エピローグ
「ああ、ほらこんなところにいたら潰されちゃうぞ」
蒼灰の瞳を細め、青年は手に乗せた蜘蛛を生垣の方へと逃がしてやる。すると側にいた黒髪の美しい男性がまるで子どものように頬を膨らませた。
「……なにその顔」
「いや、こうやって蜘蛛タラシになっていくのかと」
「なんだ蜘蛛タラシって、今横にいるのはお前だし、俺が好きな蜘蛛はお前だけだぞ」
「……髙良、恥じらいなくなったよね、大好きだけど」
「何十年もいたらそうなるわ。……それに、お前が俺に自由になれって言ったんだろ」
青年はほほ笑む。その片目は眼帯に覆われていた。
それは、あの日の夜に自分の犯した罪を忘れないために刻んだ傷のせいだ。
片目ほどで償えるものではないとわかっている。それでも、決めて、選んだ結果を忘れないようにしようと思ったのだ。
「だから、俺は俺が思ったように生きてるんだ」
例え、人でなくなろうと。今ある幸福の下に、血濡れた骸があろうとも。
縋り手繰り寄せたこの糸は――絶対に切れないことを知っているから。
蜘蛛と蓮と夢の糸 酢甘 浅葱 @suamaasagi
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