鎧神機 ヴァルケリオン

@ready

第1話 異端者

皇帝暦26000年…人類は総人口の8割を銀河戦争によって死に至らしめた。戦後あらゆる惑星でそれぞれの秩序が構築されていった…しかしそれは仮りそめの平穏である。全ての惑星が銀河制覇という野望を掲げて息をひそめているにすぎない。惑星規模で軍化を進める皇帝軍は各惑星を占領していく。表向きは融和政策によって統制をとっているが実情は政策に同調しない者は反乱分子として扱われ粛清される。


「よぉ!ファルコ!」


ボロ布を着た1人の白髪の老人がファルコに声をかけた。


「バクトか…どうした?」


ファルコ・メイルス。元反乱軍の所属で機動兵器のパイロットをしていた。如何なる危機的状況でも必ず死地から生還するファルコは皇帝軍と反乱軍の両軍から異端者という異名で恐れられた。


「お前…ここんとこ、稼ぎはどうだ?」


バクトがファルコに銭の話を持ちかける。そして、ファルコは呆れるようにバクトにかえす。


「わかるだろ…しけたものさ。割に合わない金だよ…。」


「お前、確か軍の機動部隊にいたんだろ?」


「あぁ、確かに俺はパイロットだった。」


世間話をしながら、バクトはファルコに一番の話題を始めた。


「実はな、俺は裏の世界じゃ顔がきくほうでよ…いい稼ぎ口があんだよ。」


ファルコはすぐ、察したように話を聞いて気だるそうにしながら話し返す。


「なるほど、闇ギャンブルのバトルか。そこで俺を出して死ぬほど働かせると?」


「そう悪いようにはしねぇよ。勝てば一攫千金だぜ!そうだ、論より証拠だ!」


「よしてくれ…俺はもう、ただの民間人なんだよ。…て、待て!バクト!」


困惑するファルコをよそにバクトはテンションをあげながら闇ギャンブルの会場へ連れていった。


「お!やってるやってる!ファルコ、これが闇のギャンブルバトル…ブラックゲームだ!」


「…BM(ビーエム)の白兵戦か?」


BM…バトルマシンと呼ばれる機動兵器の略称でありこの世界で広く普及している。主な特徴はボディは弾丸を逸らすために丸みを帯びた装甲で覆われている。しかし、お世辞にも完全に逸らせるとは言えず機体の軽量化とスピードを追及したがために一発当たればフレーム損傷、さらに当たり所が悪ければ簡単に爆発してしまうほどのパイロットの生存率を無視した非人道的な兵器なのである。


「あぁ、ブラックゲームは基本BMを使うんだがルールが二つあってな。ちょうど今、やってるのは飛び道具禁止のノーマルバトル。そしてもうひとつが…武器無制限なんでもありのアウトバトルだ。」


ブラックゲームを熱弁するバクトにファルコは素っ気なく答える。


「はぁ…ただの遊びだな。」


「おいおい、待てよファルコ~。」


とはいえ、頼まれたら断れない性格のファルコは手持ちの金を得るために渋々バクトの頼みを受ける事にした。


「まぁ、金は必要だから…一戦だけやってやる。」


ファルコの返事を聞いたバクトは満面の笑みを浮かべ、テーブルの上に自身の有り金全てを叩きつけた。


「やってくれるか!全額お前にかけるぜ!!これで負けたら俺は一文無しだぁ!!」


ファルコは困惑しながらも乗る機体を探すためにバクトと一緒に会場の格納庫に向かった。


「機体はどこにある?」


「よっしゃ!案内してやる。」


格納庫に待機しているBMの数を見てファルコはバクトに質問する。


「意外にけっこうあるんだな。戦争でもやる気かよ…。」


「あぁ、なんだかんだで軍と取引して売れ残った機体がいくつも流れついてくるんだ。ここにあるヤツだけでも数千機はある。これだけあるんだ、中には掘り出し物もあるんじゃねぇか?」


ファルコは早速、自身の視界に入った黒い機体に目を付けた。


「ん!これにしよう。」


「ウルフか。だいぶクセのあるヤツ選ぶんだな。」


自身がパイロットだった時、全幅の信頼を置いた馴染みやすい機体、染み付いたコントロールレバーの感覚、シミのように出てくる敵機を撃ち落とし数々の勲章を得ようも一度は消したハズの硝煙の匂いがファルコのパイロットとしての能力を再び目覚めさせていく。歴戦の英雄が今、復活の兆しを見せ始めた。


