第16話-森のおみやげ

 ようやく黒ドラちゃんとドンちゃんが泣きやむと、お城に行く日を決めてからブランたちは帰っていきました。


 いつの間にか、もうすっかり夕方です。黒ドラちゃんがドンちゃんをおうちに送っていくと、出てきたお母さんはお耳のリボンを見てビックリしていました。


「本当にお城に行くのね。まあまあまあまあ、大変だわ。な、な、何か持たせなきゃ」

 お母さんがものすごく焦ったように言いました。


「何かって、なあに?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんが尋ねると

「お城にお呼ばれするんですもの、何かお城の方たちに贈り物を持っていかなきゃ失礼になるんじゃないかしら?」

 お母さんはすっかり不安になっちゃったみたいです。どうしようどうしようって巣穴の周りをウロウロしています。


 こんなお母さん初めて見ました。よほど驚いたんですね。お城に行くって話してあったのに、どうやら今までは信じていなかったみたいです。


「じゃあ、明日は森で贈り物になりそうなもの探そうよ」

 黒ドラちゃんがドンちゃんに言いました。


 それを聞いて、お母さんもちょっと落ち着いてきました。


「綺麗な木の実とか、美味しい木の実とか、明日お母さんも一緒に探すわ」


「じゃあ、明日の朝迎えに来るね」

 黒ドラちゃんはドンちゃん親子と約束して洞へ戻りました。


 次の日、黒ドラちゃんはドンちゃん親子と森でたくさんの木の実を見つけました。

 綺麗なお花もあったので、摘んで持っていくことにしました。


 初めのうちは、枯れちゃうんじゃないかって心配していたんですが、ドンちゃんが素敵なことを考えだしました。


「黒ドラちゃんが、綺麗なままで王子様に見せたい!って考えたら、枯れないんじゃない?」って。


 ドンちゃん雪を作った時のことを話してあったので、それで考え付いたんですって。ドンちゃんってすごいね。


 さっそく、キラキラした素敵な王子様が花束を受け取ってくれている姿を思い浮かべました。


『ありがとう、黒ドラちゃん、ドンちゃん、お城へようこそ!』そう言ってニッコリ笑ってくれるんです!


「キャー!王子様ステキ!」

 黒ドラちゃんが叫んだ途端に、お花が一瞬きらりと光りました。


「きっと、今ので枯れなくなったんじゃないかな」

 ドンちゃんが言いました。


 花束は、その後も時々きらっ、きらっと光っていて、いかにも魔力がこもっていそうな感じです。きっと綺麗なままで王子様に見せることが出来るでしょう。

 他にも美味しそうなものもいくつか見つかって、黒ドラちゃん達のお城へ行く準備は万端整いました。




* * * * *




 さあ、今日はいよいよお城へ行く日です。黒ドラちゃんは森を出るまで竜の姿で飛んでいくことになりました。


 背中には白い布で作った小包を二つ背負っていて、その間に挟まれるようにドンちゃんが乗っています。

 1つの小包には、黒ドラちゃんの着るドレスや靴や髪飾りが入っています。もう1つには、森で見つけたお土産がたっくさん入れてあります。


 小包の白い布は、森のお土産を持っていきたいって言ったら、ゲルードが用意してくれました。

 初めはもっと小さかったんですけど、黒ドラちゃんがもっと大きい布が良いなぁって思ったら、ぐんっと大きくなりました。黒ドラちゃんもドンちゃんもご機嫌です。ドンちゃんのお母さんも、今朝は笑顔で見送ってくれました。



「ブラン!来たよー!」


 森のはずれではブランが待っていてくれました。黒ドラちゃんが降りると、ブランがさっそく人間になります。

 そして、近くに停めてあった馬車に乗ってお城に行くんだと教えてくれました。

 黒ドラちゃんも「ふんぬっ!」と言って人間になりました。初めて成功した時から「ふんぬっ!」って掛け声をかけないとうまく変身できなくなっちゃったんですって。もっと女の子らしい可愛い掛け声なら良かったのに、ちょっと残念ですよね。


 黒ドラちゃんは可愛らしい女の子になると、ドンちゃんのお耳にリボンを付けて、自分もドレスや靴を身につけました。

 髪飾りとアクセサリーはブランが付けてくれます。指輪をはめる時にブランの手がブルブル震えていたので「人間の姿で細かい作業をするのは大変なんだねー」と黒ドラちゃんが言うと「そ、そうかもね」と、なぜかため息をつきながら答えてくれました。


 可愛い姿になって、黒ドラちゃんとドンちゃんはブランと一緒に馬車に乗り込みました。森のお土産の小包はしっかり黒ドラちゃんが持っています。


 普通の馬車なら1日近くかかる道のりですが、これは魔法の馬車なんですって。ゲルードが特別に用意してくれたとかで、少し馬車が揺れたな、と思ったら、もうお城のある街に着いていました。


 黒ドラちゃんもドンちゃんも馬車の窓に顔をべったり付けて外を熱心に見ています。


 ブランは何度も来たことがあるので、そんな二人の様子をにこにこしながら見ていました。


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