13番目の王女様は隣国のイケメン最強王に溺愛される

青空一夏

第1話

☆プロローグ


トワイライト王国に旅をしてまわっていた踊り子の一団に、ひときわ美しい踊り子がいた。


つやつやな金の髪にエメラルドの瞳でオリビアといった。


トワイライト王国の国王ウイリアムは無理矢理オリビアを愛妾にして宮殿に閉じ込めた。


オリビアに許されたことは宮殿のなかの薔薇園の散歩だけだった。


薔薇を世話して話かけることだけがオリビアの心の慰めだった。


やがて、オリビアのお腹の中に命が宿り、13番目の王女が誕生した。


オリビアは難産で亡くなり、王女はオーブリーと名付けられる。


オーブリーが誕生した瞬間、薔薇の精霊があらわれ、祝福を授けた。


「薔薇のように美しい容姿と鈴のような声をこの子に授けましょう」


正妃や側妃たちが怒り、オーブリーをメイドの部屋で育てるよう命令した。


「私の姫をさしおいて、踊り子が産んだ子に祝福を授けるなど薔薇の精霊め!忌々しい!

宮殿の薔薇を一つ残らず刈り取っておしまい」

正妃は怒りで声を震わせた。


「全くですわ!オーブリーは卑しい踊り子が産んだ汚らわしい血筋です。王女の身分など与えることはありません。

メイドの部屋を与えて、王女たちの世話をさせればよい」

側妃も口々に言ったので、王も異論は唱えなかった。


かくして、オーブリーは15歳までメイドの子として育てられたのだった。



※ この世界では侍女は下位貴族の教養ある女性がなり、雑用や掃除は教育を受けていないメイドがする。


☆王女様だけどメイドな私。



私はオーブリー、トワイライト王国の13番目の王女だけどメイドをしている。


「オーブリー、王女様たちの湯浴みをお手伝いしなさい」

私は今日もメイド長に言われて、王女様たちのお身体を洗ってさしあげる。


いつも優しく身体を洗って差し上げているのに必ず怒られちゃうんだ。


「痛い!あんたのせいで、皮膚がヒリヒリよ!全く使えない子ね!」

第一王女は私の頬をひっぱたいた。


「すみません。優しく洗っているつもりなんですが‥‥」


「なぁに?メイドのくせに口答えするの?お前は王女じゃないわよ?卑しい踊り子の娘のくせに!」


「すみませんでした。お許しください」


私は唇をかみしめた。悔しさはとうに過ぎていて涙はもうでてこなかった。


だって、いつもこんな感じだから‥‥





「髪の編み込みを手伝ってよ!お前はわりと手は器用だから」


第三王女は私に髪の編み込みをいつもさせる。


少しでもうまくいかないと、髪止めのピンで指をさされた。


「この髪型、気にいらないわ!顔が大きくみえるじゃないの!なんでもっと私が綺麗にみえるように編み込まないのよ!」


「あはは、あんたの顔が大きいのは生まれつきだもん。仕方ないわよ!お父様に似たのでしょう?オーブリーのように小さいお顔で薔薇のように美しい子にはどうやったってなれないわよ」

第二王女は第三王女をからかうと、第三王女の怒りは私にむけられた。


「オーブリー、お前が悪いのよ!踊り子の子のくせに薔薇の精霊の祝福を受けるなんて!!」

私は思いっきり、ピンで指をさされて血が流れた。


「ちょっと、あんまりケガさせたらまずいわよ!オーブリーのパンが食べられないじゃないの!この子の焼くパンは美味しいんだから!」

第四王女がとめるけれど、その顔つきは意地悪で唇は楽しそうに口角が上がっていた。





メイド達が噂している話も酷いものだった。


「オーブリーのことを薔薇姫だって騎士様達がよんでいるのを知ってる?あんなに美しければ男性には無条件で好かれるわよね?」


「あら、オーブリーは騎士様たちに色目をつかっているのよ?あの美貌で騎士団長様を誘惑しようとしたらしいわ」


「あぁ、やっぱり?」


なにがやっぱりなのか、私にはわからないよ。


だって、なんにもしていないもの。


トワイライト王国で私の味方は誰一人としていない‥‥


トワイライト王国の薔薇は王妃や側妃たちによって徹底的に刈り取れらるよう命じられて国中さがしても一本も咲いていないのだから。


☆人質って性奴隷なの?



