第2話 後編


王宮の舞踏会の場で皇太子のオースティン様が宣言した。私にはなぜ、こういう婚約破棄を舞踏会でするのかがわからないけれど。高位貴族も揃っているから話が早くて手っ取り早いからかしら?


「アグネス・ペイトン!私、皇太子のオースティンはあなたとの婚約を破棄する。なぜならこのセレニティーに子どもができたからだ。皇后はセレニティーにする。そして、君はセレニティーを支えて側妃の一人になるように!」



妹は少し勝ち誇ったような顔つきで私を見ていたし、その肩を抱くオースティン様はこのうえなく上機嫌な笑みを浮かべていた。


ーうわぁ。冗談じゃないわ!これ以上、妹の面倒はみたくないし、金髪碧眼のきれいな顔だけが取り柄の薄っぺらい皇太子には嫌悪感しか感じない。


私は考えた。この局面を抜け出すにはこれしかないわ!


「私は、嘘つきな悪女なのでございます。すべて、皇后教育の今までの課題は妹のセレニティーに無理矢理やらせていました。セレニティーの課題のレポートと私のものを照らし合わせてくださいませんか?私に罰をどうぞお与えくださいませ」


すぐに、侍女たちがレポートの束を持ってきて、皇太子や王や王妃までもがそれをまじまじと見た途端、


「アグネスは王家を欺いた詐欺罪に処す!侯爵令嬢の地位を剥奪し、平民に落ちよ」


皇太子が怒りに顔をどす黒く染めて宣言した。私のレポートとセレニティーのそれは、そっくりそのまま同じ筆跡だったからだ。あぁ、やったわ!これで私は自由だわ!


舞踏会に参加していたお母様とお父様は青ざめていたし、妹はすっかり血の気をなくし、真っ白な紙のようだった。





呆然としていた家族を放って、私は急いで侯爵家に戻ると、自分のドレスや宝石を持ち出して馬車に乗った。行く先はもちろん質屋だ。すべて、自分が着ていたドレスすら脱いでお金に換えた。町娘の服を購入すると生まれ変わった気分で最高だった。あぁ、なんて幸せなの!これからが、私の本当の人生だわ!



-・-・-・-・-・-・-



セレニティーはその後、皇后になったがまるで語学もできず、社交的な才能もない。その頃になって、やっと王たちは、アグネスの嘘に気がついたが手遅れだった。今までのレポートはアグネスがセレニティーに押しつけたのではなく、セレニティーがアグネスに押しつけたのに気がついたのだ。セレニティーは子供も一人の姫しか産めず、次第に厄介者扱いされていく。側妃が男子を次々と産むと隅に追いやられ、侍女からさえも侮られバカにされるようになった。そんなとき、セレニティーはある噂を聞くのだった。



{ここから、遠く離れた国に語学の堪能な諸外国の文化にも精通した女商人がいる。数々の事業に成功し、莫大な富を築き女王様より権力がある。その商会の名前はアグネス商会。各国の王族が取引をしたいと願う世界的な商会である}


その女商人が姉なのは間違いなかった。


ーお姉様、助けて!


そのつぶやきは、遠い異国にいるアグネスには聞こえない。たとえ、聞こえたとしても来るはずは‥‥ないだろう。




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婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい 青空一夏 @sachimaru

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