます。ドンちゃんのお家では、お母さんが心配そうに巣穴を出たり入ったりして待っていました。

「ただいま!遅くなっちゃってごめんなさい!」

 黒ドラちゃんが言うと、ドンちゃんも「お母さん、ただいま!」と言いました。ドンちゃんのお母さんは、ふんふんとひとしきり匂いを嗅いでから「おかえり。海は楽しかった?」と聞いてくれました。黒ドラちゃんとドンちゃんは何て答えたら良いのか、顔を見合わせてしまいました。

「あらあら、色々あったのね?でも無事に帰ってこられて良かった。マグノラ様のおかげね。海へのお出かけのお話は、明日ゆっくり聞きましょう」

 そう言ってお母さんは巣穴の中に入っていきました。ドンちゃんも「黒ドラちゃん、またね!」と言いながらお母さんの後に続きます。


 黒ドラちゃんはフジュの枝を持って、クマン魔蜂さんを巣のところまで連れて行きました。もうだいぶ萎れてきていますが、クマン魔蜂さんはまだお花に頭を突っ込んだままです。

「クマン魔蜂さん、ちょっと待ってね」

 そっとお花からクマン魔蜂さんをどかすと、黒ドラちゃんは枝を地面にトスッと突き刺しました。それから、あの大きなフジュの樹を思い出します。

足元の萎れたフジュが根を張って、あんな風に花を咲かせてくれるようになったら良いな、そう想って目を閉じるとフジュの花の香りをいっぱい吸い込みました。すると、フジュの枝がポワンっと光って、枝のあったところには、根を張った小さなフジュの樹が生えていました。

「ぶいん!ぶいん!ぶいーーん!」

 クマン魔蜂さんが大興奮でフジュの樹の周りを飛び回っています。

「クマン魔蜂さん、今日はありがとう。また一緒にお出かけしようね」

 まだブンブン大興奮のクマン魔蜂さんにお別れをして、黒ドラちゃんは洞のお家に戻ってきました。どっこらしょ、と丸くなったところで、おやつの木の実を全然食べていないことに気が付きました。

「もったいないから明日ドンちゃんと食べよう……」

 そのまま黒ドラちゃんはすやすやと眠りにつきました。


 外ではお星さまがチカチカしています。ラウザーも浜辺で見ているでしょうか。今夜はブランがいるから「淋しい淋しい」とは、お星さまは言っていないですよね。



 翌朝、黒ドラちゃんはクマン魔蜂さんに起こされました。ぶんぶん言ってるクマン魔蜂さんに「なあに?」と寝ぼけ眼の黒ドラちゃんが答えると、クマン魔蜂さんが黒ドラちゃんの手にとまりました。

「うん?」

 と思ってみてみると、クマン魔蜂さんは大きなはちみつ玉を持っています。

「あ、ひょっとして、それってフジュの蜜から作ったの?」

 クマン魔蜂さんはぶいんぶいん羽音を鳴らしながら、黒ドラちゃんの手の平にはちみつ玉を落としました。そして、3回ほどその場で円を描くように飛ぶと、そのまま洞の外に向かって飛んでいきました。黒ドラちゃんがはちみつ玉を手に取ってみると、フジュの花の良い香りがしました。なんだか『最上級はちみつ玉』って感じです。

「すごいなあ」

 黒ドラちゃんは、昨日のおやつの木の実と一緒に、フジュのハチミツ玉も白い布に包みました。包みの中には海で拾った貝がらも入れてありました。

なんでもしまえちゃう、便利な布です。あとでゲルードにお礼を言わなくちゃ、と黒ドラちゃんは思いました。



 さて、今日はまっさきに行くところがあります。マグノラさんのところへお礼に行こうと思っているのです。マグノラさんが「クマン魔蜂を連れてお行き」と言ってくれなかったら、とても無事にロータを帰してあげることは出来なかったでしょう。

 森の外れまで飛んでいくと、ちょうどゲルードが馬に乗ったまま魔法で現れるところでした。

「あ、ゲルード!」

 黒ドラちゃんが飛んでいくと、ゲルードがすぐに気付きました。

「これはこれは古竜様。おはようございます」

「おはよー!こんなに早く、どうしたの?」

「昨日の一件、城に帰ってさっそく王にご相談いたしました」

「う、うん。それで?」

「王はお話をお聞きになり、陽竜殿には棲み処を変えていただくようにとのことでした」

「えっ!」

 黒ドラちゃんはびっくりして変に胸がドキドキしてきました。やはりラウザーは国を追い出されるのでしょうか?


「王のお考えは――」

 そこまでゲルードが話した時、魔法の馬車が現れました。黒ドラちゃんとゲルードのところまで来ると自然と停まって、中からブランとラウザーが降りてきました。


「ラウザー!」

 黒ドラちゃんがラウザーに飛びつきました。竜の姿の黒ドラちゃんが、人間の姿のラウザーに飛びつくのは何だかすごい光景でしたが、ラウザーは踏ん張って黒ドラちゃんを抱きとめました。でも、さすがに身動きが取れないようです。その隣で、ブランは違う意味でショックで身動きできなくなっていました。

 あ、ちょっと涙目ですよ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る