第14話 ワルイーを寝がえらせる私

「スズラン様、後宮の者から新しい下女を3人ご用意いたしました」


「なぜです?人手は充分足りていますよ。チェン家から5人下女を連れてきています。侍女も20人いますし、それ以上はいらないですよ」


「ですが、後宮のしきたりですから」


なおも食い下がる女官に違和感を感じた私は、下女の顔を見て納得した。あの下女だ。そして、あの女官。私が流産したことを黙っているように言い含めた女だった。


ーーあぁ、会いたかったわ。ようこそ、私の砦に!


私は当初は『復讐はしない』と思っていた。とにかく、ここでは足を踏ん張って逃げないで生きる、これだけを貫こうと思っていたけれど。この者達は私だけでなく、スミレもビャクレン様も、多分殺したに違いない。ビャクレン様のことであんなに悲しんでいるお父様達を思ったら、この者たちをこのままにはしておけない!この者を操っている牡丹様も、必ず仕留めてみせる。


私は何食わぬ顔で、「いいでしょう、ですが私に仕えるのは三日後に」とその、のっぺりした顔の女に告げた。







「あのワルイーから絶対、眼を離してはいけません」

私が侍女らに言うと同時に同じような声があがった。


「あの女は、身のこなしが妙です。多分、相当な使い手。刺客でしょう。」


「「「同感です」」」


「「「「「始末しましょうか?」」」」」


侍女達が、ナイフやら、毒針、ロープや鞭まで、衣服の下からのぞかせて私の指示を待っている。


「いいえ、少し泳がしておきましょう。なにかしたら殺さずに生け捕りにしてほしいのです。ただ、いろいろ機敏には動けぬように工夫はできるかしら?あの者は狡猾で侮れないと思うのです」


「もちろん。遅効性の蛇毒で麻痺させておきましょう。常に私達があの者について見張るようにします」


「あぁ、少し頭の回転も鈍くしたほうがいいでしょう。いろいろな毒が試せそうで嬉しいです」


「あの者達は、多分、ビャクレン様の件でも関わっているに違いないです。チェン家の敵です」


「「敵には容赦しませんよ」」


毒に精通している二人の侍女が、にこやかに物騒なことを言うが後宮とはこのようなところなのだ。







「今日はとても晴れたわね。どうぞ、皆様、おくつろぎになって」


私の大きな居間では、側室たちが勢揃いしていた。私は筆頭側室の地位なので、月に3回はこのようなお茶会を後宮の主として開かなければならない。


「お菓子をお一人づつお取りください」


私の侍女達が、たくさんの種類のお菓子を大皿に盛り、それを側室たちが手で取るのだが‥‥


牡丹様が小指を不自然に動かしたのを、私の侍女達が見逃すわけはなかった。


「アネモネ妃様のお菓子が少しくずれているようです。こちらのものとおとりかえしましょう」


侍女がすばやく牡丹様がとった隣の菓子を選んだアネモネ妃様に言うと、さっと別なお菓子を勧めた。


和やかにお茶会を終わらせた後に、アネモネ妃がとったお菓子のかけらを庭に落とすと雀がきてついばんだ。その数分後、雀は翼をばたばたさせて、ピタリと動かなくなった。


ーーあぁ、こんなお茶会でも平気で毒を盛る女なのね。アネモネ妃が私の居間で死ねば、真っ先に私が疑われるわ。このお菓子はチェン家からのものだから、チェン家まで罪に問える。狡猾な女だ。


「牡丹様の小指の爪には毒が塗られていたと思われます。あの長い爪の先で少し菓子を触れればいいだけで、毒入り菓子のできあがりです。次回からはお一人づつ、小皿に盛り付けたほうがよろしいでしょう。」


毒に詳しい侍女が言うと、私も深く頷いた。こうまで堂々と仕掛けてくる牡丹をどのように追い詰めればよいのだろう?






私はワルイーがふらついて倒れそうになっているところに優しく声をかけた。私の侍女から常に微量の毒を飲ませられているようだ。


「大丈夫?最近、少しよろけてばかりいるわね?奥で休んでいなさい。私はあなたの味方よ。そういえば、あなたの小さな生き別れた娘がどこにいるか知りたくない?」


ワルイは、さっと顔色を青ざめさせると口元を醜く歪ませた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る