Ⅷ 銀の弾丸(4)

 私は苦しそうな表情を見せながら、心の中でほくそ笑む。


 ……フフフフ…いい調子だ。がんばれ、ストーカー君! そのまま、すべての銀の弾を私に差し出すのだ!


「くそ、弾槽が空になったか……だが、まだまだ銀の弾はあるからな。ちょっと待ってろ!」


 どうやら銃に込めておいた弾を全部撃ち尽くしたらしく、彼は弾丸を装填するレバーをガチャガチャやって確認すると、少し後方に下がって、私から安全な距離を取りながら、銃の弾槽に新たな銀の弾を込め始めた。


 確か、ウインチェスター・ライフルは十三連発……すると、最初、弾槽にすべての弾が込められていたとすれば、現在、彼は13発、銀の弾を放ってくれたことになる。後、残り17発。さあ、どんどんと放ってくれ!


「よし! 弾は込めた。吸血鬼ノスフェル! もう一度、銀の弾を食らいやがれ!」


 …バァァァーン! …バァアァーン…!


 その後も、私の名演技が功をそうしてか、ストーカーは新たに込めた銀の弾をどんどんと私めがけて撃ち続ける。


 私の胸を、腹を、足を、腕を……目標を外すことなく、銀の弾は我が身体に命中していく。


 貫通力の強いライフルから放たれた弾は、その大部分が私の背後に広がる城の庭へと突き抜け、たまに二、三発が肋骨や背骨などにぶつかって体内に残った。


 先程は広い庭を探すよりは簡単かとも思ったが、摘出手術を自分でやらねばならないことを考えると、やっぱり面倒臭い。


 また時折、頭を弾丸が貫くこともあり、そうすると一時、僅かな間ではあるが、脳が停止してしまうので、まるで死んだかのようにポカンとその場に立ち尽くしてしまい大変だった。


 危ない危ない。途中で死んだと思われては、ストーカー君が銀の弾を全部使ってくれなくなる。最後まで意識はちゃんと保っていなければ……。


「…ハァ…ハァ……なんて、しぶてえヴァンパイアなんだ……」


 そうこうする内に、彼もそれだけ撃てば息も上がるだろう、三十発近い銀の弾がウインチェスター・ライフルの銃口から放たれた。


 ここまで連射すると、そろそろ熱で銃の調子もおかしくなってくる。あと少し、彼の銃がもってくれればいいのだが……。


 しかし、人間もヴァンパイアも元来、欲深いもの……そんな心配をしつつも、こうしてうまいことお宝を手に入れることができるとなると、またさらなく欲望が湧いてくる。


 私はふと、思ったのだ。


 今回、ストーカーはヴァンパイア退治に効果があると思って、銀貨を溶かして銀の弾を作ってきた。ならば、もしも彼が「金もヴァンパイアの弱点」だというようなことを聞いたりなんかした場合には、今度は金で銃の弾を作って、私の身体にその金の弾を撃ち込みに来てくれるのではないか?……と。


 ……いや。〝金〟といえば、銀よりも高価な貴金属。それに錬金術では太陽の象徴とも考えられる物質だ。


 とすると、もしかしたら銀の弾でも効かなかった時のことを考えて、今夜もうすでに金の弾も用意して来てくれている可能性もある……。


 いずれにしろ、これはちょっと誘ってみる価値はある。


 この財政逼迫した苦しいみぎり、お金儲けに通じそうなことはなんでも試してみなくては!


「ちっきしょう! この亡者めがっ! 何発、銀の弾を食らえば気がすむんだ!」


 よりいっそう効率のよい一攫千金の夢…というか、あわよくばの欲望に胸を躍らせる私は、なおも銀の弾丸を撃ち込もうと銃を構えるストーカーに、血の滴るおどろおどろしい顔をいやらしくニヤつかせながら、こう、言ってみた。


「ああ、怖い、怖い。銀の弾怖い。ついでに私は、の弾も怖い」


 お後がよろしいようで……(礼)。

                          (銀こわ! 了)

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銀こわ! 平中なごん @HiranakaNagon

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