第7話
「おやおや…これはこれは」
「予想的中やでクソったれが…!やっぱお前が”蛇”やったんかい!」
ハーブは屋上から3階に飛び込むと挨拶代わりに両手に持ったサブマシンガンを乱射した。
ジュージは素早く扉から廊下へ飛び出すと神父が入ってきた窓とは逆側の窓枠に手を掛け屋上へと駆けあがる。
ハーブ神父は舌打ちを加えつつ天井越しに銃弾を満遍なく撃ち込む。
機銃掃射の如く銃弾を撃ち込み弾薬切れを起こしたサブマシンガンを窓から投げ捨てるとハーブは耳を凝らした。
秒にして数秒の静寂の後、頭の上で絹を切り裂くような斬撃音がした。
「―ッ!?」
そちらを向くと、ジュージはマチェットで天井をくり抜き突進してきた。
ハーブは自らの首元を狙ったマチェットを辛うじてコルトパイソンの銃身で受け真横に転がり受け身を取った。
「正気かオンドレ…!びっくり人間コンテスト会場ちゃうで…!」
手早く体勢を整えたジュージは先ほどの返す刀でハーブの頸動脈目掛けてマチェットを振りぬく。ハーブはそれを床に転がっていたショットガンの銃身で辛うじて受ける。
「死線の境で…よくそんな口上がすらすらと出てくるものですね」
ジュージがさらにもう片方のマチェットを振り抜こうとしたがハーブは銃撃でその刀身を弾き、間合いを取る。
ハーブの射撃技術にジュージは一瞬愉快そうに顔を歪ませた。
「お前みたいな暗黒微笑の喰えん男を一人だけ知っとるで…!」
ハーブは懐から手榴弾を取り出すとそれをそのままジュージ目掛けて放った。
「腹黒度で言えば奴の方がダンチやけどな!」
(ピンを抜かずに…?しくじった?)
だがそれはミスリードだった。
ハーブは足元のチヒロシスターを片手で持ちあげ廊下に転がり出ると同時、中空の手榴弾目掛けて銃撃を放った!
派手な爆発音が響く。
そして、しばしの静寂ののち、ハーブは息を殺して暗闇の中の気配を探る。
と、途端にぶわっと冷や汗が反射的に額から噴き出すのを感じた。
背後からの凍てつくような殺気にハーブはほぼ当てずっぽうに銃撃を三発放つ。が、それはジュージのマチェットに遮られ乾いた金属音を鳴らしただけだった。
「クソッタレ!?お前不死身ちゃうんか!?」
「ふふ、よく言われますね!」
『ハァーーーーブ!』
唐突にヘリの飛行音がした。ヘリのサーチライトが半壊した館の三階部分を丸ごと照らす。紛うことなきサニーフィールド神父の声だった。
『”蛇”退治中のお前に
「…アホ抜かせェ!?大概にせえよクソ暗黒ド外道神父がァ!?」
轟音に次ぐ轟音。
最大で100発/秒の発射速度を誇る
それが住居に見境なく乱射されるのだから銃剣もへったくれもない。
永遠と思われる時間が過ぎ、やがて掃射は止んだ。
半壊した三階部分周辺は今や全壊となり、二階と一階部分にも大きな爪跡を残した。
「ゲホゲホ!」
少し離れた瓦礫からジュージは顔を出す。咄嗟に一階に退避する判断をしたところまで一緒だった。
「随分と無茶をしますね…あなたの上司は」
「言うたやろ…奴はネジの外れ具合がちゃうねん…」
ふふ、と微笑むジュージはマチェットを再度両手に構え直した。その笑顔はまるでスポーツを楽しんでいるようだった。
「…お前はそれとも少しちゃうな…純粋な抜身の狂気や」
「心外ですね…私はあなたと同じですよ…殺してでも信じたいものがある」
「はっ…キチガイと一緒にすんなや…殺すで?」
・ ・ ・
「シスター!シスター!大丈夫ですか?!」
ウィステリオの声に目を覚ますと同時に、腹部に激しい痛みが走った。
暗闇の中、夜風が頬を撫でる。どうやら屋外の裏庭の辺りにいるようだった。建物の中からウィステリオが運びだしてくれたのだろうか。
「つっ…!ウィステリオ…?コトリお嬢様は?!」
「サニーフィールド神父の指示通り隠し通路まで退避させました!」
「よかった…ハーブ神父は?」
「あ、あんなのの戦いに巻き込まれてたら命がいくつあっても足りませんよ…!」
ウィステリオは青い顔でそう訴えた。何かすごいひどいものでも見てしまったのだろう。可哀想に。
「そう…あの男もまだ生きてるのですね…それを聞いて安心しました…それなら…」
「はい!だからシスターも早く!」
「それなら心置きなくやれるというもの…」
ウィステリオの表情が一瞬固まった。
「は?…な、何言ってるんですか!?そんな満身創痍で何言ってるんですか!?さっさと逃げまフガファッ!?」
シスターはウィステリオの顎を片手でギリギリと締め上げた。満身創痍の状態とは思えない膂力だ。
「ウィステリオ…?あなた今逃げると言いました?」
「ひゃ…ひゃい…」
「
「れ、れもそのケガりゃ…」
「い・い・か・ら・地下からアレを持ってきなさい…」
「は、はいいい…!!」
ウィステリオは這う這うの体で建物の中へ舞い戻った。
「ふふふ…殺し屋さん…私の眼鏡を破損させたこと…死ぬまで後悔させて差し上げますわ…!」
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