4章*貝をお耳にあてるんだ!の巻

第40話ー陽気なラウザー

 黒ドラちゃんは、エメラルドグリーンに輝く湖で泳いでいました。水の中には小さなお魚さんがたくさんいます。お魚さんの銀色のキラキラと一緒になって、黒ドラちゃんは水の中で自由気ままに動き回っています。

 ドンちゃんは、湖のほとりで大好物のクローバーをむしゃむしゃと食べながら、その様子を眺めていました。時々、黒ドラちゃんの背中の真ん中で、エメラルドグリーンのうろこが日の光を反射して、七色にキラキラ光るのがとてもきれいでした。

「ドンちゃーん、ちょっとだけ湖に入ってみない?すごく楽しいよ!」

 黒ドラちゃんはいつも誘うのですが、ドンちゃんの答えもいつも同じです。

「あたし、見てるほうが好き。お水に入っちゃダメってお母さんが言ってたし」

「そっかあ、わかったよー!」

 そう言って、黒ドラちゃんはまたザッパーン!と水の中に潜っていきます。

 湖でたっぷりと遊んだ後、今度はドンちゃんを背中に乗せて森のお散歩に出かけました。森を飛んでいると、嗅いだことのない匂いがしてきました。

「ドンちゃん、匂う?」

 黒ドラちゃんが尋ねるとドンちゃんが首を傾げました。

「何が?」

 どうやらドンちゃんにはわからないようです。ってことはひょっとして……

「知らない竜が森に来てるのかも!行って見てもいい?」

 黒ドラちゃんが言うと、すぐに背中から「タンッ!」と元気の良い合図が帰ってきました。匂いのするほうへ飛んでいくと、森の南の外れの方に橙色の塊が見えてきました。森に入って迷っていたようで、木々の間をあっちこっちウロウロしています。

「おーい!」

黒ドラちゃんが呼びかけると「おっ!そっちかあ!」と明るい声で応えて飛んできました。

「助かったぜー!俺、ラウザー、陽竜さ、よろしくな!」

 そう言って橙色の竜がクルッと空中で一回転してみせます。あ、この竜ってブランが言ってた「気の良いラウザー」じゃないでしょうか。

「あのさー、ブランのお友達のラウザー?」

 黒ドラちゃんが尋ねると「おっ!聞いてる?その通りさ、よろしくなー黒ちゃん」とすっかりお友達な感じの返事が返ってきました。

「ねえねえ黒ドラちゃん、この、ラウザーって知り合いなの?」

 背中のドンちゃんが聞いてきます。

「おっ!そっちは野ウサギのドンちゃんか?!よろしくよろしくー!!」

 またまた一回転です。


「あのね、ラウザーってね、ブランのお友達なんだって。この間ブランがお泊りした時に聞いたんだ」

「へえー「なにーーーっ!?ブランってば黒ちゃんのおうちに泊まったのか?」

 ドンちゃんの返事をさえぎってラウザーが叫びました。

「う、うん。ブランから聞いてないの?」

「あんにゃろめ~、真面目そうな顔して隅に置けないぜ!」

 なんだかラウザーが「今に俺だって」とか「りありゅうめ」とか変なこと言ってます。

 それにしても、どうして突然ラウザーが現れたんでしょう。ブランが古の森に遊びにきているとでも思ったんでしょうか?

「今日はブランは来てないよ?」

 黒ドラちゃんがそう言うと「知ってる、知ってる」とラウザーがうなずきました。

「じゃあ、ラウザーはなんでここに来たの?」

 ドンちゃんも同じこと考えていたみたいです。

 ラウザーは空中に浮かびながら、あちこち視線をさまよわせて、尻尾の先っちょを自分でつかんでぎゅっとしたり緩めたりしていましたが、思い切ったように言いました。

「あのさー、黒ちゃん、海を見に行かない?」

「うみ?」

「なにそれ」

 黒ドラちゃんとドンちゃんがコテンと首を傾げます。

「えっとお、なんていうか海って言うのはすごくたくさんの水があって、魚が泳いでいたり、すごくキレイで、えっと、とにかく大きいんだ!」

 ラウザーはあまり説明するのは上手じゃないみたいです。

「それなら湖と同じだね」

 黒ドラちゃんが言うと「違う、違う、全然違うんだよ~!」と困ったような顔で応えました。

「海と湖じゃあ全然違うんだよ!なんていうか~……」


「湖よりも全然大きいし、海には波があるよね、それに海の水は塩辛い」


「そう!その通り!」

 考え込んでいたラウザーがパッと嬉しそうに顔を上げて、黒ドラちゃんの後ろを見ると「ブラン!」と叫びました黒ドラちゃんが振り向くと、不機嫌そうなブランがすぐ後ろにいました。

「ブラン!遊びに来てくれたのー?ラウザーの話に夢中になってたから、全然気づかなかったあ!」

 黒ドラちゃんは嬉しくてブランに飛びつきました。

「……うん。なんとなく黒ちゃんの顔が見たくなってさ」

 ブランが黒ドラちゃんを抱きとめながら、うろこをほんのりピンク色に染めています。

「くぅ~、何だよ、何だよ、見せ付けるなあ、ったくよ~」

 ラウザーが尻尾をぶんぶん振り回して、空中にも関わらずゴロゴロしています。

「それより、お前さ、今、黒ちゃんのこと森の外へ連れ出そうとしていなかったか?」

 ブランが黒ドラちゃんとラウザーの間に割って入ってきて聞きました。

「えっ!いや、その、えっと……」

 ラウザーは、とたんにそわそわしておかしな感じになりました。

「なんで僕に黙って黒ちゃんに会いに来たんだ」

「えっ、ブランに聞いて訪ねて来たんじゃないの?」

 黒ドラちゃんがラウザーに聞くと「いや、その」とますますおかしな感じになりました。

「黒ちゃんのことは、まだほとんどラウザーには話してないよ。ここんとこしばらく会ってなかったからね」

「そうなんだあ」

 黒ドラちゃんとドンちゃんの声が重なりました。


 お空でずっと話すのも何なので、下に降りようとブランが言って、森のはずれの草原に竜3匹で降り立ちました。


「俺さ、黒ちゃんのことは、マグノラねえさんに聞いたんだ」

 ラウザーが話し出します。

「マグノラさん!?」

 黒ドラちゃんもブランも驚きました。ついこの間、黒ドラちゃんの初鱗でお世話になったばかりですが、ラウザーのことは何も言っていませんでした。


「マグノラさん、ラウザーのこと何も言ってなかったよ?」

 黒ドラちゃんがそう言うとラウザーがうなずきました。

「そりゃそうだよ、俺、今朝マグノラねえさんに会って来たばかりだからさ」

「じゃあ、それですぐにあたしに会いに来たの?」

「うん」

「なんでそんなに急に来たんだ?」

 ブランが問い詰めます。


「あ、あのさー、黒ちゃんが初鱗を無事に乗り越えたって言うからさ、俺んところに遊びに来ないかな、って」

「なんでお前のところに行く必要があるんだよ」

 ブランは重ねて問い詰めます。

「えっとさ、せっかく初鱗を終えたんだからさ、色々なところに遊びに行きたいんじゃないかなって。……黒ちゃん、海、見たことないだろ?」


 黒ドラちゃんはうなずきました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る