とある探偵の手記

【手記】


――何故この街の伝承をレポートにまとめているかというと理由は数年前に起きた怪奇事件に由来する。


○年、○月○日。南雲那なぐもな町のある廃屋で二人の高校生の遺体と一人の男性の遺体が発見された。

警察に発見したときには辺りは血の海だったが、死亡したのは三名で周りにいた少年たち数人は精神状態に異常があったと後に診断され入院している。

亡くなった高校生二人はグループのリーダー的な存在であったが薬物は違法な行為に手を染めていたことが死後警察の調査で明らかになり、現在は行方不明になっている青年も凌辱していたことも判明している。もう一人の男性の遺体はその行方不明者――新屋木髙良あらやぎたから君の父親であり、現場の状況から彼が青年たちを殺害して自殺したと見られている。


だがその父親自身も、髙良君に精神的、性的な虐待をしていたことも後に証明された。


この事件が怪奇事件と呼ばれるのは――何故か遺体だけではなく廃屋の中に無数の蜘蛛の糸が張り巡らされていた異常な現場の状況が原因である。

しかも死亡した三人の身体には特にたくさん糸が巻き付いていたらしい。

まるで、その糸に操られていたかのように。

そしてもう一つの謎は、やはりあの日から行方がわからない髙良青年のことである。

警察の捜査は長く行われ、捜索にもたくさんの人員と時間が使われたが髙良君の消息は今も掴めていない。


この事件は南雲那町の民話のこともあって、『蜘蛛の神子様が哀れな少年を救いだした神隠し』として一部に広がることになった。



そして、この事件を調べている内に案の定真偽も不明なコメントがSNSに上がっている。

蜘蛛に躊躇いなく触る青年に助けられたとか、美しい黒髪の青年を見かけたと思ったらその姿が一瞬に蜘蛛に見えたとか――その青年と蜘蛛に触る青年が二人で各地を巡っているとか。人という種は全く妄想が好きな生き物である。


けれど、できればそうであったならと、俺も願ってしまうのは人ならざるものに触れ過ぎたからだろうか。



願わくば、哀れな青年が自分の想いのままに生きられていますように。




【南雲那町怪奇事件についての手記――筆者 祥雲 姫路】

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