第35話 あんぽんたんっ!

 魔導病院の病室は、必要最低限の物しか置かれていない簡素な部屋だった。

 ロティは寝床で横たわりながら、傍の椅子に腰掛けているアリアの話を聞いていた。

 あの後、捕縛されたバファロス一同は王城の地下牢に投獄され、五年前の父親殺害と今回の『王国彫刻師』暗殺未遂について、アリアと国王の二人が直々に尋問したそうだ。

 アリアの《絶対支配》と国王の《慧眼》を以てすれば、拷問に掛けるまでもなかったらしい。尚、国王は常々、《慧眼》にて城内で仕事に勤しむ者を監視していたのだが、彼の魔導にバファロスが引っ掛からなかったのは《無干渉の守り神》という魔道具を所持していたからだそうだ。投獄前に身体検査を行ったところ、半殺し状態のバファロスの懐から掌大ほどのお守りが発見され、能力の仔細を調べたところ、他者へ干渉する系統の魔導を防ぐ魔道具だったらしい。

 奇妙な魔道具が見つかった時点で黒はほぼ確定。いや、アリアがバファロスを滅多刺しにする前に黒幕だという確証を得ていたらしいので、その時点で彼が首謀者だと分かりきっていたことなのだが……。

(正直、どこまで痛め付けられたのか想像したくもないな)

 すっかり心が折れたバファロスは、手口や動機なども含め自供したと聞いた。念の為、国王が《慧眼》で虚偽の内容が含まれていないか確認を取ったが、特に嘘偽りは無かったようだし、心身共に相当痛め付けられたと見える。

 そして彼が犯行に及んだ動機というのは、平たく言えば嫉妬から来るものだった。

 バファロスが趣味で彫刻に没頭していた頃、突如として現れた天才彫刻家。それがロティの父親だった。彼が開催する展覧会に赴いたバファロスは、妬みの嵐に襲われ、大好きな彫刻を奪われた――そう感じた次の日には殺害の計画を立てていたと。元々、内々に暗殺部隊は育てていた為、殺害には苦労しなかったこと。そして五年の歳月を得て、彼の血を引く者が『王国彫刻師』の位を獲得するまで成長してしまったこと。

 バファロスはロティを利用して、彫刻という芸術文化を廃止させるよう企てていたとか何とか。ロティは少しの間だけ目を瞑り、心の整理をする。正直、事を終えたロティにとっては、どれもこれもがどうでもいい話であった。だからここで踏ん切りを付けて、新たなステージに登らなければならない。


「――話はこんなところ。安心して、バファロスには死ぬより辛い思いをさせたから」

「それ、逆に心配なんだけど……?」


 アリアは椅子を蹴飛ばすように立ち上がって、ロティの頬を抓った。


「心配なのはわたしの方。全身ボロボロになって……無茶しすぎ。ロティのばか」

「ご、ごめんらひゃい……」


 ぺちんと弾くように頬が解放されると、アリアはぷくーっと頬を膨らませて忠告する。


「もうこんな無茶なことはしないで」

「……わかったよ、ごめん」

「約束だから」


 そう言うと、今度は打って変わってロティの頭を優しく撫でてくる。


「む……くすぐったいよ、アリア」

「…………何か不満がある?」

「……い、いえ、ないです」


 ドス黒いオーラを放つアリアに、ロティは思わず萎縮して答えた。

 そんな彼の姿を見て、アリアは微笑んだ。


「病院でこれ以上騒ぐのも迷惑だし、そろそろ行くね」

「うん……あ、ちょっと待って」


 病室を後にしようとするアリアを引き留めて、ロティは枕元に投げ置いた《無限の領域》の鞄から透明色のストラップを取り出した。例のように、希少種バルガモスが落とした素材を彫り込んで作った彫刻像だ。これはアリアを模した物である。


「こ、これをわたしに……?」

「うん、助けて貰ったお礼に。いつもありがと、アリア」

「えへへ、どういたしまして」


 彼女は素直にストラップを受け取ると、大事そうに両手で包んだ。

 頬は嬉々の色に染まり、口元を柔和している。かなり気に入って貰えたらしい。


「それじゃロティ、また学園でね」

「うん、またね」


 そうして踵を返したアリアが出入り口の扉に手を掛けた直前――室外にいた者が先に扉を開けた。

 ぱあっと満面の笑みで登場したのはエルシーだ。


「エルもお見舞い?」

「はいっ! ロティさんが目を覚ましたと聞いたので、居ても立っても居られなくて」

「ふーん…………あれ?」


 ふと、アリアが小さく素っ頓狂な声を漏らした。

 ロティは怪訝そうな顔付きで彼女を見やると、アリアの視線はエルシーの腰ベルトに向けられていて――


「ロティのあんぽんたんっ!」


 いきり立ったアリアが、渾身の右ストレートをロティに放つのだった。


「ロティの浮気者っ!」


 アリアがそう叫んでいたことは、再び気絶したロティには知る由もないことであった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【あとがき】


 今話が最終話となりました。

 完結まで物語を読んでくださった皆様、ありがとうございます。


 この作品はとあるゲームをやっている間にインスピレーションを得て書き始めたものなのですが……正直に申しますと、ファンタジーも三人称もろくに書いたことがなかったので、最後まで執筆するのにかなり苦労しました(笑)

 甘々なストーリー構成で稚拙な文章にも関わらず、最後までご愛読いただいた皆様には頭が上がりません。ありがとうございます。


 さて、ここからは新作の宣伝になります。

 自分は元より恋愛・ラブコメを専門としているので、新しく投稿した作品はラブコメとなっております!ちょうどカクヨムコン6が開催しているので、こちらに参加するつもりで執筆しています!


 新作のあらすじは、過去に執筆を挫折し、小説家の道を絶った主人公が、ひょんなことから擬似的な恋人関係を築く話となっております。

 しかも主人公、ヒロイン二人と偽物の恋人になってしまいます!

 小説家を目指す幼馴染ヒロインと、イラストレーターを目指す計算高い小悪魔的な後輩ヒロインが登場するのですが、自作の『弱みを握られている僕は、毒舌でウザい後輩に下僕扱いされている。』の天音が好きなような方には必ず刺さるかと思います(笑)


新作タイトル

『自殺しようとしている隣の家の超絶美少女を止めたら、なぜか僕に偽物の彼女が二人も出来た。』


URL:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934259884


 受賞を目指して頑張りたいと思います!

 フォローやコメントなどで応援していただけると、とても心強いです。

 それでは、またどこかのあとがきでお会いできることを、切に祈っておりますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『王国彫刻師』であるボクは、王女様と一緒に魔導学園へ入学する 〜彫刻刀から斬撃を飛ばすのなんて、常識だろう?〜 にいと @hotaru2027

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