オーブリーがメイドとして王宮では働いているなか、12人の王女様達は贅沢三昧だった。


王も王妃も側妃たちも、いつも服をあつらえ、宝石を購入し、美食を堪能していた。


国を守る騎士達も平和ぼけしていて、剣の技術の鍛錬どころかかわいいメイドたちを追いかけ回すのに忙しそうだった。


オーブリーが16歳になったある日、隣国のマリーベルン帝国から宣戦の布告がなされた。


「まずいぞ!戦争なんてしたら負けるにきまっている。ここは平和の交渉として王女の一人を妃にと差しだそうか?」

王は顔を曇らせて正妃に相談した。


「嫌ですよ!私の三人の姫は絶対に選んではいけません!マリーベルンの皇帝は残虐無比と聞いております。大層、美しいけれど魔王のように冷たく、恐ろしい男だとか‥‥」

正妃は首を振りながら王に懇願した。


「私の二人の姫も嫌です。あぁ、こういうときに、いい王女様がいるではありませんか?オーブリーを差し出しましょう。あんな子は人質として隣国に行ってしまえばいいのです!」側妃の一人が言うと、


「あぁ、とてもいいお考えですわ!」

口々に他の側妃たちが賛成するので、すっかりその方向で話がまとまってしまった。





私は、はじめて王の謁見の間に呼び出された。


「オーブリーよ、すっかり美しく成長したな。大事な美しい姫には大任が与えられる。栄誉だと思うがいい!隣国のマリーベルンに人質として行くように!」


「人実‥‥?私がですか?メイドなのに?」


「何を言う?お前は13番目の大事な王女ではないか!我が国の命運を背負っていくのだ。どんな扱いをうけてもこの国に戻ってきてはいけない!わかったな?話は以上だ」


はじめて会う私の父親のはずの王様はそっけなくおっしゃって、すぐに退席されてしまった。


私が大事な王女なんて言われても、笑うしかないし、人質ってなにをするものなのかもわからない‥‥


「オーブリー、もうあなたの美しい姿が見られないのは残念だわぁーーせいぜい、その容姿を有効活用するのね」

第三王女は私に薄く笑って言った。


「大丈夫よ?あなたは素晴らしく綺麗だから、その身体を売って隣国でも安全に生きていけるわよ」

第一王女が言う言葉に、他の王女たちがどっと笑った。


私はこうして隣国に行くことになったのだった。



☆マリーベルン帝国のハンター皇帝



マリーベルン帝国では、宰相のロバートがハンター皇帝にトワイライト王国からの書状を渡していた。


ハンター皇帝は読み終えると軽蔑のこもった声で吐き捨てるように言った。


「痴れ者が!トワイライト王国の王は無能で愚かで臆病者だな。自分の姫を人質に差し出すと書いてある。

しかも、この姫はどうにでもしてもらっていいとまで言い切っている。命すら保証しなくていいだと!こんなふざけた申し出は初めてだ!」


「オーブリー王女様は13番目の大層美しい姫とは聞いておりますが、いったいどういうことなのでしょうなぁー?」宰相のロバートも首をかしげていた。


「とにかく、オーブリー王女の部屋を至急、侍女に用意させろ!」


「側室たちの宮殿で良いですよね?」

ロバートは嬉しそうに期待を込めた眼差しで皇帝を見ている。


「いや、わたしの宮殿で良いだろう。あくまで王女は人質だ。まぁ、居心地のいい部屋を与えるように」

ハンター皇帝は興味なさげに言った。



ー☆ー☆ー☆ー☆(ハンター皇帝視点)



俺は女が嫌いだ。すぐに泣きわめくし我が儘だし、宝石やドレスばかり欲しがる。


だが、マリーベルン帝国を存続させるために皇帝の血を絶やすわけにはいかないから女は抱かなければならない。


マリーベルン帝国の皇帝の始祖は魔物だと言われていて、そのため子供が出来にくいとされていた。


確かに、先代王も100人の側妃がいて子供を産んだのは俺の母親だけだった。


黒い髪と赤い目を継ぐ、最強の戦士、それがマリーベルン帝国の皇帝の証明なのだ。


その子供を俺も設けなければいけない使命があった。


女は嫌いだが、しぶしぶ20人の側室を迎えたが、誰も一向に妊娠しない。


宰相からはもっと側室を迎えるように言われほとほと困っていた。


そこへトワイライト王国からの人質の姫が来ると言う報告があって、宰相は早速、彼女を側室たちに加えようとしているのが、ありありとわかった。


もう、女はうんざりだ。

だが、世継ぎは必要だ、我が血を引く子供、それが臣下の願いといっても‥‥


はぁーーまだ、俺は23歳なんだぞ!世継ぎ、世継ぎ、と急かされるのは早すぎないか?



☆優しい侍女たち



私は初めて絹のドレスを着たわ。


今まではメイドの黒い木綿の服しか着たことがなかった。


白いドレスは裾にいくにしたがって蒼く染まっていくシンプルなもので、歩くとサラサラと音がしてすごく素敵だった。


でも、着慣れていないから、裾さばきがうまくなくって転びそうになった。


靴もヒールのある美しい華奢な靴で初めてだから、なおさら転びそう‥‥


はぁー普通のぺったんこの靴に木綿の服が恋しい!





「とりあえず姫らしく、ドレスは3着も作ってあげたから感謝しなさい。」

正妃様は冷たくおっしゃった。


「はい、身に余る光栄でございます」

私は深く腰をかがめた。


「3着ですって?私達はいつだって普段でも10着は仕立てるのに‥‥」

さすがに側妃の一人は顔を青ざめさせたが正妃は冷たく意地悪く言った。


「この者は王女ではない!3着もドレスがあれば充分だわ。そうでしょう?オーブリー?」


「はい、充分です‥‥」






ボロボロの馬車に3着のドレスだけ詰めたトランクを積んで私はマリーベルン帝国に向かった。


護衛騎士の一人も付かず、私は年老いた御者が引く馬車でゴトゴト揺れながら国境まで連れて行かれた。


国境まで来ると、迎えの隣国の豪奢な馬車が待っていた。


護衛騎士が20人もいて、侍女が3人も付いてきていた。


私はその馬車に乗り換えると、さっさと年老いた御者は去っていった。


「まぁーー、お姫様、大丈夫でしたか?あんな馬車に乗っていらっしゃるなんて!」


「護衛騎士の一人もついていないなんて!!」


侍女たちは、人のいいおしゃべりな人たちで、私にいろいろ話しかけてきた。


「大丈夫です。こういう扱いはいつものことで、慣れています」

私は曖昧に微笑むと、侍女たちは目を丸くしていた。


「荷物はこれだけですか?」

侍女の一人が言うと私はうなづいた。


「まぁーー。なんてこと!!トワイライト王国がいっぺんで大嫌いになりましたよ!私はリンダと申します!皇帝からお姫様の専属侍女を仰せつかりました。どうぞ、なんなりとお申し付けくださいませね!」

一番、年上らしいふっくらした優しい顔立ちの女性が私に、にっこりした。


「私はスカーレットです!」


「私はマヤです!」


次々に自己紹介してくれて、温かい笑みを浮かべていた。


私はこんなふうに優しくしてもらったことがないから、なんか涙が出てきてしまった。


「どうしました?どこか、痛いのですか?」

リンダがあわてて、私の背中をさすり、他の侍女たちも心配そうにしていた。


私は、マリーベルン帝国に行くことがとても恐ろしかったけれど、今までいたトワイライト王国よりもましかもしれない、と思ってちょっとだけ安心した。



オーブリー王女は多分、刺客?(ハンター皇帝視点)

オーブリー王女を乗せた馬車がマリーベルン帝国に着いたとき、ハンター皇帝も出迎えるために薔薇の庭園にでていた。


薔薇の花がさっきから、やけに輝いて、いっそうかぐわしい香りを放っていた。


なんだ、これは?


いつも咲かない、気まぐれな白バラでさえ、大輪の花をめいいっぱい咲かせていた。


確か、午前中は枯れていたはずの薔薇まで、今を盛りに咲き誇るなんて、ありえん!!


と、思っていたら、オーブリー王女が侍女のリンダに手をひかれて馬車から降りてきた。


さぁーーと薔薇のかぐわしい香りがさらに宮殿の庭園いっぱいに広がり、薔薇の花がそよそよと嬉しそうに風に揺れていた。


艶やかな金髪のエメラルドの大きな瞳をもつ美女が、優雅にこちらに歩いてくる。


え?こんなに美しい姫を人質にしたのか?

この姫なら、いくらでも政略結婚のいい嫁ぎ先があるだろうに‥

トワイライト王国の王は大馬鹿なのか?


「トワイライト王国のオーブリーと申します。ところで、人質とはなにをすればいいものでしょうか?」

綺麗な鈴を振るような声も美しかった。


「いや、まぁ、なにもするな」

俺は努めてそっけなく言った。


この女は人質にしては美し過ぎる王女だ、何か裏があるのかも‥‥


実は王女のふりをした刺客とか‥‥?


「なにも?しなくていい?私、お掃除とお料理は得意です。特にパンは上手な方だと思うんです。明日の朝の皇帝のパンは私が焼いてもよろしいでしょうか?」


またまた、この美女は不思議なことを言い出すのだった。


変な女だな。

もしかして、ちょっと、頭がおかしいのかも?


王女がパンを焼くなんてありえないからな。


あ、それとも、そのパンに毒を仕込むとかか?


