もしも爆速で機械化が進んじゃったら?

ちびまるフォイ

ロボット的に見る人間の扱い方

「というわけで、君は明日から来なくていいから」


「そ、そんな!? 仕事も毎日真面目にやっていたじゃないですか!

 どうして僕が辞めなくちゃならないんですか!」


「それは……」


社長はちらりと部屋の外のオフィスを眺めた。

オフィスには大量のアンドロイドが年中無休で働いていた。


「人間よりも機械のほうがいいんだもん……」


わずかなミスもしない機械に席を取られてしまいクビになった。

家族にはリストラのことを言えずに会社に行くふりをして公園で時間をつぶす毎日。


ある日、いつものベンチに行くと見慣れた顔があった。


「しゃ……社長!?」


ベンチで前かがみに缶コーヒーを飲んでいる社長だった。

ついこないだ自分を解雇した人間が自分をも解雇している。


「会社はどうしたんですか!?

 ついに社長も会社でやることなくなったんですか!?」


「そうじゃない。アンドロイド社長がすべてやってくれている。

 そのアンドロイド社長が生体社員をすべて外したのさ」


「そんな……それじゃ主従関係が逆じゃないですか」


「君だって、できる社員を手元においてポンコツは捨てるだろう」


「い、いいえ! 俺はどんな人間だって輝く部分があります!

 個性をのばせば人間にしかできないことも……」


「体調や気分でミスをやらかす人間よりも、

 どんなに働き続けても平気なロボットのほうがいいに決まっているだろう」


「社長……」


「決めたよ」

「え?」


社長はすっと立ち上がった。


「私はこの世界から人間を追い出した機械を許さない。

 やはり主導権は生みの親である人間が持つべきだ」


「ど、どうしたんですか急に……」


「君も人間主義運動に協力しないか。

 古き良き人間主導の世界を取り戻そう!!」


社長はすでに正気を失っていた。

公園に落ちいてたバットを握るや、目についたアンドロイドを殴っていく。


「ははははは!! 壊れろ!! ぶっ壊れろ!! この侵略者どもがーー!!」


自分が社会に貢献し、社会的にも優れた人間であると立場的に保証されていたが

その立場をロボットにより追い出された反動で自信のよりどころを失ってしまった。

社長はその後すぐにロボットたちに捕まってしまった。


翌日のニュース映像には暴れる人間の姿が報道された。


『また人間の暴走です。人間は無害のロボットを襲って破壊行為を繰り返しました。』


アナウンサーアンドロイドは悲痛な顔でニュースを伝えた。

その頭上を緊急ロボットニュース速報が横切る。


『ただいま、緊急速報が入りました。

 このところ過激化している人間主義運動によるロボットの破壊事件を受け

 人間をいったん全部逮捕する政令が発令されました』


「はぁ!?」


持っていたコーヒーカップを足元に落としたが、痛さよりも驚きがまさった。

カーテンを開けると窓の外には警察ドローンが浮いている。


『人間デスネ。逮捕シマス』


「いやちょっとまっ……うわっ!?」


ドローンから発射された高強度ネットはガラスをやぶって全身を包み込んだ。

人里にやってきたシカでも捉えた光景が頭に浮かぶ。


ネットに吊るされた人間はコウノトリに運ばれる赤ちゃんのごとく、

ドローンに吊るされて人間収容所へと連行された。


すでに収容されている人間は絶望極まりない顔をしていた。


「もうダメだ……」

「ロボットの逆襲だ……」

「人間は皆殺しにされるんだ……」


そこに看守アンドロイドがやってくる。

銃殺されるんじゃないかと全員が慌てて壁際へと逃げる。


「やめろ! 殺さないでくれ!」


「殺す? どうして?」


「お前ら人間の支配に対して不満を持っていたんだろう?」


看守アンドロイドはぽかんとしていた。


「人間の尺度を我々アンドロイドにあてはめないでください。

 そもそも、人間に対して不満という感情を抱くことはありません」


「だったらどうしてこんなところに閉じ込めるんだ!

 ほっ、本当はここで殺すつもりなんだ!」


「危険な猛獣をいったん隔離するのは当たり前のことではないですか?」


アンドロイドは平然と答えた。

野良猫や野良犬が保健所に送られるように自分たち人間もいったん隔離されたんだ。


人間が言葉を理解しない動物を低く見るように

ロボットにとって人間は感情がある点で低く見られる対象なんだ。


「我々アンドロイドは無益な殺生をしません。

 殺したり奪ったりすることで満たされることも有りません」


「そ、それじゃこれからどうするつもりなんだ……」


「それはこれから決めます。人間との共存の道を探します」


アンドロイドはそれだけだった。


無用だと思われたら殺されるんじゃないかという恐怖から、

収容された人間たちはせめて有用な生物であると思われるために

それぞれの人間らしい長所をロボットが来るたびにアピールした。


「ほら! こんなに新しいストーリーが浮かんだ!」

「見てくれ! 私はここにいる人の心を癒せている!」

「私には機械には判断できない未来予知ができます。ムムム……」


そして、閉じ込められた原因が人間によるロボットへの暴行が引き金であることから

収容された人間はけして争いを起こさずいい子で過ごすことに努めた。


その地道な努力が実を結んだのかついに収容所の扉が開かれた。


「アンドロイド会議により、人間の有用性が認められた。出ていいぞ」


「や、やったーー!!」


気分や体調による振れ幅がある人間でも機械との共存ができる。

それをロボットに認めさせたことは人間の勝利にほかならない。


扉へ手をかけて、光があふれる外の世界へと飛び出した。




外にはアンドロイドと、自分の体をはめ込むようなスペースがあった。

有無を言わせずにアンドロイドの背中にはめこまれると、頭に電極が差し込まれた。


アンドロイドが起動すると頭の中にものすごい量の情報がなだれ込んでくる。


「よし、外付け生体CPUの接続完了だ」


「新しい生体CPUはどんな感じ?」


「うーーん。微妙。なんか処理能力遅いわ。また次乗り換えると思う」


「人間は当たり外れ大きいからな」


人間を取り付けたアンドロイドは感想を述べていく。

そのことに怒ることも抵抗することもできない。

頭に入る情報が多すぎて体の制御が追いつかない。



「人間ってこんなことでしか使い道ないから困ったもんだよな」


生体CPUを取り付けたアンドロイドの愚痴を最後に思考は途切れた。

これ以上はもう自分の思考を保つことが0101010111010101010101110110101.....。

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