華麗なるっ!第二陸上部
つるよしの
1 華麗なるあやまち
桜舞う、春。ときめきの、季節。
私は大きな希望を胸に抱いて、この花河女学園高等部に入学した。
何故、この学園に入学したかと言えば、その理由はただひとつ。
私は数々のインターハイに出場するここの陸上部に入部したかったからだ。
正直言って私は勉強が苦手だ。だが、子どもの頃から足の速さだけは自信があった。中学でも迷わず陸上部にて活躍。結果、スポーツ推薦をもらえるほどの実績は残せなかったのが悔いではあるが、なんとか一般入試でこの学校に合格した。
入学式を終え、私の心は躍らんばかりである。高校3年間、必ずや、陸上の強豪校である、この花河女学園で充実した陸上ライフを送るのだ。
私は式の余韻もそこそこに、入学翌日、その日の授業が終わるや否や、陸上部に入部すべく、その部室の前に立った。
……立ったのだったが。
“来る者は拒まず 去る者は追う”とピンクのマーカーで書き殴られた、お世辞にも綺麗とは言えない字が躍るポスターが、そのドアには貼ってある。
……なんだか、噂に聞く、規律には厳しい雰囲気にはほど遠い感じだなあ……。
そう、そこが、私が間違いに気づく最後のチャンスだったのだ。後から思えば。
だがここでひるんではいけない。何も始まらない、と思ってしまったのだ。
私は勇気をふるい、大きく深呼吸すると、そのドアをノックした。
中から返事が聞え、私は思いきりよく扉を開けた。
すると中には、ひとり、女生徒が居た。ジャージ姿ではなく、ブレザーの制服のままである。そのショートカットの女生徒は、しげしげと私を見、そして、にやりと笑うとこう問うた。
「入部希望?」
「……はい、ええ、はい!」
「じゃあ入って、入って」
何か違和感を覚えながらも、言われるままに私は椅子に座り、でかでかと「入部届」と書かれた紙に、住所氏名学年クラス学籍番号を記した。すると背後から豪快な拍手と、祝福の言葉が降ってきた。先ほどのショートカットの女生徒が、何やら、してやったり、とした笑顔で手を叩いている。
「前田くるみさん、はい、おめでとう!これで君は正式な花河女学園高等部第二陸上部員だ!!私は部長の菅野怜奈、よろしく!」
……だいに?
あの、なんか、いま、部名のうえに余計なことば、付いていませんでしたか?
不安な気持ちが押し寄せ、そう確かめようとした途端。
ドアが開いて、もうひとり、やはりブレザーの女生徒が泣きながら転がり込んできた。
「うわわあああん、あいつらぁ、ふざけやがってぇ」
「なんだなんだ、よっちゃん、予算会議で、今年は何があった」
「あいつら、陸上部の奴ら、“お前達がやっているのはスポーツじゃない、ただのお遊びだ、こっちは間違えられて迷惑千万、廃部にすべき!”とかみんなの前でのたまいやがってさぁ……!」
「で、もらえた予算は?」
「……500円……」
「ごひゃくえーん?小学生の小遣いだって今時もうちょっとマシだぞ!それで1年やってけってか?無茶言うなー!」
「仕方ないじゃない、“廃部にするか、500円で1年がんばるかどっちか選べ”って予算委員長が言うんだもん、“たしかにふたつも陸上部が乱立しているのは紛らわしい、どう見てもお前らの方が実績ないのは確かだ、500円で存続できるだけありがたいと思え“ってとか言いやがってさぁ……」
「あの……お話の途中ですが」
「誰?あんた?」
よっちゃん、と言われた女生徒が泣き言をいったん止めて私を怪訝そうに見る。
「ああ、よっちゃん、こちら入部したての前田さん。前田さん、こっちは第二陸上部副部長の吉田美緒ちゃんよ」
だいに。
やっぱり、聞き違えでは、ない。私は急速に胸に広がる暗雲を感じながら、そっと菅野さんに尋ねた。
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