「君はなにもするな!パンは職人が焼くし掃除はメイドがする」


こんな女には関わらない方がいい。絶対だ。




マリーベルン帝国に着いたとき、皇帝が自らお出迎えをしてくれた。


宮殿の庭園には薔薇がいっぱいだったから私はすぐ嬉しくなった。


薔薇の精霊たちが喜んでくれているのがすぐわかったから。


でも、皇帝は微妙な顔をされていた。


薔薇の精霊が皇帝には見えないからしょうがないけれど。



私に与えられた部屋は上等な絨毯がひかれ、高そうな家具がおかれていた。


こんないい部屋って人質にはもったいないなぁーって思っていたら


宰相と名のる男性は私の部屋に突然あらわれて、私の姿を上から下まで見つめた。


「これは、これは、とても極上の姫君ですね!」

嬉しそうに言ってきて私の手を握る。


「いいですか?貴女は皇帝の気を惹くことだけを考えてください!ぜひお世継ぎを産んでくださいね!」


これって、やっぱり性奴隷なの?


お姉様たちが言っていた身体を売るってこういうことなのかな?






私がその夜、皇帝と夕食をとっていると


女性が三人、いきなり飛び込んできて怒りで顔を赤くしていた。


「今度は隣国の王女ですか?私にもう一度チャンスをください。絶対に身ごもってみせます」


「いいえ、私こそ!」


「何を言うの!私が先よ」


私は、この皇帝がすごく女好きなんだってわかって思わず顔をしかめた。



ー最低!私のお父様と一緒だわ。たくさんの側妃がいて移り気、自分勝手で残酷な男性なのね。



おそるおそる皇帝の顔を見ると皇帝はびっくりするほどのいい笑顔で私に言った。

「今夜はこの姫と約束している。なぁ、姫?そうだろう?」



「いいえ、約束などしていません!」


綺麗な男性なのに残念な人だと思いながらきっぱりと言い切った。

人質なのに、皇帝に反抗して良かったのかな?ってあとで反省したけれど‥‥







「皇帝には20人の側室がいらっしゃいます」

リンダが満面の笑みで言うと、私は絶望の声をあげた。


「もしかして、その側室に私もなるとか?」


「いいえ。そのようなことは聞いておりませんよ。これ以上増やしたくない、といつもおっしゃっていますもの!だって、皇帝は女嫌いですから」


え?女嫌いなのに側室が20人なの?


全く理解できなかった。





ここに来てもうかれこれ2週間になるけれど、全くやることがない。


皇帝にはなにもするな!って言われたけれど‥‥


とうとう我慢ができなくなってリンダに言ってメイドの服を借りてパンを焼いた。


皇帝は私を避けているから、だんだんやりたい放題になってきた。


掃除をしたり、スープを作ったり、庭園でお昼寝したり、メイドたちと輪になって歌を歌ったり。


そんなふうに過ごしていると、皇帝が女性を連れて私のところにやってきた。


「この王女を愛しているから、君を側室にはできない!」

私の肩を抱いて、その女性に冷たく宣言した。


「その方は隣国の人質でしょう?人質ごときが‥‥」


「いや、これは私の正妃になる女性だ。断じて人質ではない!」

女性が泣いて走り去っていくのを黙って見ていた私は呆然とするしかない。


「君はなにかしたい、とずっと言っていただろう?だから、俺は君に仕事を与えようと思う。正妃のふりをしろ!わかったか?それが人質の仕事だ」


「は?」


「正妃?私はダンスも語学もできませんよ。マナーも教わっていませんもの」


「頭が弱いからか?」


「?頭は正常だと思います。少なくとも、あなたよりはね!私は王女だけれど自国ではメイドとして暮らしていました。だから、教育もうけず、掃除と料理、雑用しかできません。笑いたければ笑ってください。」

私は自分で言いながら悲しくなってしまった。

自分が虐げられていたなんて話すのは惨めで嫌だった。


というか、頭が弱いってどういう意味よ?




