眩しい笑顔

 目が合って、一緒になろうと言われたのは、正直なところ、とても嬉しい。

 僕は事故に遭って命を落としてから、寂しい日々を送っていた。

 猛烈な痛みに苦しんだ挙げ句に、想像も絶するような寒い世界で、誰にも気づかれずに、孤独な毎日を送っていた。

 両親に別れを告げても僕の方を見てくれなかった。

 陽向が悲しむ姿を見て慰める事もできなかった。

 悔しさと絶望にかられても、何もできなかった。情けないとしか言いようがなかった。

 呼吸の止まった彼女の身体から、同じ体型の白い人型が浮かび上がろうとしている。魂が抜けかかっているのだろう。

 引っこ抜けば、簡単にこちらの世界に連れていける。

 一緒になれるだろう。

 悩み苦しむ彼女のためには、その方がいいのかもしれない。幸せそうな寝顔を浮かべている。猛獣から可愛らしい女性に戻ったようだ。

 でも、僕は白い人型を彼女の身体に押し込んだ。

 彼女には僕の分まで幸せになってほしいから。君のおかげで僕が幸せだったように、僕は君の幸せを願いたいから。

 

 

 明け方に彼女は目を開けた。

 カーテンの隙間からチラチラと白い光が差し込んでいた。空いた缶や瓶は転がったままだ。

「……一緒じゃない?」

 綺麗な雫が床にこぼれ落ちる。

 陽向は、とめどなく涙を流していた。

 その涙をぬぐう事はできないけど。

 僕は傍に寄っていた。身体を重ねたってすり抜けるだけだけど。

 彼女はうつむいて、何も言わない。

 たったの五分間の事だった。

 本当に短い時間なのに、永遠に感じられた。

 待つしかなかった。


「温かい……」


 彼女はわずかに口の端を上げた。

 ゆっくりと起き上がる。

 しっかりと僕がいる方向を見ていた。


「海斗はきっといる。私と一緒の場所に」


 おぼつかない足取りで棚に近づく。

 目元をぬぐって、麦わら帽子をかぶる。シミのついた黒いワンピースとも、よく合っていた。

 写真を掲げる。

 二人の笑顔が眩しく思えた。


「私は幸せ者ね!」


 そう言って微笑んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一緒になろう 今晩葉ミチル @konmitiru123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