第17話ー馬車にのったよ

 黒ドラちゃんとドンちゃんは、まだ外の景色に夢中です。


「見て見て黒ドラちゃん、あれ何だろうね?みんな棒を手に持ってペロペロなめてるよ?」

「ホントだ!あ、あっちで見たこと無い遊びやってるよ!」

「あ、ホントだ。あ、あそこ見える?黒ドラちゃん、キラキラしたものいっぱい置いてあるよ」

 城下町には色々なお店があり、たくさんの人間であふれていました。黒ドラちゃんもドンちゃんも夢中になっておしゃべりしたので、馬車の窓ガラスが曇ってしまうほどでした。


「今日はお城にまっすぐ行かなきゃならないけど、今度別な日に街を案内してあげるよ」

 ブランの提案に、黒ドラちゃんもドンちゃんも馬車の中で歓声を上げました。

「ブラン、ブラン、街には森にないような美味しいものがあるの?」

「ああ、たくさんあるよ」

「こういう可愛いお洋服もいっぱいある?あと、ドンちゃんのリボンも!」

「ああ、売っているお店はたくさんると思うよ。今度連れて行ってあげるね」

「やったね、黒ドラちゃん!」

「うん、次も一緒に来ようね!」

 黒ドラちゃんとドンちゃんは大はしゃぎでまた窓にへばりつきました。その時、ブランは何かの羽音を聞いたような気がしました。でも、ここにはそんな音のもとになるような生き物は見当たりません。不思議に思いましたが「ブラン、あのおじさん何やってるの?あれなあに?」と黒ドラちゃんに話しかけられて、すぐに羽音のことは忘れてしまいました。



 馬車は大通りを進み、寄り道せずにお城へ向かいます。お城では王様やお后様が、黒ドラちゃんたちがやってくるのを今か今かと待っていました。


 この国の王様は、バルなんちゃら、ではなくてバルデーシュ・ク・ジュラン6世と言います。王様は代々バルデーシュ・ク・ジュラン何世と名乗っているので、今の王様は6代目ということになりますね。

 お后のシェリル様は、元々はこの国の北にあるノルド国の王女様でした。まだ今の王様が王子様だった頃に、お忍びでノルド国を訪れて偶然王女様に出会ったんですって。シェリル様のあまりの美しさにその場で結婚を申し込んで、即お断りされて、それでもその後も押して押して押しまくったそうです。とうとうシェリル様が絆されてしまって、バルデーシュ国にお嫁に来てくれることになりました。

 ノルド国には竜はいませんけど、妖精がたくさんいます。妖精と人間で家族になることもあるので、不思議な力を持つ者が多く存在している国なんです。シェリル様にも妖精の力は受け継がれていて、他の人には見えないものを見たり、聞いたりすることが出来ました。

 お二人の間に生まれた子どもたちも、みなそれぞれ少しづつ不思議な力を受け継いでいました。一番上の王子は今年で20歳になったスズロ様。ゲルードの幼馴染の王子様ですね。二番目の王子は13歳のセルジ様、三番目の王子は10歳のソロン様、一番下はお姫様で8歳のターシャ様。お子様は4人ともシェリル様の美しさをしっかり受け継いで、美形ぞろいでした。

 特に一番上のスズロ王子は見た目の美しさはもちろんのこと、剣にも秀でその上物事を冷静に受け止め対処する能力にも優れていました。これまでにも国の中で困ったことがあると、魔術師や兵士を従えて、スズロ王子が何度か遠征し解決していました。つい半年前にも、南のナゴーン国との国境に凶暴な魔獣が現れたという知らせがあり、退治しに出かけたばかりでした。

 勇敢な王子の活躍に、国中の民が感激していました。王子の活躍は歌になり、絵本になり、剣を持って立つ絵姿は若い娘さんを中心に飛ぶように売れました。

 皆からの期待を一身に集めて光り輝く、それがこの国のスズロ王子でした。


 ところが、その皆からの期待で光り輝いてるはずの王子様は、お城の自分の部屋で、今まさに絶望の中にいました。

「伝説の古竜の生まれ変わりだと?」

昼間だというのにカーテンを閉め切った部屋の中で、王子は一人で頭を抱えていました。

「どうしたら良いんだ。きっとすべて知られてしまう、いったいどうしたら良いんだ!?」

王様もお后様も、他の王子や姫もすでに謁見の間に集まっています。スズロ王子は「伝説の古竜の生まれ変わりに会う前に、精神を統一したいので少し後から参ります」と嘘をついて部屋に籠っていました。でも、さすがにもうそろそろ行かなければなりません。


 王子は立ちあがり、鏡の前で入念に入念に、さらに入念に身なりを整えると、ようやくホッと息をつ吐いて部屋を出ました。

 そして、お付きの人に「すまない、待たせた」とだけ声をかけると、先ほどまでとは別人のように胸を張って堂々と歩き出しました。




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