そして、正妃のふりをした私の奇妙な生活がこれから始まるのだった。


人質ってこんなこともするんだね‥‥


☆☆



「俺はこのオーブリー王女を正妃とする。」

ハンター皇帝は臣下達に宣言した。


豪勢な結婚式が行われて貴族たちや民がお祝いの声をあげるけれど、これって騙してる気がして落ち着かなかった。



でも私はにこやかに彼と並んで微笑んで余裕のふりをしていた。





こうして食事も寝室も一緒の奇妙な皇帝との生活が始まった。


食事のときには以前は、離れて別々に座っていたのに今は仲良く椅子が並べられて薔薇園を二人で眺めるような配置で食事をしている。


「ほら、このお肉、おいしいだろ?」


「えぇ、ハンター様もお野菜をいっぱい食べてくださいね?」


などと仲睦まじく食べるふりをする。


彼はたまに手を絡ませて私の頬にキスをする。


リンダはニコニコしているし、たまにやってくる宰相も顔を輝かせている。


でも、私達は子供なんかできない。


だって、クイーンサイズのベッドの端っこと端っこで寝ている私達はキスもしたことがないのだから‥‥





それにしても、皇帝は私とばかり時間を過ごすから、側室たちの私へのやっかみがすごい。


私を交えた側室達とのお茶会は週に一度開かれる。


「さすが卑しい姫は違いますわね!皇帝をずっと独占なさってる。ですが、嫉妬で皇帝を束縛するのはやめていただけませんか?」


「どういうことかしら?」


「だから!皇帝の愛を独占するなと申し上げているのです」


「そうですわ!王女とはいえ、トワイライト王国ではメイド並みの扱いだったと、トワイライト王国に詳しい者が申しておりましたよ。踊り子の娘とか!血筋の悪さはやはり隠せませんわね」


そっか、ここでもそんな噂が広まりはじめたんだな、と私は感心したの。

嫌な噂って広まるのがとても早いのね?


「私の正妃をばかにするのか?」

背後から皇帝の低い声が聞こえて私達はあわてて膝をついた。


「あぁ、オーブリー王女は膝をつかなくて良い。俺の大事な正妃だからね。それより、そこのお前、今、なんと言った?」


「わ、私はなにも‥‥」


「オーブリー様は踊り子の卑しい血筋だと言っただけでしょう」

一番、年かさの側室が薄笑いをうかべてそう言った。


「ほぉーー俺は娼婦の子だぞ!知らないのか?俺も卑しい血が流れている」


側室達が一斉に顔を青ざめさせた。


「マリーベルン帝国の皇帝は子供ができにくい。よって、父上はどんな女も側室にした。娼婦も踊り子もメイドもな。お前達は由緒ある貴族の娘たちだったな?ちょうどいい機会だ。暇をだそう。実家に帰れ。こんな血筋の悪い俺とはいたくないだろう?」

晴れ晴れとした笑顔で言った王は、さっさとその場をあとにした。


「正妃様、どうぞ、おとりなしを!」


「正妃様、どうぞ、皇帝の機嫌を直してくださいませ!実家に戻ったらお父様に勘当されます」


なんていうか、勝手な女性たちだ。さっきまで、私を蔑んでいたと思うのだけれど‥‥






「ハンター様、側妃たちを実家に帰すのはやめてください」


「なぜだ?お前を愚弄したのだぞ?」


「あんなの、なんでもありません。いつもお姉様達に言われていたことですもの!頬をたたかれたり指をピンでさされたり‥‥踊り子の娘なのは事実ですから、いちいち怒っていたらきりがありません」


「そうか‥‥俺は娼婦の子だ。そう言って愚弄した奴は一人残らず八つ裂きにした」


「いちいち殺していては、周りは刃向かわない者だけになってしまうのでは?皇帝にそんな口をきけたら、かえって見所がある勇気ある人かもしれませんよ?」

私は、そんなことを言いながら薔薇を愛でていた。


「ちょっと膝を貸せ!俺は眠くなった」

薔薇の庭園で私の膝の上で眠る若く美しい皇帝を精霊たちが嬉しそうに見ていた。


「姫の旦那様ですね!」


「素敵!」


「ラブラブですわ!」

精霊たちは口々に言うけれど、私は首を振った。


「私達はまやかしなのよ。仲のいいふりをしているの」

この女好きな皇帝と仲良くなるつもりなんて1ミリもない。


先日、宰相から新たに30人の愛妾がくることを聞かされたばかりの私は冷たい目で皇帝をみてしまう。


膝枕なんてこれからやってくる女性にやってもらえばいいのに‥‥







「オーブリー様、皇帝は20人の側妃に飽きられたようです。それで、新たに30人の愛妾を集めることになりました。ご了承くださいませ」

宰相が書類を持ってきて私に見せたのがつい先日のことだ。


元メイドから町娘から高級娼婦まで多彩だったから、かえって生々しいかんじがしたの。

ハーレムというやつか。


「これって、ハンター様もお望みのことなのでしょう?」


「もちろんですとも!」


「‥‥」





☆-・-・-・-・-・-



「新たに30人の愛妾を用意しました。身分は低いですが美しい者ばかりです」


「なぜ、そんなことをした?」

皇帝は不機嫌そうに顔をしかめた。


「正妃様のためです!今後、正妃様が身ごもらなければ正妃様だけが責められます。でも新たにいれた愛妾たちも身ごもらないとなれば正妃様もそれほど責められますまい」


「なるほどな。目くらましか!ならばよいだろう。30人といわず50人いれよ。それが正妃のためならば」

皇帝はオーブリーの顔を思い浮かべると心がほわんと温かくなる気がした。


あいつといると落ち着くからな。



☆-・-・-・-・-・-





翌日、私のもとに変更が知らされた。


「皇帝の希望により愛妾が50人に変更になりました」


前からいる側室とあわせたら80人にもなる。


そんなに女性が好きなんだ‥‥


☆☆


私はハンター皇帝と仲睦まじい芝居をあいもかわらず続けていた。


人前にいるときだけでなく、寝室でも最近はぴったり身を寄せてくるから居心地が悪かった。


「そろそろ、愛妾の方々のほうに足をお運びになられた方がいいと思います」


「いや、正妃のそばがいい」


それなら、なぜ50人も愛妾をよんだのよ?





