第5話ーお空のわな

 ブランとおしゃべりしながら飛んでいると、そのうちだんだんと空気が冷たくなってきました。眼下に広がる景色も、花が咲いているような大きな木は見当たらず、とがった形の木が密集する深い森が増えてきました。

 先の方に、頂が雪に覆われた高い山が見えてきました。

「ひょっとして、あれがブランのお家の山?」

 黒ドラちゃんがワクワクしながら尋ねると、ブランが飛びながら頷いてくれました。嬉しそうに少し先を飛びながら、ブランは黒ドラちゃんを振り返って言いました。

「あの上の白くなっているところがっ」

 と、そこで突然ブランの体が見えない壁にぶつかったように跳ね返りました。そのままブランは、頭を下にしたままクルクルと回転しながら落ちてゆきます。

「ブラン!!」

 黒ドラちゃんは必死になってブランの後を追いかけて自分の上にブランをのせようとしました。けれどブランの体の方が重くてうまくいきません。


「ブラン!ブラン!」


 必死に呼びかけるうちに、気を失っていたブランが目を覚ましました。バサッと羽を広げて、間一髪で地面すれすれで体を起こします。けれど落ちる勢いを殺しきれず、黒ドラちゃんを下敷きにしたまま、ドスンと落ちてしまいました。


「ごめんね、黒ちゃん大丈夫?」


 ブランはすぐに黒ドラちゃんの上からどいてくれました。黒ドラちゃんはよたよたしながら起き上がります。さっきブランがぶつかったのは何だったのか、お空を見てみましたが、黒ドラちゃんにはわかりませんでした。


「一体何があったの?なんで落っこちちゃったの?」


 ブランに尋ねますが、ブランは見たことも無いような険しい顔で周りをぐるりと見まわしました。黒ドラちゃんも一緒に周りを見てみます。黒ドラちゃんの森のようにポカポカしていないけど、普通の森にしか見えません。


 と、森の木々の間に何かキラキラしたものが見えました。竜かな?と思いましたが、それはずっと小さくて数もたくさんいました。


「人間だよ」

 ブランが言いました。


「人間?人間がどうしたの?」

 黒ドラちゃんにはよく分かりません。

「おそらくこの国の兵士と、魔法使いも居るはずだ。さっきのは罠だよ、対竜のね。多分」

「竜に?人間が竜に罠を仕掛けるの?どうして?」


 黒ドラちゃんは人間をほとんど見たことがありません。生まれ育った森にいた可愛い系のみんなから話を聞いたことがあるくらいでした。可愛い系のみんなから聞く話によると、人間て怖いけど森にすむ怖い系のみんなよりは怖くないって。その程度の存在だと。その程度の存在が、黒ドラちゃんよりも大きいブランを落とした?


 黒ドラちゃんは怖くてブルブル震えました。


「大丈夫。僕のそばにいて」

 ブランが黒ドラちゃんのことを後ろにして、翼で囲ってくれました。

 森の中のキラキラしたものは、人間が身に付けている鎧というものだとブランが教えてくれました。人間は、竜のように体が丈夫ではないので、硬いものを体に付けて守っているということです。

「鎧を付けると人間も竜と同じくらいに丈夫になるの?」

「いや、そんなことは無いけれど、鎧が無ければ弱すぎて人間は外に出られないんだ」

「そうなんだぁ」


「いやいやいや!ずいぶんな言い草ではございませんか、輝竜殿よ!」


 突然声が響き渡り、黒ドラちゃんはびっくりしました。


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