第15話-ドレスを着るの?

「えっと、すごく可愛くてキレイだけど、あたしには着られないと思うよ、ゲルード」

 黒ドラちゃんが申し訳なさそうに言うと、ゲルードは「まずは輝竜殿のお話をお聞きください」と言いました。


 ブランは黒ドラちゃんの前に立って優しく話しだしました。

「この前、王子様に会うためにお城に行くって話をしていたよね?」


「うん、ゲルードの大事な王子様だよね?」


「そう、それでね、お城に行くならやはり竜の姿では無くて人間になって行った方が良いと思うんだ」


「え!?人間になるの!?それってあたしが人間になるってこと!?」

 黒ドラちゃんはびっくりして目をパチクリさせました。ドンちゃんも驚いて背中でやたらとタンタンしています。


「あたし人間にはなれないと思うけど……」


 黒ドラちゃんが首をかしげていると、ブランが言いました。


「竜はね、魔力で色々なことが出来る」


「魔石を作ったり?」


「うん」


「雪を閉じ込めて大好きな友達のところまで運んだり?」


「うん」


「で、お城に行くために人間になったり?」


「そうだよ、人間の姿になることも出来る」


「出来るのかなあ……?」

 やっぱり黒ドラちゃんには信じられません。


「僕もお城に行く時には、このままの姿では無くて人間の姿になるんだ。その方が人間が怖がったりしないから話しがしやすいんだよ」


「ブランが人間になるの!?あたし見たい!見てみたい!」


 黒ドラちゃんがブランに言うと、ブランが「そうだね、考えるよりも見てみた方がわかるかもね」と言って少し離れたところに立ちました。


 そのまま、そっと目を閉じると、ブランの周りに小さな吹雪が巻き起こりキラキラしたダイヤモンドダストが辺りに広がりました。


 一瞬ブランの姿が見えなくなった、と思った次の瞬間、そこには白いマントを着た一人の若者が立っていました。


 頬の柔らかな線がまだわずかに残る、少年から青年になるくらいの年齢に見えました。


 髪はプラチナブロンド、瞳は美しいエメラルドグリーン、口元は形よくほのかに色づき、そして優しく黒ドラちゃんに話しかけます。


「どう?ちっとも難しくないだろう?」

 ブランの声です!


「すごい!すごい!すご―――い!」

 人間になったブランの姿を見て、黒ドラちゃんとドンちゃんは大興奮です。


「あたしも人間になる!あたしも人間になる!あたしも人間になるー!!」

 黒ドラちゃんが叫んだとたん、ボワンっと一瞬だけ眩しい光がはじけ、みんなは目をつぶりました。


 そして、静かになったことに気づいて目を開けると、黒ドラちゃんのいた場所には、人間の?女の子が立っていました。

 人間の?ってなっちゃったのはわけがあります。その子は全身真っ黒だったんです。

 髪の毛や服はもちろんのこと白目も黒い、にっこり笑ったお口の中の歯も黒い、とにかく頭の先からつま先まで真っ黒。ひらひらした服を着ていますが、それも真っ黒。


「く、黒ドラちゃん……」

 ドンちゃんがなんて言ったらいいのか、口をむぐむぐさせて困っています。


 黒ドラちゃんは、みんなが「可愛いー!」と言ってくれるに違いないとワクワクしていたのに、誰も言ってくれないんで、だんだんしょんぼりしてきました。


「あたし、変?」

 黒ドラちゃんが尋ねると、ブランがすかさず言いました。


「いや、あの変じゃないけど、ちょっと……珍しい感じかな」


「言い得て妙」

 ゲルードがブツブツ言っています。


「黒ドラちゃん、お目々は白い部分が無いとおかしいかも。あと歯も黒くない方が良いみたい。ゲルードやブランのマネしてみたら?」

 さすがドンちゃんです。持つべきものは率直な意見を言ってくれる友達ですね。


 黒ドラちゃんはじいーっとゲルードとブランを見つめてから、「ふんぬっ!」と女の子らしからぬ掛け声をかけました。再びボワンッと眩しくなった後、そこにはつややかな黒髪で若葉色の瞳をした、とても可愛らしい5、6歳の人間の女の子が立っていました。

 ちゃんとマネッこして白いマントも身に着けています。


「おお!」

 ゲルードが嬉しそうに声をあげました。


 鎧を着た兵士さんたちも拍手しています。

 ドンちゃんも「やったね、大成功だね黒ドラちゃん!」と言いながら足元を飛び跳ねています。

 ブランも、あれ、ブランはぼーっとしてますね。耳まで赤いけど、どうしたんでしょう。


 さて、人間の姿になった黒ドラちゃんが、箱に入っていたお洋服や靴を体に当ててみるとサイズがぴったりでした。


 その場ですぐに着替えようとし始めた黒ドラちゃんをあわててブランが止めます。


「待って、待って黒ちゃん。えっと、その……そう、最後の箱を開けてみない?」


 そういえば、箱は全部で五つあったんでしたっけ。


「なんだろう?楽しみだね?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんが並んで箱を覗き込みます。


 最後の箱は一番小さくて、中には可愛らしいリボンが二つ入っていました。

 リボンには、ブランの碧の魔石から作った細かなビーズが飾られキラキラと輝いています。白い小さな魔石がそれぞれに五つ、お花の形に付けられていてとても綺麗でした。でも、黒ドラちゃんが使うにはちょっとリボンが短めのような……


「あれっ、これってひょっとしてドンちゃんの?」

 黒ドラちゃんがリボンを取り出して、ドンちゃんの左右のお耳に付けました。


 ふわふわ茶色のドンちゃんに、リボンのエメラルドグリーンと白の魔石の輝きがとても綺麗に映えます。


「うわーっドンちゃんすごく可愛いよ!」


 黒ドラちゃんは嬉しくてドンちゃんを両手で高く抱えあげました。なのにドンちゃんは足をプラーンとさせたまま反応がありません。どうしちゃったんだろう、と黒ドラちゃんはあわててドンちゃんの顔を覗き込みました。すると、瞳をウルウルさせながら「う、嬉しいよー!」と言ってドンちゃんは泣きはじめてしまいました。


 お城に連れて行ってもらえるだけでも嬉しい出来事なのに、その上こんなに素敵なプレゼントまでもらえるなんて。

 ドンちゃんは嬉しすぎて何だか泣きたくなっちゃったんですね。それを見た黒ドラちゃんも一緒に泣きはじめてしまいました。


 わんわん泣きだした黒ドラちゃんとドンちゃんを囲んで、ブランとゲルードと兵士さんたちがオロオロしています。


 困りましたね、可愛い女の子たちの涙は最強なんです。

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