「側室のイザベラ様の懐妊が判明しました。おめでとうございます!!」


宰相が顔を輝かせて私達が朝食をとっている部屋にやってきたの。


「懐妊‥‥」

私はなぜか、心がチクチクと痛んだ。


「正妃を娶る前に一度イザベラのところには行ったが‥‥懐妊か‥‥」

ハンター皇帝の顔の表情からはその感情は読み取れなかった。


多分、嬉しいけど私の手前、遠慮しているのかもしれない。


「正妃様、お気になさいますな。側室の子はあくまで側室の子です。正妃様がご懐妊されればそのお子がゆくゆくは皇帝になりますから」


宰相は私にそう言ったけれど、私が妊娠することはありえない。








イザベラは確か私の血筋が悪いことを騒ぎ立てた側室の一人だったように思う。


「正妃様、イザベラ様がもっと広い豪華な部屋に移りたいと申しております」

侍女長が私にお伺いをたてにきた。

後宮のことは正妃に決定権があるからだが、実はもうすでに一番豪華な部屋に移っていると聞いた。


「イザベラ様が当然のように荷物を運ばれて‥‥おとめする間もなかったのです」


「まぁ、いいんじゃないかしら?彼女は皇帝の子を妊娠しているのだし‥‥」







後宮の廊下で前方からイザベラが大勢の取り巻きの側室を連れてやってきた。私が、ちょうどリンダと話をしながらすれちがおうとすると、


「あら、正妃様、イザベラ様に挨拶の一つもなさらないのですか?次期皇帝の母君になられる方ですよ?」


「そうですわよ。正妃様といえど皇帝の母君には及ばないでしょう。膝をついて挨拶するようにそのうちなるでしょうに!」


取り巻き達があざ笑いながら口々に騒ぎ立てた。



「無礼者!この方は正妃様ですよ!いいですか?イザベラ様にお子ができたとて、正妃様がご懐妊なさればこちらのお子様が次期皇帝になります。そんなこともわからないのですか!!あなた方はこのような発言をしたことをきっと後悔するでしょう」

リンダは声を荒げて怒りで顔はまっ赤だ。


「いいのよ、リンダ。落ち着いて?イザベラ様、このたびはご懐妊おめでとうございます。元気なお子様が生まれるように祈っておりますわ」


私は、穏やかに微笑んだ。


イザベラは返事もせずにいたが、私は気にしなかった。


こんなことはなんでもないわ‥‥





「イザベラ様がドレスと宝石をお買い求めになられました」

侍女長がこれで10回目の報告にきた。


「またなの?」

私は呆れてしまう。

イザベラは毎日のようにお金を散財する。


「イザベラ様をここに呼んで?」

正妃の執務室にくるようにとリンダに伝言を頼むとリンダがしかめっ面で帰ってきた。


「イザベラ様はつわりでご気分がすぐれないようです。用があるなら妊娠していない身軽な正妃様が来るようにと‥」


「わかったわ、あとで行きます」





「どうした?さっきから皿のものが減っていないではないか!」

皇帝が私にお皿の上のお肉を食べるようにうながすけれど、食欲なんてわかない。


夕食のお料理はどれも美味しかったけれど、半分も食べられなかった。


「なんだ?浮かない顔をして。悩みがあるなら言ってみろ?」

皇帝が私の顔を心配そうに覗き込んだ。


悩みの元凶は皇帝、あなたなんだよ!!


イザベラの傍若無人ぶりは日に日に増していき、お飾りの正妃の私ではもう止めることなどできなかった。



☆☆



「オーブリー、その‥‥イザベラが妊娠したのがショックだったか?」


「はい?」


「いや、だから、側室が妊娠すると正妃としてはどうなんだろうと‥」


「普通なら嬉しくはないでしょうね。ですが、私達は契約の仲ですので。正妃のふりをしているにすぎませんから‥‥」


そもそも、なんで自分が正妃のふりをする必要があるのかもわからない‥


これ以上、女を増やしたくないと言いつつ、舌の根も乾かぬうちに50人も愛妾をつくる男の気持ちはわからないよ。









その数日後、私のモヤモヤした気持ちを更に曇らす報告がとびこんできた。


「愛妾の一人がご懐妊です!」


宰相の喜びに輝いた顔を無表情に見ていた私はこう言った。


「喜ばしいことです。大変、けっこう!おめでとうございます!」

傍らにいた皇帝に向けて微笑んだ。


「いや、待て!!愛妾の誰だ?行くには行ったが抱いた覚えはない!」


私はしらけてしまうわ。


自分の子を身ごもったかもしれない愛妾も覚えておらず、抱いた覚えもない?

ふざけないでよ!!

あれ、でも私はなんでこんなに怒っているのかしら?


「オーブリー!信じてくれ!誓ってお前を娶ってからは誰も抱いていない」


「‥‥別に私にいいわけする必要はありません‥‥」


私は自室に閉じこもって、この気持ちを考えてみたの。


契約とはいえ、妻になると、女って夫にやきもちを焼くのだろうか?


しかも、なぜか、皇帝は私の機嫌をとても気にするし‥‥









皇帝は身重の側室や愛妾の寝室には一度も行こうとしなかった。


おかげでまた私が責められた。


正妃様がやきもちを焼くから、皇帝は身重の側室の様子すら見に行けない、とか


皇帝の夜を全部独占しているのにご懐妊もできない、とか


いろいろ噂されたわ。


「ご辛抱くださいませ。きっと正妃様もご懐妊なさいます!あんなに皇帝に愛されているのですから」

なにも知らないリンダは慰めてくれた。







私が薔薇の庭園でうなだれていると、薔薇の精霊達が同じように悲しげな顔をしていた。


「ねぇ、なんで私はこんなに悲しいの?」

薔薇の精霊たちに聞いたら、黙って私に透明なピンクの液体がはいった香水のような瓶をくれた。


「これって、なぁに?え?飲むの?あぁ、精神安定剤みたいなものかしら?わかったわ」

一気に飲んだら、すごくふわふわしていい気持ちになった。


「ここにいたのか。さぁ、一緒に寝よう」

皇帝が私に近づきお姫様抱っこした。


いつものように抱き枕代わりに私と寝るつもりなんだわ。


私は、この皇帝に抱きかかえられたときに、つい良い香りがする皇帝の髪に鼻をよせた。

彼の頬にキスしたかんじになってしまった。


皇帝はギョッとして私を見つめた。

私は首を傾げて、彼の口元を見る、キスしたくてたまらない?


私が薔薇の庭園のほうを振り返ると、精霊たちが、頬を染めて頷いている?


まさか、さっきのピンクの液体って?


「君のほうから誘惑してくるなんて、なんてありがたいんだ!」

皇帝から熱烈なキスをうけて、私は腰が砕けた。


嫌だってば!こんな女たらしは好きじゃないのに‥‥


「ちょっと、ちょっと待ってください。今はだめです。薔薇の精霊が悪戯して‥‥」


「やれやれ、薔薇の精霊とは媚薬もつくれるのか?多分すごい効き目だろう。大丈夫だ。俺に任せて」


「いいえ、今日は私は一人で寝ます」

抱かれていた身体を離そうとしても全然離してくれない。


「これは、精霊がくれたチャンスだと思う。俺は君が好きだ。他の女はいらない!」


「全然、説得力ないし‥‥」

私が小さい声でつぶやくと彼は笑った。


「あの愛妾たちは君のためにいれた。君だけが妊娠しないと責められることになると宰相に言われて‥‥」


「ほんとうに、私が好きなのですか?」

私が聞くと、好きではなくてこんな言い方をされた。


「君といるとほっとするし、とても楽だ。ずっと隣にいてほしいと思っているよ」

私にとっては好きよりも嬉しい言葉だった。


好きな気持ちは色あせることがあるけど、こういう気持ちはあせることがないはず‥‥


私達はピンクの液体のおかげで結ばれた。







イザベラが子供を産んだとき、一斉に宮殿に歓声とお祝いの声があがった。


みな口々にお祝いの言葉をあげるけれど、皇帝と宰相だけはイザベラに向かってねぎらいの言葉もかけなかった。


「私に『よくやった!』と褒めてください!男の子を産んだのですよ?」

イザベラは憤慨して怒りの涙を浮かべていた。


「ふーーん。その子は誰の子だ?」


「え?なにをおっしゃいます?あなたの子です!黒い髪も赤い目も同じではありませんか!」


「残念だな!その子は俺の子ではない。マリーベルンの皇帝の血筋のものではない」


「なんで、わかるのです?どうして‥‥」


「理由をあえて言う必要はない」

皇帝は冷たく言い放つと私の手をとってその場を去った。


イザベラは大罪人として国外追放になった。





愛妾の女が産んだ子も黒髪の赤い目の男の子だったので、これも断罪された。


ハンター皇帝は私に言った。


「マリーベルン帝国の皇帝の血筋をひいている子は特殊だ。だから、別の男の子どもであればすぐにわかる。間違えることはないんだ」


私にはよくわからない。どうやって見分けるんだろう。


不思議な顔をしている私に向かって優しくキスをした夫は私のお腹を愛しそうに撫でた。


私は、そう、懐妊していた。








オギャー!オギャーーー!