「俺が現役だったころはこいつに乗ってた。いや、待て…こいつはただのウルフじゃない。上位機種のフェンリルだ。装甲はウルフよりも薄くそして外見に反して見合わないパワーは他のどの機体よりも勝る。じゃじゃ馬なコイツを俺がどれだけ引き出せるかが肝心だな。」


「フェンリル?聞いた事ないぜ?」


一流の軍人だったファルコの目が光る。あらゆるマシンを戦いの中で知り、網羅した知識が冴え渡る。


「当然だ…フェンリルは大半が特殊部隊で運用してる代物だ。見た目はウルフで偽装してるが…こいつはかなりの掘り出し物だ。しかし…こんな辺境の地にある事自体が不思議なくらいだ。フェンリル自体、生産コストから少数しか量産されてないしな…裏でそういうブローカーがいるのか。だが…今はどうでもいい。フッ…いい機体だ。重量配分、駆動系の稼働範囲、ジェネレーターの出力…どれをとっても俺の理想のスペックだ。」


急ピッチで機体の最終チェックをこなし、武装を装備したその時、戦争の時間がきた。


「時間だ…無理すんなよ、ファルコ。」


しかし、出撃する時ファルコは目を疑った。


「行ってくる。…アウトバトル?どういう事だ?バクト!」


「何、アウトバトル!?俺はノーマルバトルで組んだんだぞ!」


やむを得ずファルコは出撃した。想定外な事情なんて戦場では日常茶飯事だった。ファルコの目に不安はなかった。全て撃墜するだけの戦闘マシンが動きだした。


「バクト、どうやら俺たちはハメられたようだ。市街戦(しがいせん)か?武器はアサルトライフル…これだけか。」


「すまん、ファルコ。こうなったら何が何でも勝つしかない。頼むぞ!」


ファルコの前に立ち塞がる敵は1機、万人向けのオーソドックスな機体だった。武装は速射性と連射に優れたサブマシンガン1丁、敵パイロットが挑発をかけてきた。


「知らねえ顔だな。てめぇは10秒で終わらせてやる!フヒヒヒ!」


敵のくだらない挑発にファルコは一切動じず余裕を見せる。


「やっぱりどこにでもいるものだな。身のほど知らずのバカが…。プロにケンカを売ったな。」


戦闘開始の号砲が鳴った。敵は距離を詰められないようにサブマシンガンを乱射した。対するファルコは市街地の地形を利用して高層ビルを盾にしながらチャンスを伺う。


「ふははは!ハチの巣にしてやるぜ!」


敵の攻撃を避けながらファルコは目標地点に到達し、ライフルを敵機に向ける。


「…無駄に弾を使ってる。これはすんなり終わるな…狙撃する。」


「うわっ!マシンガンがふっとびやがった!?」


ファルコの放った弾丸が敵機のサブマシンガンの発車口に命中し爆発を起こした。すぐさま第2射を発射した。


「…そこだ。」


弾丸は敵機に命中し機体が爆炎をあげた。敵パイロットは言うまでもなく、脱出できなかった。


「あっけないものだな。所詮は遊びか。」


ファルコの戦闘を見たバクトは喜んでファルコに駆け寄った。


「いやぁ、すごいぜ!よくやってくれたファルコ!2発で仕留めるとは!これで1ヶ月分の金が入ってくるぜ~。」


しかし、ファルコは物足りなさを感じていた。明らかに戦場とは違うこと、真に足りないもの…それは命のやり取りに他ならない。この場所にはそれがないと。


「ファルコ、出てこい。報酬もらいに行くぞ~!」


ファルコもバクトに同行しようとしたその時、機体が警報を発した。


「あぁ、…ん!アラート!?」


「どうした、ファルコ?」


闇ギャンブルの噂を聞き付けた皇帝軍の機動部隊が迫ってきていた。ファルコはバクトに急いで逃げるように促す。皇帝軍の攻撃に会場の観客は混乱しながら逃げ惑う。


「バクト、急いで逃げろ!間違いない…皇帝軍の部隊だ!」


「マジかよ!これからって時に!」


さすがのファルコも正規軍の戦闘力に対応するため、バクトに武器の在り処を聞く。


「実戦慣れしてる部隊だな。バクト、ライフル一丁じゃ話にならない!ここから近い武器庫はどこだ!?」


「え!何だって!?」


「武器の倉庫はどこだ?と聞いている!!」


するとバクトは最短で行ける場所をファルコに伝え、金を持って自身も避難する。


「こっからだと9番倉庫だ!右から回れ!」


「了解。」


皇帝軍の部隊は隊長機を含め30機ほどの中隊クラスであった。敵の指揮官は反乱分子のリストを確認しながら部下と会話する。


「ここに元反乱軍の男がいると聞いたが…」


「はい、あるブローカーの話ではとんでもなく危険なのがいるとかいないとか話してましたよ。」


「反乱軍は反抗の象徴だ。1人残らず根絶やしにしてやる。」


敵の数を目視できる範囲で確認していたファルコは自機に追加武装を装備させ奇襲のタイミングを図っていた。


「敵の数はざっと30機といったところか…多いな。こっちは味方なし、寄せ集めのミサイルとライフルだけ。持てるだけ持たせてみたが…弾切れは必須だな、必殺必中で仕留めていくしかないか。」


