2 華麗なる果たし状
「あの、第二、ってどういうことでしょう……?ここは陸上部、なんです、よ、ね?」
すると菅野さんは困ったなーというように頭をポリポリ掻きながら、でも笑顔は崩さずこう言った。
「あのね、この学校には陸上部がふたつあってね。うちらは、第二陸上部っていうの。なんていうか、ただグラウンド中使って缶蹴りやったり、全力でケードロやったりするのが好きだって、陸上部に入ったら、追い出されちゃってね。んで、仕方なく、第二、って部活名につけているんだけれど」
「……」
どうやら、私は……大きな間違いを犯したようだ。冗談じゃない、私は全力でケードロするためにこの学校に入ったんじゃない。
「じゃあ、毎年、インターハイ出ているのは?」
「あっち」
「……つまり、この学校で陸上部と言えば?」
「あっち」
なんてこったい。次の瞬間、私はドアに猛ダッシュした。一刻も早くその場を去らねば、この部を出なければ、そして正式な「陸上部」に入部し直さねば……!その一念であった。ところが敵も素早いもので、先ほど部長と名乗った菅野さんが私の前に立ち塞がると、さっき書いたばかりの入部届をぺらぺらと私の鼻先に突きつけてきた。
「……逃げる気か?これを書いた以上もう君は、
「……えっ。えっ。そんな、ご無体な………」
「入部届は学内の公式文書だからな。これでもう君は卒業まで第二陸上部から逃れることは出来なぁい!!」
「えええええええーっ!!」
往生際悪くドアの前で足をバタバタさせる私の首根っこを、菅野さんはヒョイと掴んだ。あっけなく、ずるずると室内に連れ戻される私。菅野さんはそれにかまわず吉田さんと話の続きを始める。
「それでさあ、よっちゃん、まさか泣いただけで帰ってきたわけじゃないよねえ?」
「
「それで?どんな条件突きつけてきたわけ?」
吉田さんは無言で鞄から一枚の紙を引っ張り出した。果たし状、と記されたそれには、こんな文字がプリントしてあった。
“我が校では、中等部の方が5分早く午前の授業が終わる。ついでにいえば中等部の校舎の方が購買部に近い。よって高等部の生徒が、購買部で一番安くて美味いと評判のカレーパンを手にできるのは非常に稀である。よって、今回の勝負は、この希少価値のあるカレーパンを、どちらの部のレギュラー部員が多く獲得できるかとする。勝負期間は1週間とする”
私は他人事ながら唖然とした。こんなおバカな果たし状が、この世に存在するなんて。
ところが菅野さんは、ニヤニヤ笑ってこう言うではないか。
「ほう、なかなかそれは面白いね。私ら、奴らに勝てるの、食い気くらいしかないもんね。それにだ」
そして、意味深に私に近寄ると、ぽん、と肩を叩き、こう言った。
「あっちに1年生のレギュラーはまだいない。ゆえにこの勝負は君の肩に我が部の命運は掛かっている」
「……え?私?」
「購買部に高等部で一番近い校舎は1年生棟、そしてクラスでは校舎の先端にある1年E組。つまり、前田さん、君のクラスだ」
「……あ、たしかに……でも!なんで私がこのおバカな勝負に加担しなきゃいけないんですか!?」
「前田さん、このまま永遠に第二陸上部に居たいわけじゃないんだよねえ?」
私は絶句した……。
いやだ、それだけは嫌だ。
そう言いたげに黙りこくった私を見やり、菅野さんはにやりと笑ってこう語を継いだ。
「……もし、この勝負に力を貸してくれれば、退部を認めても良いわ」
しかたない……。数瞬後、悪魔の微笑みを浮かべる菅野さんに、私は屈した。
「分かりました……!でも約束は守って下さいよ!」
「
微笑みを崩さぬまま、菅野さんは、さらりと私の言葉を受け止めた。
「と、いうわけだ。では、頑張ろうではないか、前田さん。勿論、我々2.3年生もできる限りの援護射撃はする。さぁ、皆!来週はカレーパンを食べまくるぞおー!」
途端に部室内に
……声を上げなかったのは、事の成り行きに呆然としている私、ただひとりだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます