婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい

青空一夏@書籍発売中

第1話 前編


私、アグネス・ペイトン侯爵令嬢は王太子オースティン様の婚約者だった。この国では王太子の婚約者は3人選ばれる。次期皇后として一人、側妃として二人で、身分によってそれは決まる。私は、次期皇后としての婚約者で、その重圧はすさまじいものだった。マナーや語学の勉強に追われ、幼い頃から遊ぶ暇もないのだった。それに比べて妹は好き勝手に、我が儘放題に生きていて正直言えば羨ましかった。


「お姉様、そのドレスはダイヤを縫い付けているのですね?素敵ですわ!私もそんなドレスが欲しい」


王太子から送られたドレスを羨ましそうに見る妹は夢見る少女のようだ。このドレスは美しいけれど、とても重く責任のある行動を求められる代償なのに‥‥。妹は私が王宮に勉強のために行くとき、必ずついてくるようになった。宮殿の豪華なシャンデリアや優美な家具に驚嘆の声をあげ、瞳を輝かせていた。


「私、お姉様が皇后になられたら、お側に仕えたいと思います。だから、これからも王宮に一緒に行かせてください」


「アグネス、あなたは姉なのだからセレニティーの言うことを聞いてあげてちょうだい?この子は貴女と違ってあぶなっかしいから姉として支えてあげてほしいわ」


ピンクの髪と瞳の頭の中身までお花畑のセレニティーを、とてもかわいがっているお母様が当然のようにおっしゃった。妹は綿菓子のように可愛らしく、私は異名が氷姫だった。





セレニティーは将来の皇后としての私を支えるという名目で、王宮で私とは異なった勉強をすることになった。王宮での作法や言葉遣いなどのごく簡単なものだ。


「お姉様、この課題のレポートが全く書けません。国ごとに作法が違うと言ってもその歴史まで調べる必要がありますか?私、全然、興味ないし‥代わりにやってもらえませんか?」


「え?そんなことは自分でおやりなさい。人にやってもらったら自分のためにならないわ」


「意地悪!お姉様は皇后の教育をお受けになっているのだから、こんなこと簡単でしょう?なぜ、やってくださらないの!ひどい!うっ、うっ、うわぁーーん」


とうとう、泣き出した妹にあわてて部屋に駆け込んできたお母様が慰める。お母様ってセレニティーの泣き声にはすごく敏感なのよね。


「アグネス!なにをしたのです?妹をいじめるなど最低のことですよ!」


「えっと、セレニティーが私に課題を押しつけようとしたので『自分でおやりなさい』と言っただけですが」


「え?げふん、ごほん。それは、その‥‥アグネスは頭がいいのですからすぐできるでしょう?『セレニティーを助けるのが姉の役目だ』と以前から私が言っていたでしょう?今こそ、そのときです」


「そうですか?わかりました!」


私はセレニティーから、たった2枚のレポートの紙を隅から隅まで埋め5分で書き終えるとお母様の手のひらにレポートを載せた。皇后になる私を支えるために王宮入りする妹を私が支えるって、おかしくないか?


妹は王宮での講義もそこそこに、なぜか皇太子とお茶ばかりしていた。私が長時間の講義でへとへとになっていると、庭園から笑い合う二人の声がいつも聞こえてきたの。皇太子もお勉強や剣の練習などあるはずなのに‥‥私だけが、たくさんの授業をこなし、諸外国の風習や文化、言語に精通していった。





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