頃合いと踏んだファルコは、敵部隊に攻撃を仕掛けた。脚部に滑走用ローラーを装備したファルコのフェンリルが高速で戦場を駆け抜ける。


「隊長!前方に熱源確認!敵機です!」


「よし!各機、攻撃開始!敵は1機だ、囲んでしまえばそれまでだ!!」


敵はファルコを包囲するように展開していく。しかし、滑走用ローラーで巻き上がった砂が敵の視界を妨げていた。


「な、何!?うわっ!」


「ん、どうした!?」


1つ、また1つと見えない視界の中でファルコの弾丸が敵に命中し瞬く間に撃墜していく。


「5つ…次は。」


「くそっ!見えない!」


そうこうしてる内に敵の数はすでに半分ほどになっていた。明らかにファルコの動きが敵の包囲作戦の上をいくスピードで陣形を崩していた。


「14…一発で墜とす。この程度の包囲網、敵の指揮官は二流だな。」


「半分がやられたというのか!?」


ファルコはそんな状況のなか武器の残弾数を確認していた。


「残弾、ミサイルが5発とライフルが15発、…まずいな。」


「うわぁ!くそ、コイツ…1機でここまで!」


敵の準隊長機を撃破された隊長機は同様を隠せなかった。そしてついに敵の残機は隊長機だけになった。


「29…お前で終わりだ。なっ!」


「弾切れか!?今ならやれる!」


ファルコが予期していた弾切れが起きてしまった。弾が切れた事に命拾いした敵はファルコのフェンリルに弾丸を放つ。


「ぐっ!装甲が!」


元々、装甲の薄いフェンリルを敵ライフルの弾丸が容易く装甲を貫通し、内部フレームに致命傷をあたえた。


「おそろしいヤツだ。たったの2分で29機のBMを撃破するとは…まさか!ヤツが!?先の銀河戦争で反乱軍に所属し、絶対的に不利な戦場から必ず勝って生還する男…500機のBMを相手にたった…たった1機で皇帝軍の部隊を壊滅させた兵士が反乱軍にいたと聞いた事がある。本当に、貴様が…圧倒的な力で敵味方を問わず恐れられていたという。異端者と呼ばれる男…ファルコ・メイルス!」


「ちっ!駆動系(くどうけい)が!くそ!もう動かないのか!…やはり、戦場で死ねということか…人殺しは所詮、楽園は与えてくれないか。…ん!?」


ファルコが絶対絶命の窮地に立たされたその時、空に亀裂が入った。


「な、なんだ!?空が…割れる!?」


割れた空から現れた空中浮遊する1機の黒い機体が近づいてくる。そしてファルコの頭にイメージが流れこんできた。


「なんだ?今のヴィジョンは?…あの空を飛ぶ機体は?まさか…俺に乗れというのか!?」


「えぇい!このぉ!うわぁ!!」


人智を越えた圧倒的なパワーの前にファルコもただただ動揺を隠せなかった。


「なんて、パワーだ…俺を、見ているのか?なんだ?この感覚は…呼ばれている?」


黒い機体に導かれるようにファルコは乗り移った。


「乗り換えただと!?くそぉ!落ちろ!!」


敵の弾丸を物ともしない頑強な装甲で敵に恐怖を与える。ファルコは黒い機体に問いかけた。


「お前は…何だ?」


機体は自我を持っているのか、敵機体のコクピットから敵の指揮官をその巨大な手で生け捕りにした。何かを悟った敵の指揮官はただ恐れた。黒い機体の深紅の眼光が敵の指揮官に向けられる。そしてそれは起きた。


「はっ!はなせ!…やめろ!」


悲鳴と共に黒い機体は自らの手中にいた人間を握り潰した。それは無慈悲そのものであり血まみれの右手は生き血を得たように怪しく輝いていた。敵の指揮官を殺したそれは神の審判そのものようにも見えた。そしてファルコは黒い機体の中で1人言のように呟いた。


「なぜ、俺を…鎧神機(がいしんき)?」




…To be continue…











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