「お生まれになりました!!男の子です!!でも、これは‥‥」


「え??金髪にエメラルドの瞳?正妃様の色と同じ‥‥??」


メイドも側近たちも、戸惑い困った顔をしていた。


「我が妃よ!!よくやった。これこそ俺の子だ!!」

皇帝は私の手にキスをして目は涙ぐんでいた。


私の赤ちゃんは生まれた瞬間には金の髪だったが、徐々にゆっくりと黒髪になっていった。

エメラルドの瞳もゆっくりと、赤い色素があらわれて、次第にすっかりとキラキラとしたルビーの瞳になると宰相は満面の笑みで皇帝に祝いの言葉を口にした。


「おめでとうございます!まさに皇帝のお血筋をひいておられます。まずは母君と同じ色素でお生まれになり、徐々に皇帝の色素に染まる。正当な皇帝の血筋の証明でございます!」



その瞬間、薔薇の精霊たちがふわりとやってきて言った。

「この子供に薔薇のような美しさと気高さと叡智を与えましょう」


「あら、精霊さん。この子は男の子なのよ?」

私は不満げに言うと精霊は精霊のくせに、にやりと笑ったの。


「では、追加で、男らしさと強靱な肉体を!!」


「ふふ、完璧だわ!ありがとう」


「そして、正妃様にも祝福を!!この先、二人の男の子と二人の女の子が授かります」

その言葉はハンター皇帝と宰相にも聞こえたようだ。


「なんと!おい、聞いたか?宰相!側室と愛妾はもういらない!一刻も早く実家に帰すか臣下に嫁がせるがいい。

俺はこのかわいい正妃に嫌われたら生きていけないからな!」


「かしこまりました」

宰相は皇帝と私にひざまずき臣下の礼をとった。









私の腕のなかでは今、息子のミシェルが寝ている。


「我が妃よ、息子は寝たか?」

いそいそと私のところに来た夫は我慢しきれずに私を抱きしめた。


私達は出産後にはじめてエッチをするんだ。


初めてよりドキドキして緊張で唾を飲み込んだ。


抱きかかえられてベッドに行くと、もう待ちきれないようにキスの雨は降ってきた。


この男性はもうすっかり私のものだ。


側室も愛妾もすべて手放して、私だけを大事だと言ってくれる夫に抱かれる私は幸せをかみしめていた。



下半身の敏感な部分を触られると、自分でも恥ずかしいぐらい濡れているのがわかった。


「すごい濡れてる‥‥前より敏感?出産するとセックスがよくなるのかな」

夫はムードのないことを言うから私はムッとしてしまう。


なんで濡れるかって、それは気持ちの問題なの。


「女はほんとに好きな男に抱かれるときは倍濡れるんですのよ?」

私は顔をあからめて唇をとがらせながら言った。


「え?前はそんなに俺が好きじゃ無かったってこと?」


「だって、あなたにはいっぱい女がいましたもの!!」


「そうか、それなら今は10倍俺を好きだろう?俺には君しか女はいないし、これからもずっと作る気はないよ。だから、ここを100倍濡らせて‥‥」


そんな冗談を言うから私は、ますます顔が赤くなる。


「愛してるよ」


「私も‥‥」


二人で愛の高みに登りつめ、何度も絶頂に達すると私達は幸福な笑顔をかわしあう。


知っている?


ほんとに好きな人とするセックスは全然違うわ!!


最初のころの夫とのセックスも気持ちよかったけれど、心の満足感が少し足りなかった。


今は大丈夫!!満点の幸せよ!!


薔薇の精霊達も私のそばでふわりと笑って、上機嫌にしていた。







「妃よ。トワイライト王国がヒッタイト帝国から宣戦布告されたそうだ。俺に助けろ!と言ってきている」


私はお父様からの書状を渡された。





我が王女の大事な夫君である貴殿に頼みがある。

直ちに援軍を送ってほしい!

トワイライト王国で一番の美しい貴重な姫を妃に差し出したのだから当然の権利だ‥‥





え?大事?私はメイドで人質だったのじゃない?



「俺は援軍を送ろうと思う」


「え?トワイライト王国にですか?」


「いや、ヒッタイト帝国にだ!!」


私は笑って夫の腕に抱かれた。







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13番目の王女様は隣国のイケメン最強王に溺愛される 青空一夏 @sachimaru

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