第4話ー竜とたまご石
ドンちゃんと約束して森を出てから、黒ドラちゃんとブランはまっすぐ北に向かって飛んでいました。北に向かうといってもまだまだ空気は暖かく、ついつい黒ドラちゃんは寄り道をしたくなっちゃいました。
「ブラーン、ブラーン、あの森に降りてみようよ!」
黒ドラちゃんが叫ぶと、ブランはちらっと後ろを振り返り、黒ドラちゃんが指した方をに目をやりましたが、降りようとはしませんでした。黒ドラちゃんが指し示したのは、大きな白い花を咲かせた木が何本も集まった森でした。上から見ると花の白と葉の緑がとても綺麗です。
「あの森はダメだよ。華竜の縄張りだ」
何でしょう?初めて聞く名前です。と言っても黒ドラちゃんが知っている竜はブランだけなんですけどね。
「かりゅうって誰?」
「白の花の森を縄張りにしている竜だよ、マグノラっていう名前なんだ。ものすごく綺麗好きで、ツンツンしてるから僕は苦手さ」
ブランが苦手なら仕方ありません、黒ドラちゃんも降りるのは諦めました。
「ブランはいろんな竜と知り合いなんだね、すごいね!」
黒ドラちゃんが言うとブランは少し飛ぶ速度を落として並んでくれました。
「知り合いというか、竜はみんな繋がっているからね」
「つながってる?でも、あたしは誰とも知り合いじゃないよ。あ、今はブランと『つながってる』けど!」
黒ドラちゃんが言うと、ブランはなんだか照れたように顔をあさっての方へ向けて「うん、そうだね」と言いました。
「竜はね、どんなに離れていてもお互いに存在がわかるんだ。新しく竜が誕生したり年老いた竜が卵に帰ったりした時もわかる」
「年老いた竜?それってひょっとしてすごくすごく大きな竜?」
「みんながみんな年をとれば大きくなるわけじゃないけど、まぁ、そうだね、年を重ねた竜は大体大きいね」
「あたし、会ったことあるかも!」
黒ドラちゃんがまだずっとずっと今より小さかった時のことです。黒ドラちゃんが眠っていると夢の中に大きな大きな竜が出てきました。竜は黒ドラちゃんと同じように黒い体をしていました。瞳は5月の葉っぱのように優しく輝く明るい緑色でした。夢の中の竜は黒ドラちゃんのお家の洞の中いっぱいに丸くなっていました。ゆっくりゆっくりと息を吐き出し、輝く瞳を閉じ全く動かなくなりました。やがてその体は少しづつ小さく丸くなりはじめました。そして、卵のような石のような濃い灰色の塊になりました。
それをそばで眺めていたはずの黒ドラちゃんは、いつの間にか卵の中に入っていました。黒ドラちゃんは卵の中で眠くなりました。寝ちゃダメ、卵の中から出られなくなっちゃう……そう思いながらもスヤ~っと眠りについてしまった、と思った途端に目が覚めました。
辺りをキョロキョロと見回すと、黒ドラちゃんはいつものように洞の中で丸くなって眠っていたのでした。でも、卵の中に入っていたことは夢とは思えないほどの実感があって、黒ドラちゃんは不思議な夢だなぁと思ったのでした。
「あたしねー、夢で見たよ。大きな大きな黒い竜が卵石になっちゃうところ」
ブランは驚いて目を見開きました。
「へぇー、珍しいね。それはきっと君が生まれ変わる前の姿だよ。あまり聞いたこと無いな、生まれ変わる前の姿を夢で見られるなんて」
「えー、あれ、あたしなの?」
「多分ね。でも、竜は普通生まれ変わる時にすべての記憶が消えるんだよ。そしてまっさらな状態で生まれ変わる」
「ふーん。でも、あたし夢で見ただけで、他には何も覚えていないよ?」
「それで良いんだよ。竜は長く生きる生き物だから、記憶が残ったままだと心が耐えきれずに疲れてしまうんだ」
「そっかぁ。じゃぁ、あたしはあたしのままで良いんだね」
「そう、そのままの黒ちゃんで良いんだよ」
ブランが優しく言いました。
「黒ちゃん?、それあたしのこと?」
「うん。僕も竜だし、黒ドラちゃんっていう呼び方はなんだか変な感じがして。黒ちゃんって呼ばれるの嫌?」
「ううん、ブランになら良いよ。あたしは全然構わないよ!」
黒と白のキラキラをまき散らしながら二匹の竜が飛んでいきます。
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