第15話 復讐ではなく自滅させた

「ワルイーは、どうやら闇で売られていたらしいです。元締めを拉致してチェン家に送って吐かせたところ、この女には5歳になる娘がいるとかで。その娘も一緒に牡丹様の母親が買ったらしいです。大将家にはすぐに忍び込めました。思ったより、ずさんな警備でしたから。子供はすぐに見つかりました。無造作に狭い部屋に閉じ込められていましたから。側には護衛も侍女も下女も誰もいなかったです」


私の侍女が、栄養失調と思われる痩せ細った5歳児を連れてきたのが、つい先日のことだった。洗濯もされていない衣服は汚れていて、かなりくさい。風呂にいれさせ、清潔な衣服を着させると、それなりの愛らしい子だ。

ワルイーは、自分の子供が大事に育てられていると思っていたらしい。口を醜く歪めて、早速悪態をついた。


「非道な!なんの権利があって私の子供を拉致した?大将家で、大事に育てられている子供が簡単にさらえるはずもない。はったりでしょう?それは、私の子供ではないはずだ」


「お前の子供の特徴は?」


シンイー侍女長が、問うと、


「手のひらに珍しい三つのホクロがある!その子にはないだろう?」


とあざ笑った。



「ありますよ」


私は、子供の手のひらを見せた。なおも、私は話を続けた。


「この子供の身体を見なさい。これが、大事にされてきた子供の身体ですか?痩せ細り、ろくな食べ物も与えられていなかったはずです。お腹と背中には、無数のアザがあります。そして、この子はしゃべることができない。5歳でありながら、言葉を話せないということは、誰もこの子に話しかけなかったからでしょう?あなたの娘は汚い座敷牢のような部屋で放置されていただけです」



「嘘だ!嘘だ!それは、私の子供じゃぁない!だって、私はあんなに牡丹様に尽くしたじゃないか!あんなに、いろいろな女たちを殺してあげたじゃないか!!」


泣きわめく女に、私は同情の気持ちはおきない。ただ、この幼子には罪はない。この子は私の手元におこう。







この子供はヒナギクと名付けた。今まで寂しかったのだろう。私にとても懐いて、私の側にいたがるようになった。


皇帝もいらっしゃって、ヒナギクをご覧になり、どこの子どもだとお尋ねになった。


「先日、市井に出向いた折りに、道ばたで泣く子どもがおりました。服はボロボロで、この歳でもまだ話すことができません。不憫に思い連れてきました」


「うん、それはいいことをしたね。なにかの巡り合わせだと思う。この子は私達の養女として育てよう。養子をむかえると、それが呼び水となって子宝に恵まれると聞く。私達も、そろそろ子どもができるといいな」


皇帝の言葉に肯くと、遙か後ろに控えていたワルイーが気の抜けた顔で涙をながしていた。







「おかぁちゃま、おかぁちゃま。下女のワルイーとお花を摘んできたよ。おかぁちゃまにあげる」


子どもが言葉を覚えるのは、あっという間だ。侍女達に可愛がられ、私や皇帝にも愛されるようになったヒナギクは今はふっくらと可愛らしい顔にえくぼを浮かべている。ワルイーは今はヒナギクの専属下女になっている。


スミレは愛妾の大部屋から、私の侍女にした。牡丹皇妃は、日々いろいろと仕掛けてくるが、全て未然に防いでいる。そして、私は皇帝の子どもを身ごもるのだった。



私は、あの女官と女医を呼びつけてわざわざ、侍女たちの目の前で診察させた。侍女の一人が、女医のもっている診察用の器具のひとつをとる。


「怪しい香りがしますね。調べさせてもらいましょう」

その器具を金魚が泳いでいた鉢に沈めると、全ての金魚が死に絶えた。


「この女官と女医を捕らえよ。皇帝のお子を殺そうとした大罪人だ」

シンイー侍女長が叫ぶと、待ち構えていた衛兵が引っ立てていく。


その器具に本当に毒が塗られていたのかは、私は知らない。私は前夜に侍女達の前でこうつぶやいただけだ。


「あの女官と女医が、私がこれから産む子に危害を加える夢を見たわ。不安で最近、よく眠れないの」









牡丹皇妃の周りの侍女は、今では全て私の配下だ。どんな人間にも弱点はある。悩みなども誰でもあることなのだ。


病気で苦しんでいる家族がいる者には治療費を渡してやり、小さな弟や妹がいる者には教育を施すことを保証してあげた。金銀の髪飾りが欲しい者には惜しみなく与えてやった。


特に、牡丹様の侍女は誠意で尽くしている者はいなく、みな脅されたりお金のために働いている者たちばかりだった。牡丹皇妃の味方などもはや誰もいない。彼女は気づいているのだろうか?


もう、気づいていないかもしれない。‥‥‥今の彼女は、だらしなく口を開けっ放しにしていて、ぶつぶつと、つぶやいているだけだ。たまに、正気に戻ることもあるらしいが。


私はなにも指示していない。牡丹皇妃様の侍女には、なにも言ってはいない。全ては牡丹皇妃の自業自得。


「スズラン皇妃に弱い毒を盛りなさい」と命令された侍女は、私ではなく牡丹皇妃に盛ったのだろう。


「スズラン皇妃の靴にカミソリを仕込みなさい」と命令された侍女もしかり‥‥





ある日、牡丹皇妃様の侍女の2人がいつものように私の居所にやってきた。私の侍女たちとも、すっかり仲良しで私はチェン家からの珍しい菓子を振るまう。


ヒナギクの他に次々と2人迎えた養女はこの牡丹皇妃様の二人の侍女の婚外子だ。事情のある者の弱みを握って意のままにしようとした牡丹皇妃のやり方には虫唾が走るので、この婚外子は秘密を伏せて私の養女に迎えた。皇帝は女の子は、どんなに多くても構わないと私の膨らみかけたお腹をなでながら仰ったからだ。


「スズラン皇妃様、ついに牡丹皇妃様が貴方様を井戸に沈めろ、とご命令されました」


「そう。それで、どうするつもり?」

私は、ヒナギクともう二人の娘達に、お菓子を渡しながらお手玉で遊ぶように言う。

その様子を眼を細めてにこやかな顔つきで見ていた二人の侍女が急にどす黒い笑みを浮かべて言った言葉は。


「近頃、牡丹皇妃様は足下がおぼつかないようです。よく、ふらふらとお倒れになりますから、井戸に落ちないか心配です」






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(完結)皇帝に愛されすぎて殺されましたが、もう二度と殺されません 青空一夏 @sachimaru

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